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俺の名はダレイ・パイレント 刑事だ
今、訳あって深夜2時なのに関わらず、とある人物に呼び出されたのだ
場所は、人並外れひっそりと佇んだ路地のBAR
店は明かりがついている。営業中のようだ
「あぁ!来てくださったのですね!」
「お前が呼んだんだろう?」
「ふふっそうでもしないと来て欲しい時に来て下さらないので、、、少しお時間下さい!お席でお待ちを」
「なんだそれ…分かった」
荷物を入口前に掛け、いつもの席に座る
初め来た時と店内もすっかり変わってしまっているな…
目の前のカウンターには、バーテンダーであるマイクが仕事の資料と睨めっこをしていた
「…なんて顔してるんだ」
「上からの命令で仕事が出たのですが…どうもめんどくさくて…」
「ほう…珍しいな。」
資料から目を離し、ダレイの方を見つめると
マイクは困ったように微笑んだ
「お客様ならきっとやり切りますよね。私は面倒くさくて…」
「いや…面倒だと感じたら受けない、成功させる事が大切だからな。」
「なるほど!お客様がそう仰るのなら間違いないですね、では断りましょう!」
資料を封筒に強引に押し込むと、マイクはダレイに向き合う
「さて!お待たせしました…と、お話の前にカクテルを…」
「またジン・トニックか…?」
「おや、嫌ですか?」
毎度の如くジン・トニックを呑んでいると飽きるものだ、
BARに来たのなら他にも飲んでみたい
ダレイが首を縦に振る
「でしたら、ショートカクテルなど如何です?、普段飲まれてるカクテルよりアルコールは強めですが…」
「何…?それは困るな…明日も仕事なんだ……やはりジン・トニックでいい」
結局決まらず,ダレイはいつも通りの注文をする
ロングカクテルは他にも種類が豊富だが……しかしショートを断るという事は…ダレイはお酒が弱いと言う事、と、マイクの中で答えが出た
普段石のような性格の彼がカクテルで面白変異したらどれだけ面白いだろう…
「……かしこまりました」
カクテルを作るマイクの口が密かに微笑んだ
「お待たせしました、ジン・トニックです」
中身もグラスがちょっと違うけれど…ぎりぎりバレないのでは…?と自分を感心する
(元々カクテルについてあまり詳しくないって仰っていましたし……多少の違いは分からないでしょう)
「………なんだこれ?」
しかし一瞬で疑われてしまう
まずい…このままでは飲まずに終わる…
バレてしまえば面白変異どころか、これから暫くカクテルすら飲んでくれなくなるだろう…
いつものように…対応すればバレないはず…とマイクは自分に言い聞かせ、ダレイの会話に答えた
「………今日はお洒落にしてみたんです」
「……お洒落?…いつも通りでもいいだろう?」
「BARと言えば雰囲気は大切です。それはカクテルもそう、たまには見て楽しんでもらいたくて…」
上手くまけた
このままの調子で行けば気付かず飲むだろう…
しかしダレイは刑事、相手の僅かな変化も見逃さない
「…ロングなのに、氷入れないのか?」
※ロングカクテルは氷が入っており、時間をかけて飲むカクテル。
ショートカクテルは氷が無く、ぬるくなる前に飲み終わらないといけないカクテル
度数の量はどちらも同じだが、ロングはソーダ等で割られている為薄い
ショートは割られていない
ショートの方がアルコールっぽい味
今日のダレイはしつこかった
グラスを手に持つが,飲もうとはせずじっくりと見つめている
視線がグラス越しにマイクとぶつかる
「……そうだマイク…そろそろ店も閉まる時間だろう?アンタも同じやつを飲んだらどうだ?」
「……!」
お酒を共に飲む誘いをされたのはマイクにとって、初めての事だ
嬉しいことだけど,これではダレイの様子を観察することが出来ない。
「……なんだ?飲まないのか?」
(さて、、どうしましょうか…)
正直、カクテルのいい所を飲みながら語るのも悪くは無い。
こんなチャンスなかなか無いだろうけれど、変異は滅多にないだろう。
凄く悩んだが…マイクは答えを出す
「いえ…仕事がまだ残ってるので私は遠慮しておきます…」
残念ですが…と、カクテルをまた飲む機会に僕から誘えば良いと解決を切り出した
「そうか、残念だな……カクテルの良さを飲みながら語ろうと思っていたのだが…」
「……」
「マイク〜!!!あんたいい加減あたいらの元に戻りなさいよ!!」
扉の音を鳴らし突っ込むように入ってきたのはグリード団、ミジミンだ
しかしミジミンの勢いは目の前の光景で瞬時に覚めたのだ
「ほぇ〜…こいつは驚いたよ…」
ミジミンの目線の先には
カウンターに力無くダウンしてるマイクと、優雅にカクテルを飲むダレイの姿があった
「う”っ……もう飲めない…」
「ッハ…まだ1杯だろう?」
ミジミンが店内に入り、ダレイとマイクの椅子の間に割り込む
「あらら〜…派手にバテちゃってんねぇ〜…何があったんだ?」
ミジミンがそう言う
ダレイは余裕そうに微笑むと最後の一口のカクテルを口に入れる
「知るか…こいつが俺を騙そうとしたのが悪い」
「…まさか気付いて…たんですか…ッ?」
カウンターに丸まり真っ赤になった顔を腕で隠しながら険しい顔でダレイを見つめる
すると目の前にあるグラスをネイルの施された細く白い指がヒョイっと持ち上げる
「ほーう?アルコール度数の強い匂いだね〜。あんたこんなの飲んだのか?」
「これくらい飲めると…思ってた…んです!」
「馬鹿だねぇ!酒は団の中でもあたいくらいしか飲まなかったじゃない」
大きな声で笑いながらそう言うミジミンをマイクは睨みつける
「ほう…お前飲めるのか?」
そんなマイクに気付かずダレイはミジミンの会話を繋げた
「当たり前さ!!何せ未成年の頃から飲んでたからね!」
得意げに胸を叩くミジミンだが、
横には鋭い目で見つめるダレイが居た
「お前…逮捕されたいのか?」
「あたいは一流の怪盗さ、あんたらなんかじゃ捕まえられないよ」
「まぁいい…こっちの仕事にお前達の逮捕状が出れば、すぐさま俺がお前を逮捕してやる」
「はいはい、んな事よりあたいもカクテル飲む!マイク!作ってよ!」
「その前に少しお水飲ませてください…」
マイクは立ち上がると、カウンターの裏へと消えていく
隣に座ったミジミンは無言でダレイの顔を覗き込む
「…なんだ」
「いーや別に?言いたいこと聞きたいことあり過ぎて面倒臭いくらいよ」
カウンターに肘をつき、ため息を吐き出しながら下を向く
「怪盗とやらは何を考えてるのやら…」
「この際何でもいいでしょ〜、語ろうじゃないか……そうだねぇ、今から飲むカクテルについてさ?、どうよ!」
「……悪くない」
顔も合わせず、ダレイは承知したのだ
今夜は怪盗と同じカクテルを飲み、良さを語ったのだ