テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「座って」
ひなを、準備室の椅子に座らせた。真崎と河合も、黙って見ていた。
「六月ごろ、お前、小野寺の話してたよね」
ひなは目を見開いた。
「……覚えてるんですか」
「いいから。あの子、グループから外されてたって言ってた。合ってる?」
ひなは、小さく頷いた。
「あたしも、その……止めなかったです」
「今はそれはいい。それから、おばあちゃんの家の話。隣町の。庭に大きい柿の木があって、小学生のころ毎年行ってたって。それも、お前が言ってた」
ひなは、口を開けたまま固まっていた。
真崎が、横で小さく言った。
「みずき、すごい」
すごくない。聞いていただけだ。
◇
「あのさ」
あたしは、三人に向かって言った。
「本当に消えたい子は、書き置きなんか残さない」
真崎が、はっとした顔をした。
「あれは、探されたい子が書くやつだ。探されたいなら、本当に危ないところには行かない。見つかるところに行く」
「……おばあちゃんの家」
河合が、ぽつりと言った。
あたしは頷いた。
◇
隣町までは、バスで二十分だった。
ひなと二人で行った。真崎は「三人で」と言ったけど、大人数で行くと、あの子が逃げる気がした。
おばあちゃんの家は、すぐに分かった。庭の柿の木が、通りから見えた。
縁側に、小野寺は座っていた。
制服のまま、膝を抱えて、木を見ていた。
あたしは、庭に入って、少し離れたところに立った。
小野寺が、こっちを見た。
「……藤代先輩」
「帰ろう。探してる人がいる」
「誰も探さないと思った」
「探してた」
あたしは、ひなのほうを見た。ひなは、泣いていた。
小野寺は、しばらく黙っていた。
それから、靴を履いた。
◇
その夜のうちに、小野寺は家に帰った。先生と親がバス停まで来て、あとは大人が引き取った。
帰りのバスで、ひなが言った。
「先輩、なんで分かったんですか」
「お前が喋ってたから」
「……あたし、そんなに喋ってました?」
「毎日な」
ひなは、しばらく黙って、それから、窓のほうを向いた。
耳が赤かった。
あたしは、見なかったことにした。
◇
月曜日。
準備室で、真崎がため息をついた。
「神隠しじゃなかったかあ」
「がっかりしてるみたいだけど」
「してない。無事でよかった。……でも、みずきは名探偵だった」
「探偵じゃない」
「じゃあ、何」
答えなかった。
ひなは、その日から、準備室に来る回数が増えた。昼休みだけじゃなく、放課後も来た。あたしの隣に座って、前より喋るようになった。
河合が、ふと言った。
「あれ、本気だよ」
「思春期の憧れだよ。あたしの見た目が、そういう形してるから」
「そうかな」
「そうだよ」
真崎が、本から顔を上げた。
「じゃあ、確かめれば」
「どうやって」
「みずきが、かっこよくない格好をしてみる」
あたしは真崎を見た。真崎は真顔だった。
「それで冷めたら、憧れ。冷めなかったら」
「……お前、本で読んだだろ」
「読んだ」
河合が、少し笑った。この三か月で、初めて見る顔だった。
だからあたしは、乗った。
冷めさせるためだ。本気になる前に、終わらせたほうがいい。あの子のためにも。
土曜日、真崎の家に集合、と決まった。
コメント
1件
読み終わったよ〜!😭💕 第10話、めっちゃよかった……!! 「本当に消えたい子は書き置きなんか残さない」って台詞、痺れた。藤代先輩、普段は淡々としてるのに、ちゃんと誰かの話を覚えてて動くところがめっちゃかっこよかった。ひなの耳が赤くなるところとか、河合が初めて笑ったところとか、細かい描写が刺さる刺さる…😢✨ 次、真崎の家でどうなるの!? 気になりすぎて今夜眠れないんだけど!?笑
#オフィスラブ
湊未来
646
管野アリオ
37
月白
2,415
#かざね