神様だって知らない噺2
『 冬梅(ドンメイ)教官 』
『 やぁ、君かい 』
…自分を受け持つ教官以外に話しかけるのはいつも緊張する。
割と他の教官よりフランクな毛利教官に対して…
この女教官もまた子供に対しては優しげな言葉を使うがその言葉には言いしれぬ圧もまた感じる。
彼女の班の子供は皆、彼女を【Mom】(母)と呼んでおり…
異常に彼女に対して信頼を寄せている。
彼は、そんな彼女が苦手だった。
『何か私に用かな
質問があるなら大抵のことは毛利が答えられるだろう?
最適な相手との距離の潰し方、銃のバラし方、ナイフ術…』
『………』
『……私が君に答えてあげられることと言えば…ただ一つ、かな』
『…あの…っ』
『ここじゃあ、ゆっくり話が出来ないね
おいで』
ロングコートを翻し、
冬梅教官は彼を誘う。
連れられたそこは……尋問室。
『さぁ、お座り
甘いものは好きかい?私の子供達は皆ここのケーキがお気に入りでね
君は紅茶派?それともコーヒー派かな?
大人ぶりたいとみんなコーヒーを飲んでみたがるが眠れなくなってしまうから少しだけだよ』
内側から鍵をかけ、
無機質な机に並べられたのは…子供が喜びそうなケーキにコーヒーがふたつ。
教官は始終微笑を崩さずに目の前に座る。
…ここに、桜色のあの子はいない。
『………あの子は……特別な子、なんですか?』
『君達はみんな、特別な子だよ
…そうだなぁ…あの子の場合は…新たな試みってところだろうか』
『試み…?』
『良いアサシンとは、殺しの技術が全て一級品…
理想的だね
実際に今期はみんな優秀だ 恐ろしいくらいに
君もね』
そう微笑みながら見つめる。
『だが、果たして…殺しが長けているのが一流の殺し屋だろうか
技術?腕っぷし?相手を傀儡にする美貌?獣のような覇気と闘争心?あぁ、みんな確かに大事だ
……だけどそれはフツウの世界ではあまりにも目立ち過ぎる
君らは、フツウに生きるのは難しい』
ブラックコーヒーに角砂糖がひとつ。
『例えば……脅威になり得ないと思ってる存在が側にいるとしよう
それは君の親友かもしれない
きょうだいかもしれない
仲間…同僚かもしれない
家族、はたまた恋人かもしれない
どんな人間もずっと気は張れない
人はね、油断するんだよ
力や技術がなくてもいい
美しくなくても好かれていればいい
……そんなアサシンも、いたっていい』
角砂糖がふたつ。
『あの子を見た時にそんな可能性を感じた
…いや、アレはアレで才能かもしれない
こうして、君が来た事もまた証明だろうね』
角砂糖がみっつ。
『最凶の弱者…狩られるその瞬間まで、
誰も疑わないアサシンにあの子を育ててみたいんだ
……さて、これは別に君が考えてるあの子の話っていう保証はないよ』
甘口になったコーヒーを少年に渡すと、
彼女は自身のコーヒーに再び口をつける。
『ケーキを食べたら帰りなさい
毛利には内緒だよ』
真っ白なクリームにフルーツが乗るケーキ。
『…あの子も、そのケーキが好きなんだよ』
『っ、あの…また会えますか?』
『さぁ…どうだろうね
私は子供には残酷な約束はしないんだ』
ピンク色の髪の少年に、
彼女は飄々としながら
【希望】(絶望)を植え付ける。
end
コメント
4件
好きすぎます!
いつもコメントありがとうございますうううう! 続けられるよう頑張ります💪
天才ですか?あ、天才か