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おかしい、どうしてこうなったの?
思いながら、わたしは今、目の前に笑顔で座る楸先輩の顔をチラ見した。
お昼時、クラスの友達と入った学校の食堂。
注文した日替わりランチが出てくるのが一番遅くなったわたしが、先にテーブルを取りに行った友達のところに急ぎ足で向かったその場に、楸先輩が待ち受けていたのだ。
彼女はわたしの友達と何やら談笑しており、私の姿に気づくと、
「あら、カネツキさん。遅かったですね」
そう言って、にっこりと微笑んだ。
その微笑みは傍から見ればとっても可愛らしいのだろうけれど、先ほどもう関わらないようにしようと心に決めた私にとっては、
「……なんで」
ただただ、この場から逃げ出したい気持ちにさせただけだった。
しかもご丁寧に、楸先輩の目の前の席が空いていて、
「さぁ、どうぞ。席はそちらです」
その空いた席を勧めてきた。
わたしは楸先輩の隣に座る三人の友達――ユキとその向かいに座るカナタ、カナタの隣に座るミツキの顔を順々に見ていき、楸先輩に抵抗するようにミツキの向かいに足を向けたところで、
「――カネツキさん」
楸先輩がやや低めの声で口を開いて、
「席は、こちら、ですよ?」
すっと目の前のテーブルを指差した。
その口元には相変わらず優しげな微笑みを浮かべていたが、けれど眼は全然笑っていなくて。
彼女の灰色の瞳には、不思議な虹色の光が差しており、それが妙に威圧的で恐ろしく、
「……はい」
わたしは渋々ながら、彼女の目の前の席に腰を下ろした、というわけだ。
楸先輩の目の前のトレーにはきつねうどんが置かれていて、まだ箸をつけていなかった。
わたしが席に着くのを確認してから、楸先輩は箸に手を伸ばして、
「それじゃぁ、いただきます」
ちゅるんっと一口、うどんを啜る。
わたしはちらりと三人の友達に顔を向けたが、彼女たちはまるで気にするふうもなく、そればかりか、わたしや楸先輩など無視するように談笑を始める。
なんとなく、私たちの姿が見えなくなってしまったように見えるのは気のせいだろうか。
「お友達は、カネツキさんが魔法使いだってこと、知っているんですか?」
突然、楸先輩に訊ねられて、わたしは一瞬口籠りつつ、
「あ、いえ。知りません」
小さく答える。
だって、ママがわたしが魔法使い――魔女だってことは、皆に秘密にしていなさいって言っていたから、誰かに話したことなんて一度もなかった。
「そうですか」
楸先輩は頷いて、再びうどんをちゅるんっと啜る。
しばらくの沈黙。
わたしもランチの味噌汁を啜った。
それから恐る恐る、楸先輩に訊ねる。
「楸先輩も、魔女だってことは」
「そうですね、一応、秘密にしてますよ」
「……一応?」
「はい、一応」
それ、どういう意味だろうか。
けれど楸先輩は、それ以上の事は教えてくれなかった。
代わりに、はふはふ言いながら、薄い油揚げを口に頬張る。
どうしよう、これ以上何を話したらいいんだろう。
いや、そもそもわたしはもう、この人とは関わらないようにしようと決めていたのだから、別にわたしの方から話をふる必要なんてないはずだ。
このまま黙って食事をして、さっさとこの場から去ってしまおう。
思いながら、わたしは刻んだキャベツに箸をつけて、
「そう言えば、カネツキさんは誰から魔法を習ったんですか?」
再び問われて、手を止める。
「あ、はい。ママ――母から、教わりました」
「へぇ、お母さんから。お母さんも魔女ってことですよね?」
「えぇ、まぁ」
ふぅん、楸先輩はこくこく頷き、
「そうですか、そうですか」
繰り返し言って、ちゅるちゅると残りのうどんを口に含んだ。
わたしはそんな楸先輩の様子を黙って眺めていたのだけれど、やがて彼女はうどんを食べ終わり、やおらトレーを持って立ち上がると、
「ごちそうさまでした。それじゃぁ、またね。カネツキさん?」
にやりと不敵な笑みを残して、そのまま背を向け去っていった。
わたしは何が何やら解らないまま、楸先輩が食堂を出て行くまで、その後ろ姿をぼんやりと眺めていることしかできなかった。