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「だー疲れた」
「お疲れ様。犬の世話って大変よね~」
「犬より大変な気がする。犬飼ったこと無いけど」
夕食は部屋で取るといって、私はリュシオルにご飯を運んできて貰っていた。その間、ずっとラヴァインの愚痴を永遠と垂れ流している。
リュシオルは気前よく、うんうん、大変だったね。と、声をかけてくれる。私達が拾ってきたのに、そうやって責任持ちなさい、とかじゃなくて大変だねって声をかけてくれるところ、優しいと私は思う。
まあ、それはさておいて、今愚痴を言っている大賞であるラヴァインは空き部屋にぶち込んできて、多分、多分お利口にしているとは思うんだけど。
「他の子達も、ラヴァインの部屋に行きたくないっていってて、私が持って言ったんだけど。ノックしても返事がなくて、まあ強行突破で開けたわけだけど顔を見るなり、『エトワールじゃないんだ、あ、そこに夕食置いておいて』って。王様気分なのかしらね」
と、リュシオルも愚痴を言う。
私の親友にそんな失礼な態度をとったのかと、今すぐ殴り込みにいきたくなったが、何とか押さえた。暴力では何も解決しないから。
「でも、見た感じ、悲しそうな顔してたから、エトワール様、顔出してきてあげたら?」
「嫌だって、そんなの……また、ウザ絡みされる」
悲しそうな顔していた、というのは気になるけれど、また気を引くためなんじゃないかって思ってしまって、私は何も言わなかったし、あってみようとは思わなかった。
それよりも、ラヴァインとグランツの関係が気になるところだ。
一瞬、リュシオルに話そうかと思ったけれど、何だか新しい扉をリュシオルが開きそうな予感がしたので、私は言わずに置こうと思った。
あの時、共闘していた二人。なにげに、命令だったとは言え、仲がいい……相性が良いようにも思えた。もしかしたら、ラヴァインとグランツの年が近いこともあって、弟同士だったから、通じ合うところがあったのかも知れない。
(アルベドの弟と、ラジエルダ王国の第二皇子……か)
凄い組み合わせである。
そもそもに、ラジエルダ王国の事はよく知らないし、何年か前に占領されてから、ラジエルダ王国についての資料が消えていったとか。焚書されたかも知れない。資料が全くないので、これまたそこに住んでいた人に聞こうと思っても、そのグランツは眠ったままだし。
(一週間以上眠っていることになるから、本当に心配で……)
息はあった。心臓は動いている。でも、彼は目を覚まさない。何かが足りないような気もした。でも、私達は、ここで彼が目覚めるのを待つしか無い。
目覚めないグランツへの祈り。
記憶喪失のラヴァインの記憶を取り戻すための手伝い。
行方不明のアルベドの捜索。
この三つが、今の私の苦悩の種だ。一つでも解消できれば良いが、どれも簡単ではない。かといって、誰かに手伝って貰ってどうにかなる話でもないし。
(明日ぐらいに、ブライトのところに行ってみるか……)
ブライトが何かできるわけじゃないって言うのは分かってるんだけど(ブライトに失礼な言い方になってしまって、申し訳なく思いつつも)、彼なら、何かヒントをくれるんじゃ無いかと思った。
「難しい顔してるわね。また悩んでるの?」
「うん、どれも手つかずの状態だなあって……クエスト達成条件高すぎ」
「難易度エクストラね」
と、二人で軽口叩きながら、私は、出された量に手を付けた。
うん、いつも通り美味しい。
災厄からの復興で、まだ作物も良い感じに取れていない中、こうして温かい美味しい料理が出てくることに感謝だと。
私は災厄をどうにかしたけど、消えずにいた歴代の聖女の中でも異質な存在で。まあ、それはトワイライトもそうなんだけど、皆に変な目で見られているのは確かだった。そうして、聖女という枠組みに、位置についているからこそ、こんな待遇を受けられるわけで。聖女という肩書きがなければ、そこら辺でのたれ死んでいたと思う。
「感謝しなきゃだ」
「そうよ。エトワール様、感謝しなきゃ」
「勿論、リュシオルにも感謝してる」
「フフ、それはありがとう。私も、エトワール様が元気でいてくれることに感謝してる」
と、リュシオルは微笑む。そう言ってくれるだけで、私の心は自然と温かくなるのだ。これって、愛されてるって事だよなあ、何て幸せに浸っている。
(しっかりしなきゃ)
ここは現実で、一応エンディングたるものはあったとしても、そこが最終ゴールじゃないことを私は知っている。攻略したら、現実世界に戻れるとか、そういうのでもないし。戻ったところでいいことがあるわけじゃない。まあ、今を如何生きるかは、これから先も求められる問いになっていくんだろうなって言うのだけは分かる。
やることは山積み。一つクリアすれば、次から次へと次の問いが出てくるわけで。
飽きないと言えば良いのだけれど、貴族社会も難しい物だと思う。
「頑張らなきゃ」
「そうね。いつでも力になるわ」
と、リュシオルはいって、片付けを済ませて部屋を出ていった。
彼女は、唯一、こんな感じに自分をさらけ出せる人間で、気を張っているつもりはないのだけれど、矢っ張り誰かといるときと、一人でいるときは、感覚が違うというか。
私は、ぼふんとベッドに倒れ込んだ。
災厄や混沌のことが片付いて、時間は過ぎ去っていって。それでも、まだ解決していない問題に追われていたり、次のことを目の前に白目剥いていたりと忙しい。
目先のことでいえば、ラヴァインをどうにかしないといけないのだ。
「そういえば、攻略キャラだったわね……」
リースと結ばれたからか、攻略キャラの頭上にはもう好感度が表示されなくなってしまった。ありがたいといえば、ありがたいかも知れない。だって、人の好感度が可視化されるって、それに振り回されてしまうって事だから。だからこそ、表示されなくなったときは、嬉しかったけれど、まだなれないというか。可視化されていたからこそ、出を伺えたというのも正直ある。普通は見えないのだから、それが普通なんだろうけど。
(何かあったときとか、相手が怒って好感度が下がるのが見えたのは、ありがたかったかも)
人の目を気にして生きていくのが、人間だ。まあ、日本人特有のあれではあるんだけど。
ゲームでいえば、エンディング後の番外編だったり、フリー……果てしないオープンワールド的な物かも知れない。だから、好感度は関係無いと。
外はすっかり日が沈んで、月が昇り始めていた。真っ暗闇を見ていると、混沌のことを思い出す。眠りについて、後数百年ぐらいは目を覚まさないだろうし……
(夜……ねえ)
色んな事を思い出す。
初めて此の世界にきてから呼ばれた聖女の歓迎パーティーにて、月明かりが差し込む、部屋で初めてアルベドにあったこととか。あれは、最悪だった。初めて見る死体とか、死の恐怖を感じたあの瞬間が。、
「はあ……」
ため息をついたら幸せが逃げるからーなんて、リュシオルに言われたから、あまりつかないようにしているけれど、どうにも出てしまうものは仕方ないと思っている。毎日決められた何かをこなしていくわけじゃないが、それでも、過ぎていく時間が勿体なく、悲しく感じるのは何故だろうか。
そんなことを思っていると、コンコンと、部屋の窓を叩く音が聞えた。
嫌な予感がする。そして、デジャブを感じていた。部屋には明りがついていない。さっき消したから、またろうそくに火を灯すなんてことはしないけれど。部屋に入ってくる月明かりだけが頼りだった。ぼんやりと、床に、誰かのシルエットが映る。
もしかしたら……何て思ったけれど、可能性としたら、低いし、どちらかというとくすんだ色の方だろうなんて、思ってしまう。
「何よ」
「凄い、俺だとすぐ分かったんだ。俺の事案外好きなんじゃない?」
何て、減らず口して笑った、くすみ紅蓮は、嬉しそうに私を見つめていた。夜空に浮かぶ綺麗な月のような瞳は濁っていなくて綺麗だと思うが、違和感を覚える。初めて会ったとき、彼はそんな色してなかったのになあ何て。
「閉めていい?」
「ええ、やだよ。入れて」
「……」
「ああ、待って、入れて、入れて下さい。閉めないで」
と、慌てていうラヴァインを見て、本気で言っているのかと目を向けてやれば、ラヴァインは、苦笑いをしていた。純粋にそんなかおをするもんだから、私ははあ……とため息をついて、仕方なく、仕方なく窓を全開にする。
ぶわりとはいってきた夜風は冷たい。そして、チューリップの花の匂いのようなものが部屋に入り込んでくる。
(でも、違うんだよなあ……)
「それで、こんな夜に何のよう?ヴィ?」
私が、彼の名前を呼べば、ラヴァインは嬉しそうに「会いに来ただけだよ」と微笑んだ。