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それから数日後、私は石油採掘を開始するためにダンジョンを訪れました。
『ふむ、内部で燃焼させてその蒸気によりプロペラを回し電気を、動力を生み出す機械か』
「その様です」
私は『帝国の未来』を片手に、蒸気機関についてマスターに説明していました。大雑把なことしか分かりませんが。
『そして、その液体は更に効率が良い機械に必要であると。良かろう、この部屋と黒い水の泉を分けよう』
「可能なのですか?」
『ダンジョン内部を如何にするかは我の権限、造作もない。またそなた以外の者は我が恐ろしいであろうな』
「こんなに興味深い方なのに」
『そう感じるそなたが稀有な存在であることを自覚することだ』
「むぅ、納得がいきませんがマスターがそれで良いなら」
『それよりも、本日も学びの時間だ』
「よろしくお願いします」
折角なので魔法の修行を受けました。
翌日、ダンジョンの入り口を潜ってすぐに分岐道が出来ており、右側がマスターの居る大広間、左側が石油の泉に繋がっていました。早速ドルマンさん達に依頼して製作した『ライデン社』規格の樽に石油を次々と詰め込み、今回用意した樽十個全部に詰め込みました。
……全く減りませんね、これ。どれだけ取れるか逆に気になりますね。
「追加で作っとくよ。この分なら何年も採取できそうだな」
「お願いします、ドルマンさん。今回用意した分は港に運んでください」
荷馬車はマーサさんが用意してくれました。現在『ターラン商会』は内紛中、まだマーサさんは粘っています。
そこで、私は取引の全てをマーサさんの派閥のみと行うようにしました。所謂兵糧攻めですね。
ただ、これは全体を見れば『ターラン商会』そのものの体力を削っていくという意味でもあるので、マーサさんが『暁』に来るのは時間の問題です。
作業が終わると私は手すきの幹部を広場に集めました。
「セレスティン、数日空けますよ」
「政務のほうはお任せを。先の戦いで得られた難民も続々と到着しておりますが、如何なさいますか?」
「先ずは暖かい食事と雨風を凌げる場所を提供してください。それから適性と本人の希望を踏まえて配属を決めてください。これはセレスティンに任せます」
「御意のままに」
「犯罪や裏切りについてはどうしますか?」
聞いてきたのはエーリカ。まだまだ病み上がりで本調子ではありませんが、衣服の仕立てを行いつつ白光騎士団として農園の警備を任せています。具体的にはマクベスさんの補佐ですね。
「ルールに則って、粛々と裁いてください。裏切りは絶対に許しはしませんが」
「分かりました、お嬢様。そのときはお任せください」
「任せますよ、エーリカ」
「お嬢、何処にいくんだ?」
ベルが聞いてきます。そう言えばまだ伝えていませんでしたね。
「アークロイアル号の処女航海を予定しています。目的地は帝都港にある『ライデン社』の倉庫です。積み荷は、石油。初めての取引ですから私も同行しようかと」
「なら俺もいく。問題はないな?」
「はい、貴方は護衛ですから」
「俺は?シャーリィ」
ルイの質問が来ました。いつもは公私混同を避けるために留守を任せるのですが、久しぶりの帝都。思うところもありますから……側に居て欲しい。
「一緒に行きますよ」
「あいよ」
「お姉さま、帝都へ赴かれるのですか?」
「最初が肝心ですからね。レイミはどうします?」
「ご一緒しても?」
「もちろんです」
「……」
じっと見つめてくるアスカ。
「アスカも行きましょうか」
「……ん」
まるで観光気分ですね。もちろん帝都には入らずに港だけにします。黒幕は間違いなく帝都に居ますからね。
今回は大事な取引なので仕方なく、です。
「シャーリィ、貴女は船から降りないように。幼い頃の面影はあるのですから」
「はい、シスター」
「妹さんも、同じくです」
「承知しています、シスター」
「ちゃんと無事に帰ってくるのですよ。留守は任せなさい」
「はい、シスター」
会議を終えて参加していない人に周知をお願いしたら、皆は旅支度を始めます。
私は一足先にベルと一緒に港湾エリアへ向かいました。石油を積めた樽と一緒に馬車に揺られての移動です。
……お尻が痛くなるのが難点ですが……トランスミッション?ふむ、戻ったら試してみますか。
「暇な時はいつも読んでるよな?お嬢」
「愛読書ですからね」
もちろん移動中は『帝国の未来』を読み込みます。何度読んでも理解不能ですが、少しずつ試していくと他の技術もぼんやりと理解できたりします。技術には繋がりがありますからね。
港につくと、海賊衆が慌ただしく行き交っていました。
「こちらが積み荷です。お願いしますね」
「へい!運ぶぞぉ!」
体格に恵まれた水夫の皆さんに石油入りの樽を受け渡します。
……結構重い筈なんですけどね。一人で樽ひとつを軽々と抱えてる……わんだほー。
「船乗りは力持ちだよなぁ、お嬢」
「ベルは持てますか?」
「持てるとは思うけど、あんなに動き回るのは勘弁だな」
慌ただしく行き交う水夫達の邪魔をしないように私達は桟橋を歩いてアークロイアル号へと近付きました。先ずその巨体に圧倒されます。百メートルはあるのではないでしょうか。
そして大きなマストがあります。まだ帆もついていますね。
「途中で燃料が切れたら最悪だな」
「帆あるので航海はできる筈ですよ」
「おや、もう来たのかい?」
ベルと話していると甲板からエレノアさんが顔を出しました。
「はい、一足先に。他の皆さんは午後に来る予定ですよ」
「準備はしっかりね。船が大きくなってるから余裕はあるよ」
「航海の予定は?」
「そうだねぇ、スペック通りなら二日もあれば帝都に着くよ。今回は処女航海だからちょっとゆっくり行くつもりだよ」
「二日間の船旅ですか。個人的には興味深いです」
「ゆっくり楽しんでおくれよ。さあ、乗りな」
私達はエレノアさんに招かれてアークロイアル号に乗り込みました。広々とした甲板を水夫達が行き交っています。
「積み荷は甲板の下に格納するつもりだよ。大砲がたくさんあるけど。これは何れ全部降ろすつもりだ」
「なんだ、無防備にするのか?」
「違いますよ。うちにある野砲を代わりに積み込む予定です」
「なんだって?」
だって、船の大砲はどう見ても古い。丸い砲弾で爆発もしない。それなら数門野砲を積み込んだ方が威力もありますからね。
いつかは『帝国の未来』にある巨大な艦砲を開発したいところです。『ライデン社』に期待したいですね。
私達はエレノアさんに船室へ案内されながら軍艦の未来に想いを馳せるのでした。いよいよ出港です!