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2話『崩れはじめた沈黙』
葬儀が終わったあと皆の足取りは
学校へと向かっていた
その後も誰もすぐには帰ろうとしなかった。
いや帰れなかった、の方が正しいのかもしれない。
黒瀬刑事の言葉が、まだ空気に残っていたからだ。
「……解散、でいいよな」
誰かが言った。
けれど、その声に力はなかった。
視線が交わるたびに逸らされる。
まるで、互いに“疑っている”みたいに。
「ねえ」
そのとき、七海が口を開いた。
「……みんな、本当に覚えてないの?」
空気が凍る。
「なにを」
誰かがぶっきらぼうに返す。
「“あの1年間”のこと」
やめろ。
その言葉を、誰もが心の中で叫んだ。
「……なんもなかったやろ」
低く言ったのは、元野球部の大地だった。
「ただの1年間や」
「じゃあ、なんで」
七海の声が震える。
「なんで、あんな紙が入ってたの?」
答えられる者はいない。
沈黙の中、ひとりの男がスマホを握りしめていた。
佐藤 恒一。
クラスでも目立たない存在だった男。
その手が、小刻みに震えている。
「……俺、帰るわ」
そう言って、足早にその場を去ろうとした。
「待って」
七海が呼び止める。
「なんでそんなに焦ってるの?」
「別に……焦ってねぇよ」
声が裏返る。
その瞬間だった。
ピコン
全員のスマホが、同時に鳴った。
一斉に画面を見る。
そこには、見知らぬアドレスからのメッセージ。
『一人目は終わった』
空気が、完全に壊れた。
「……なに、これ」
誰かの声がかすれる。
続けて、もう一通。
『次は、お前だ』
その“お前”という文字だけが、なぜか赤く表示されていた。
「……誰に送ってんだよこれ」
大地が苛立ったように言う。
だが、その直後。
「あ……」
小さく声を漏らしたのは、恒一だった。
「どうした」
恒一は、スマホを見つめたまま動かない。
顔から血の気が引いている。
「……俺の名前、書いてある」
一斉に息を呑む音。
保谷東
9,264
193
眠狂四郎
「は?」
「“次は、佐藤恒一”って……」
誰かが笑おうとした。
けれど、笑えなかった。
それが“冗談じゃない”と、全員が分かっていたからだ。
「ふざけんなよ……!」
恒一が叫ぶ。
「こんなの、誰かの悪ふざけだろ!?」
そのときだった。
「……悪ふざけ、ね」
背後から、低い声。
振り返ると、黒瀬刑事が立っていた。
「随分と都合のいい言葉だ」
誰も動けない。
「一人死んで、全員に同じメッセージが届く」
黒瀬はゆっくりと歩み寄る。
「これを“悪ふざけ”で片付けるには、無理があると思いませんか?」
誰も、答えない。
黒瀬の視線が、一人ひとりをなぞる。
「……もう一度聞きます」
静かな声だった。
けれど、逃げ場がなかった。
「五年前、あなたたちは何をした?」
沈黙。
風が吹く。
遠くで、カラスが鳴いた。
そのとき。
「……違う」
ぽつりと、声が落ちた。
全員の視線が集まる。
声の主は——七海だった。
「“私たち”じゃない」
「は?」
七海はゆっくりと顔を上げる。
その目には、涙が滲んでいた。
「……“あいつ”が、勝手に……」
その瞬間。
バキッ
どこかで何かが割れる音がした。
全員が反射的に振り向く。
校舎の窓ガラスが、一枚だけ砕けていた。
誰も触れていないのに。
風も吹いていないのに。
そして、割れた窓の向こう。
そこに、“誰か”が立っていた。
制服姿の影。
顔は見えない。
でも、確かに“こっちを見ている”。
「……嘘だろ」
誰かが呟く。
その影は、ゆっくりと口を動かした。
音は聞こえない。
でも、確かに読み取れた。
『思い出せ』
次の瞬間、影は消えた。
誰も動けない。
誰も、声を出せない。
ただ一つ、確かなことがあった。
“あの1年間”は、まだ終わっていない。
そして——
次に壊れるのは、“恒一”だ。