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登場人物
私(ナレーション兼):喧騒の中で自分の心の置き場所を見失いかけている女性。
彼:隣でカウントダウンを待つ、私のパートナー。
フードの女性:交差点に立ち、静かにベルを鳴らす不思議な人物。
【冬の交差点・深夜】
(大勢の人のざわめき。信号の電子音。電光掲示板が切り替わる微かなノイズ)
私(N):街を歩く。人がいて、物があふれていて、相変わらず忙しなく光る交差点。めっきり寒くなってきて、人はそれを「やさしさだ」とどこか勘違いしたくなる季節。電光掲示板には、よくわからない数字がカウントされていた。
私:「……あぁ、カウントダウンか」
私(N):私は交差点で、隣の彼と手をつなぎながら数字が減っていくのをただ眺めていた。一年の終わりを感じようとしてみても、胸の奥には何も残っていない。忙しい毎日と、忙しい恋愛で、気づけば自分の心の置き場所さえ忘れてしまった一年だった。
(カウントダウンの数字が刻一刻と減っていく)
私(N):数字が0に近づくにつれ、彼は私の手をぎゅっと握り、キスをしようと顔を寄せる。私は恥ずかしくなって顔をそらした。
(顔をそらした瞬間の、スローモーションのような静寂)
私(N):――その瞬間、視界いっぱいに広がったのは、同じように寄り添う人たち。けれど、なぜか笑顔より涙が多い。頬を伝うのは寂しさ? 悔しさ? それとも、言葉に出来ない何か?
(すすり泣く声、遠くの叫び、不穏なざわめきが混ざり合う)
私(N):すすり泣く声。誰かの叫び。温度のわからないざわめき。私は理由がわからないまま、彼の手を振りほどき、駆け出した。
(人混みをかき分ける足音。電光掲示板の下へ)
私(N):電光掲示板のすぐ下には、ひとりの女性が立っていた。フードを深くかぶり、目線を落として手に小さなベルを持っている。
(澄んだベルの音:カーン……カーン……)
私(N):澄んだ音が交差点に響くたびに、喧騒が一瞬ふっとやわらぎ、耳に触れる世界が淡くほどけていく。私はその音に吸い寄せられるように立ち止まった。胸の奥に空いていた隙間に、なにか静かな灯りがともった気がした。
私:「……そっか。私はずっと……気づけなかったんだね」
私(N):言葉がこぼれた時、まわりの風景がやわらかく揺らぎ、ざわめきも涙も怒号も、まるで遠い夢のふちのようにほどけていく。
私(N):その日、あの街は“終わり”を迎えたわけではなかった。ただ、そこにいた人たちが、それぞれの「つづき」へ進む合図を受け取っただけだった。私たちは知らないまま、いつもどこかで“次の章へのカウントダウン”を生きているのかもしれない。