テラーノベル
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それでは本編どぞ
第14話「甘蜜」
「紺くん、ずっと待ってた」
広い空間の真ん中で、聞き覚えのある、だけどどこか酷く冷たい声が響いた。
そこにいたのは、紛れもない――蜜流だった。
だが、その両目には、おぞましい文字が刻まれていた。
『上弦』『肆』。
「な、……っ」
頭の理解が追いつかない。なぜ蜜流がここにいる。なぜ鬼の、それも上弦の目をしている。呆然と立ち尽くす俺の身体を、突然、強烈な冷気が包み込んだ。
ギュッ、と。
細い両腕が、俺の身体を強く抱きしめる。
「は?」
思わず声が出た。意味が分からない。なぜ鬼が俺を抱きしめている。
「紺くん……紺くんだ……。俺の探してた、大好きな紺くん……。今度こそ、絶対に逃がさない。……僕を置いて行くなんて、酷いよ」
耳元で囁かれる、狂おしいほどの執着。俺はゾッとして、全力であいつの身体を突き放した。
「何言ってるんだ、お前は蜜流じゃない……!! 蜜流はどこなんだよ!!」
「僕は蜜流だよ? でもね、新しい名前をもらったんだぁ。紺くん、改めて自己紹介するね。僕の名前は――甘蜜(かんみつ)。よろしくね」
ふにゃりと無邪気に笑うその顔は、あの日の蜜流の面影を残したまま、完全に化け物のそれに成り果てていた。
「うるせぇ……! 何が何でも、お前は許さない……!!」
悲しみと怒りがごちゃ混ぜになりながら、俺は青藍色の刀を強く握り直した。
――蜜ノ呼吸・陸ノ型:六角の蜜房(ろっかくのみつぼう)
寸分の隙もない強固な連撃。しかし、刃を肉体に叩きつけた瞬間、骨が軋むような衝撃が手元に返ってきた。
(硬い……っ! 一応切れるが……なんて硬さなんだ……!)
「痛た、手切れちゃったぁ……。でもね、僕、紺くんがいなくなってから、ずっと寂しくて、寂しくて……。それで、君の代わりに、村の奴らにずっといじめられてたんだよ?」
「え……っ」
「だから、鬼になったんだ」
甘蜜の身体から、無数の鋭い針が雨のように噴き出す。
――血鬼術:蜂針・甘雨(ほうしん・かんう)!!
ダダダダダダダッ!!!
「い”っ…………!?!?ガチャッ」
全身に鋭い針が突き刺さり、凄まじい激痛が走る。針に塗られた猛毒が、瞬く間に俺の血管を駆け巡り、内臓を麻痺させていく。
「可哀想……可哀想に、紺くん。大丈夫、すぐに毒が回るから……。安心して、僕の中で、永遠に眠ろ?」
膝がガクガクと震え、視界が急速に闇に染まっていく。
(うそだろ……この俺が、負け……た……?)
「あはは! 僕の勝ちだね、紺くん! これでやっと、ずーーーっと一緒にいられるよ。もう誰も、僕たちを引き離せないんだから……!!」
勝ち誇る甘蜜の顔を見上げた瞬間、俺の胸の奥で、残り火のような執念が爆発した。
(ふざけんなくそったれ……! 何が負けだ……! 俺は……俺は一生頭の上がらねぇ、英雄になるんじゃなかったのかよ……!!)
「おい、蜜流」
俺は残されたすべての力を振り絞り、地を蹴った。水が激流となるように無数の残像を生み出し、全方位から一瞬で切り刻む、俺の最大大技。
――蜜ノ呼吸・捌ノ型:万華鏡・蜂群崩し(まんげきょう・ほうぐんくずし)
パリィィィィィン!!!
限界を超えた威力に耐えきれず、青藍色の刃が今度こそ粉々に砕け散る。だが、その折れた刃の先は、確かに甘蜜の肉体を捉えていた。
「え……?」
「わっ……肩をやられちゃったかぁ。まぁ、でも、もう死ぬでしょ紺くん。大丈夫だって、すぐ楽になるよ」
甘蜜は肩から血を流しながらも、狂気的な笑みを崩さない。ゆっくりと俺の首へ手を伸ばしてくる。
「一生、僕の、中に――」
グサッッ!!!
「が……っ!?!?」
肉を貫く鈍い音が、無限城に響き渡った。
甘蜜の胸の真ん中から、一本の鋭い刃が突き出ている。背後から、何者かが容赦なくあいつの心臓をブチ抜いたのだ。
「が、はっ……あ、れ……?」
血を吐きながら崩れ落ちていく甘蜜の姿を、俺はただ目を見開いて見つめることしかできなかった。
守りたかった、たった一人の友達。
その命を、俺の手で、逝かせてやることすらできなかった――。
第十四話完
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コメント
5件
うわ……これは衝撃的でした。まさか蜜流が上弦の鬼になってるなんて。しかも「村の奴らにずっといじめられてた」って、あの優しかった蜜流がそんな理由で鬼堕ちしてたんですね……。紺くんへの執着が狂気に変わってしまったのが本当に切ない。最後の「その命を、俺の手で、逝かせてやることすらできなかった」が心に刺さりました。守りたかった友達を守れなかった無念さ、ひしひしと伝わってきます。次の展開が気になります……!