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その日、謙杜は朝から様子が違っていた。
笑ってはいたが、目が笑っていなかった。
冗談を言っても、声のトーンが低かった。
駿佑:「お前、熱あるんちゃう?」
駿佑が心配そうに言ったが、
謙杜:「いや〜寝不足なだけやって! 昨日、アニメ一気見してもうてん」
と、いつも通りのテンションで誤魔化した。
でも、誰にも見せていなかった。
昨夜、メモ帳にこう書いたことを――
「明日、ちゃんと最後まで笑えるかな」
「誰かに気づいてほしかったけど、気づかれたら嫌われる気がして怖い」
「……そろそろ、限界かもしれん」
放課後、謙杜は寄り道もせず、まっすぐ帰宅した。
シェアハウスにはまだ誰も帰ってきておらず、静かだった。
キッチンに向かうと、冷蔵庫のメモに「今日は恭平くんと買い出し行ってきます!遅くなる!」と真理亜の字。
謙杜:「……今が、チャンスなんかもな」
呟いた声は、どこか遠くて、感情がこもっていなかった。
謙杜は、自分の部屋へ戻ると、カーテンを閉め、スマホの電源を切った。
そして、引き出しから黒い封筒を取り出した。
中には、“遺書”とも言える短い手紙。
「誰も悪くないよ。ただ俺が弱かっただけ」
「でも、最後にほんまのこと言わせてください」
「“誰かに認められたかった”だけでした」
手が震えていた。でも――
そのときだった。
玄関のドアが、ガチャッと開いた音がした。
和也:「たっだいま〜! あれ、誰かおるー?」
声の主は、和也だった。
和也:「謙杜〜? ……おる?」
一階を歩く足音が、ゆっくりと階段を上がってくる。
謙杜の部屋の前で、ピタリと止まった。
和也:「……入るで?」
ドアがそっと開いた。
和也:「……な、謙杜?」
和也の目に飛び込んできたのは――
カーテンの閉まった薄暗い部屋。
そして、手紙を握りしめ、首に縄をかけようとした謙杜の姿。
和也:「おい……お前、なにしてんねん……!!」
次の瞬間、和也は駆け寄って、謙杜を強く抱きしめた。
和也:「やめろや!! お前がどんな思いしてても、俺らを置いていくなや!!」
謙杜:「……大橋、くん……」
和也:「“元気キャラ”とか、“うるさい”とか、どうでもええわ。俺は、お前の全部知りたいねん。しんどかったら、しんどいって言え。言わな伝わらんやんか!!」
その言葉に、謙杜の張り詰めた心が、音を立てて崩れていく。
謙杜:「……怖かってん……!言うたら、笑われるんちゃうかって……嫌われるんちゃうかって……!」
和也:「そんなこと、あるかボケ!!お前、俺らの家族やろ!!!」
その声は、まっすぐだった。
どこまでもあたたかく、謙杜の心の芯を包み込んだ。
謙杜:「……ごめんな。俺、ずっと怖かったんや。ずっと……」
和也:「ええよ。もう、ええねん。よう言うたな。……頑張ったな、謙杜」
ぎゅっと抱きしめられて、謙杜は声を上げて泣いた。
その夜――
シェアハウスには、たくさんの“本音”があふれた。
流星も、大吾も、真理亜も、全員が順番に謙杜の部屋を訪れては、声をかけた。
恭平:「お前が“うるさい”って言われるたび、俺は元気出てたぞ」
流星:「謙杜、俺にお菓子くれるときだけ、優しかったもんな!」
駿佑:「明るいフリしてる長尾も、泣いてる長尾も、どっちも大好きやで」
そして謙杜は初めて、心から笑った。
謙杜:「……ありがとう。俺、今日から“本当の自分”で生きてみるわ」