テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
すでに見慣れた黒塗りの高級車に乗り、僕達は指定されたレストランに直行した。見たこともないような高いモノが食べれる。楽しみで仕方なく、ヨダレで溺れそうだった。
僕の右隣には、頬杖をついて外を見ている光兄ちゃん。広い車内に二人だけ。兄と二人きりになるのは本当に久しぶりだった。
「兄ちゃん。……最近、どう? やっぱり忙しい?」
無言に耐えきれなくなり、話を振ってみた。
痩せていて、前髪で右目は隠れている。昔から物静かで、みんなが認めるザッ!陰キャが僕の兄だった。ただ恋愛ゲームを僕に勧めてくれて、新しい道を示してくれた指導者でもある。今は、感謝しかない。
「う~ん。普通かなぁ。ゲートが開いたりすると少し忙しい……。天馬は何かあった?」
「えっ……僕は……。あっ! 彼女が出来た。兄ちゃんも知ってるでしょ? 弁当屋の望」
兄の眉毛がピクッと動いた。車窓から外の夜景を見ながら、
「そっか。良かったな。おめでとう」
不器用な兄。だけどいつも僕のことをシンプルに応援してくれる。ありがたい。
「兄ちゃんは、その……現実の彼女とか作らないの?」
「俺は……今は…疲れるから彼女は良いかな。あれこれ指図されたくないし」
正直、実の兄でありながら僕は未だに兄と言う人間が何を考えているのか分からなかった。
「あ…そうなんだ…」
「………………」
「…………………」
僕の知っている兄ちゃんは、人類に貢献したいなどと考える行動力のある熱い人間ではない。いつも冷めていて、周りに流されて生きているような印象。だから不思議だった。どうして危険な魔物討伐を自分の意思で今もやっているのか。
「着いたみたいだよ」
車が止まると、看板すら出ていないレストランの前に着いた。洋館風の外観で一目でバカ高い店だと分かった。
スキップしそうになる自分を抑え、薄暗いレストランの中に入ると、すでに姉ちゃんや一二三、望が僕達を待っていた。
「あ、光も来たんだ。来ないと思ってたから、お夕飯作って冷蔵庫に入れて来たのに」
「何を作った?」
「鮭チャーハン。卵スープもあるよ」
「………旨そう………帰ってから食うわ」
「そっ」
すぐに周りに興味を無くした兄は、スマホで競馬のギャンブルをしていた。
「天馬は、ここに座りなよ」
望の隣。指差す場所に座る。すると望が猫のように僕にすり寄ってきた。
「おいっ! みんながいるし、今は」
そんな僕達の様子を見ていた姉。兄から離れ、ゆら~りと幽鬼のように近付いた。
「……………天ちゃん。今日は、やけに栗谷さんと仲良しじゃない?」
目は笑っていない。
「夕月さん。私達、付き合うことになりましたから」
「つ、つ、付き合う?……………ほ、本当なの? つまらない冗談は嫌いだよ、お姉ちゃん」
「本当だよ」
頷いたが、姉の顔を恐くて見れなかった。
急にやつれた姉は、僕達から離れると両手を口に当て、
「助けて、神様っーーーーーー!!!!」
悲痛の叫びをあげていた。それを面白がった望が追い討ちをかける。
「これからも宜しくお願いしますね。お姉さ~ん?」
「こんな妹、イヤだよ……うっ…うぅ…」
泣いて落ち込んでいる姉にクズの一二三がここぞとばかりにハンカチを差し出し、優しさアピールしている。
「大丈夫ですか? 夕月さん。俺が相談に乗りますよ」
「………一二三君。ありがとう。じゃあ、一つお願いしても良い? 今は、一人にしてください」
「そんなぁ」
振られた一二三は、テーブルに突っ伏してふて寝してしまった。
フルコースの料理は最高だったが、僕達を呼んだ六条院がなかなか現れない。デザート、食後のティーをしているとやっと現れた。
「今宵は集まっていただき、ありがとうございます」
「大事な話ってなんだぁ? 早く帰って寝たいんだよなぁ」
「……………」
六条院の能力。一二三の足元から真っ黒な手が伸び、一二三の口を塞いだ。
「二三十分、静かにしてて。一二三君」
「おいっ! いきなりなんだよ、六条院」
僕は席を立ち、六条院に駆け寄った。
「天馬君。この前、僕の家で見たミイラ覚えてる?」
「あぁ……目から光線出るミイラね」
「そう。キミが頭を潰したミイラ。あのあと、ミイラの残骸を処理してもらってたんだけど、面白い物を見つけたんだよ」
六条院は、青いハンカチに包まれた物をテーブルに出した。
「………ん? なんだ、これ」
「これって、銀歯じゃない?」
「そうだよ、銀歯。これが潰れたミイラの口から出てきたんだ」
銀歯? え………うん?
どういうこと? あれは、魔物だろ。魔界にも歯医者があるってこと?
「へぇー。そっか。つまり、あの魔物は『元人間』ってことね」
姉ちゃんは、六条院を真っ直ぐ見つめていた。『元人間』その言葉を聞き、全身に寒気が走った。それは、このあとに待つ答えをなんとなく察したからだと思う。