テラーノベル
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恋なんて、分からなかった。
中学生になれば皆恋愛を楽しみ始める。あくまで、あくまで娯楽に過ぎない付き合い。
恋バナは確かに楽しかったけれど…ふと、思ってしまうのです。
中学生の恋愛なんておままごとでしかないと。
そう、思っていたのです。
「日向!待って日向! 」
声を荒げる。走りながら先にいる後ろ姿に声をかけるのは、中々辛い。
すっかり日が延びた空は、優しげな青空であった。
聞こえているのか、いないのか。相変わらず日向は止まってくれない。
「ドーナツ奢るから!タンマ!」
そう言った瞬間、動きがピタッと止まる。
日向…現金なやつめ。
「…ホント〜?」
「ホントホント!まじ待って!このせっかち!」
「やっぱ待つのやめようかな〜」
「待って待ってお願いだから」
ようやく追いついて、荒れた息を整える。
そうしている間、日向はただひたすら私のことを何も言わずに待ってくれていた。
ふと、夕日に照らされる日向を見上げる。
顔が影に隠れているせいか、普段の眩い元気さは鳴りを潜め、何処か儚い雰囲気で…そんな表情をしている。
美しい。ただ一言そう思った。
私一体、日向に何を思ってしまっているのだろう。こんなの友情に決まっているというのに。
「よし!ふっか〜つ!」
「じゃ、帰ろか」
「レッツゴー!」
私達は二人きりの帰路を歩き始めた。
こうやって当たり前に二人で帰って。何気ない日常を送り続けて。
気づけば3年生になっていた。
受験が待っている。きっと、日向と道は交わらないであろう。一番側にいる私がよく分かっている。
認めたくない。もっと一緒にいたい。
私を選んで。私だけを見て。私のことを愛して。私と共に生涯を終えて。
歪んだ想いが溢れてとまらない。
放課後の青空はこんなにも清々しいというのに。
夏を迎えつつあるこの頃、最後の大会は中央地区1回戦敗退という結果で終わった。
日向が入るから入った部活。日向と一緒に居たいという不純な動機なのは認めよう。
でも私は私なりに努力はしたし、ちゃんと後輩らしく先輩らしく振る舞えたと思う。
そんな事を考えていると、 熱の籠もったアスファルトにポタリ、と汗が流れ落ちた。隣にいる日向も暑そうだ。
「今日もあっついね」
「ホントだよ!このままじゃ熱中症になるって」
日向が汗を拭きながら言う。
私は日向の汗の行方を蝉の鳴き声と共にぼんやりと見つめていた。
この時間が永遠に続けば良いのに。
時の流れとは残酷なもので、夏休みに入っていることに気づけなかった。
嬉しいような、君会えなくてもどかしいような生ぬるい時間だけがただただ過ぎていく。
あんなに頑張っていた部活はもう終わってしまって、汗だくで駆け回ることはなくなった。
寂しいような感じがほんのりした気がする。
受験に向けてひたすら勉強する。週に何回も何時間も塾に向かう日々は夏にしてはつまらないような思いが巡った。
思い出を作ることすらなく、送り合うメッセージだけが心の拠り所で。
私に話してくれる全てが嬉しくて、時に苦しいように感じて。
告白されて断った話を聞いたときは誰よりも納得の結果だと思って。最低ながら相手のことを笑うことにした。
私は告白なんて、できないさ。
この夏は一度だけ。君と同じ学舎で生活できるのは今年度だけ。
進展なんてないまま、ネットで恋みくじ引いて、勉強して、LINEして。
少しずつ夏は過ぎっていった。
くだらないことで笑い合った日々。会うことはできなかった日々。
お互いに忙しかったさ。でも良い、そんな夏は今日で終わりなんだから。
8月31日。この日を過ぎたら夏が終わってしまう気がするのは何故だろう。
9月に入ろうが暑いものは暑いと言うのに。
戻らない虚しさと帰ってこないもどかしさだけが心にジワジワと染み付いていた。
夏の終わりは案外儚くて寂しくて、恋の始まるには遅すぎて。
嗚呼、恋の味って柑橘類な気がする。
甘酸っぱくて癖になる味。でも、ほろ苦くて少し嫌になる味。甘夏、みたいな。
たった一言、一言が言えないんだ。
蝉の鳴き声とニュースキャスターの声が右から左へ流れていく。
今日で君を想い続けながら、アイスとスイカを齧るお祖母ちゃんのお家ライフは終了だ。
とても楽しい、味気ない夏休みである。
太陽は…いや、地球か。私の気も知らずに周りを回り続けていた。
この空が一度闇に染まって、光に満ちた時。何もかもが手遅れなのを私は自覚してしまうだろう。
まだ間に合うような気がする。
でも、伝えはしないさ。
多分、これは罰だ。初めて渦巻いた感情に目を逸らし続けた末路だ。
昔から。そう、昔から。君が頭から離れることはなくなってしまって。
私は甘夏の呪いに呪われて。
君は私の視界から、桜と共に攫われてしまうのだろうか。なんて、寂しいんだ。
未練しか残らないのは、きっと性根が美しくないからなのだろう。
結局こんなに想っていても何も変わらないのだし、日向に聞いてみようか。
ねぇ、日向はどんな男子がタイプなの?
艷やかな髪を夕日を背景に揺らしながら、日向は何と答えてくれるのだろうか。
これは、9月1日の季節外れな恋。
コメント
1件
作者のぬんです! 色々言ったくせに全然投稿できてなくて申し訳ないです… これも1日に出す予定だったのに遅くやってしまって… 兎にも角にも!この作品の夏の終わり感を感じてもらえたら嬉しいです。 本編更新頑張ります! 次回もお楽しみに〜