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一話目ほとんど幼児化と関係無いっ☆

それでもまぁ、楽しんでいってくれると嬉しいです!

⚠キャラ崩壊注意!
































薄っすらと、誰かの声が聞こえる。その声は馴染みのある声だった。

朝目覚めると覆われていた黒い膜が晴れて、感覚が鮮明になっていくように、其の言葉は着実に耳から脳へと聞こえてきた。

『だ──い!』             

(誰だ……?)






『太宰…!』

私の名前を呼ぶ声に目を開く。

右目が包帯で隠されている中、左目に映ったのは、殆ど減っていない酒と氷が入った一つの酒杯だった。

天上の電燈によって、辺りは橙色に包まれている。

目を見張りながら横へと顔を向けた。

「え」思わず声を漏らした。

「太宰、某っとしていたが……大丈夫か?」

其処には、心配そうに顔を曇らせながら聞いてくる織田作が居た。

落ち着くような優しく低い声が、耳に響く。

「……織田作?」

私の呼びに、織田作は少し首を傾げながら、「嗚呼」と答えた。


夢だと思った。

夢でしか有り得ないと判っていた。


だのに私は──────



「織田作!!」

勢い良く椅子から立ち上がり、絞り出す声を震わせながら、私は彼の方へと手を伸ばす。

然し、私の手が織田作に触れることは無かった。

通り抜けたのだ。

「は……?」自分の手の平を見る。

其処には何もない。

私が織田作に触れようとした瞬間、彼は霞のように空気に溶けて消えたのだ。

たったそれだけ。

それだけなのに、私の心拍数は一気に上昇し、妙な汗が頬を濡らす。

(何だ?何が起こった……?)

心臓の鼓動が体中に響き渡る。視界が歪んでいくように、私は混乱していた。

息が微かに荒くなっていく。


そんな中、先程のように耳に誰かの声が響いた。

其の声も、何処かで聞いた事があるような声だった。
































『太宰さん!!』

その声と共に私は目を見開く。

先程とは違って橙色が辺りを照らしておらず、爽やかな空気と鳥の囀り、そして暖かな陽射しが、私の躰を包み込んでいた。

「太宰さん、先刻から某っとしてますけど…」

視線を前の方に向けると、敦君が私の目を見ながら心配そうに云った。

(何だ…此れは……ッ)

「大丈夫ですか?」

敦君の声のみが耳に響く。

「ぁ、嗚呼……」

そんな彼に、私は曖昧な返事を返す。私は何処までが夢なのか判らなかった。

「それじゃあ疾く行きますよ」

溜め息混じりの声でそう云った敦君は、私に背を向け 前へと歩き出す。

その瞬間、私は少し妙な衝動にかけられた。

手を伸ばす。

「敦君…!一寸待っ─────」

先刻の織田作と同じように、敦君の姿が溶けるように消える。

原因不明の汗が頬から顎へと流れていく。

否、既に原因は何か判っている。あの衝動が原因だ。

私は躰を震わせながら、一歩下がった。

(何だ此れは……何の夢だッ!!)


その後、私は国木田君や乱歩さん。賢治君や与謝野女医、谷崎君や社長まで。





─────其れだけではない。


織田作と同じように安吾も、森さんも姐さんも、芥川君まで……。

私の目の前に出てきて消えて行った。




















────何が、如何なっているんだ……。


















唯一判ったのは、私が見ている“コレ”は夢に近いもので、しかもソレが悪夢だという事だ。

気付けば辺りは暗闇に包まれており、私は忽然と立ち尽くしていた。

動く事ができなかった。

押し寄せて来るこの感情を止めるのに、精一杯だったからだ。

『強がってンじゃねェよ…』

今までとは違って、確実に其の言葉が耳に響いた。そして其の言葉を発したモノを、私は知っていた。

目を見張りながら後ろへと振り返る。

彼は何時ものように私を睨んでいた。

只、何かが違っているのが判った────否。本人ではない事に、既に私は気付いていた。

『もう判ってンだろ…』

吐き捨てるように、チュウヤは私に向けて言葉を発する。

『手前はとっくに独りだって……』

中也の声で云われた其の言葉に、私は何故か怒りを覚えた。

「何が云いたい?」私の声は苛立ちを帯びていた。

『そのまンまだ……手前は何処に居たって変らねェンだよ…』

ポケットに手を突っ込みながら、チュウヤは云う。






『独りで勝手に死んでろ』






チュウヤのその台詞が、何度も何度も脳内で木霊する。その度に沸々と怒りが沸き上がった。

「ふふっ…“ 死んでろ”?」

怒りを抑えた私は、微笑しながら足を進め チュウヤに近付く。

「無責任だなぁ、“死んでろ”じゃなくて……」

外套のポケットから出した手を、チュウヤの肩に置く。

そして私は彼の耳元で囁いた。


「────“殺してくれる”のだろう?」


触れた箇所から眩しい光が放たれる。

「私から視線を外して佳いなんて、何時君に云ったのさ…!」

声を張り上げ、嘲笑しながら云った言葉とは一転、今度は相手に聞こえない程の小さな声で私は呟いた。

「其れに……君は“そんな事”云わない」

心中では何かに引っ張られながらも、相棒に対しての信頼を元に、私は断言できた。


その言葉を発した後、私の意識は途切れた。


































先刻まで遮断されていた躰に張り巡らされた神経が、一気に脳へと情報が伝わる。

それと共に私は目を醒ました。

「はぁ…はぁっ…はぁ……」

荒くなった息を、目を見開きながら整える。

その瞳には、夜の街影よりも明るい光を放つ恒星が夜空に浮かんでいるのが映っていた。

刹那、脳に針が刺さったような痛みが走る。

「ゔッ…!」激しい頭痛に私は呻った。

痛みが治まると、背中の方からひんやりとした温度が伝わってきた。

私は路地に横たわっていた。ふと右手に硬い何かが触れている事に気付く。

視線を移すと、私が握っていたのはグラスだった。中に入っていた葡萄酒が地面に流れていっている。


躰を起こす。痛む程喉がかれていた。唇が乾燥し、カサついている。

「……真逆幻覚の毒だったとは…」

溜め息混じりの声で私は云う。

そう。私は毒入りと知った上で、此の酒を飲んだのである。

「____…」

グラスを傾けると、中に残っていた葡萄酒が地面に流れていった。

私は其れを只々静かに見つめている。


実はこの酒は、ある女性から貰ったものだった。物静かではない積極的なタイプであったが、美人なのに変わりはなく、一寸した関係を続けていた。

彼女は一週間前に会ったばかりだが、途中 彼女からの想いが少し重すぎる事に私は気付いた。

こういう性格の女性は縁を切ると後からストーカーしてくる事が多い。

だからできるだけ優しく云ったのだけど───如何やら逆効果だったようだ。

結果、私は毒入りの葡萄酒を彼女にプレゼントされた。それでも此の感じからして、彼女は今後一切私に関与してこないだろう。

そう考えていながらも、私は少し後悔をしていた。

溜め息に近い息を吐く。

「幾ら元マフィアで毒に耐性があるとしても……少しなめ過ぎたなぁ」

予想では毒と云っても致死量は盛ってこないと考えていた。

何故なら 幾ら怨んでいるとは云え、人を殺す程の度胸は彼女にはない────否 、“普通の人間”には無いと思ったからだ。

それが返って裏目に出た。

「流石の私も幻覚類の毒は予想外だったよ…」

けれど彼女はそれ程 私の事を好いてくれて、 一周回って怨んでくれた訳だ。

然し態と罠にハマったとはいえ、幻覚を見せられた事には少し不快感を味合わされた。

(日頃から見る夢以上だ……)

今度は大きく溜め息をついて「まぁ、自業自得か……」そう呟いた後、私は掴んでいたグラスを放す。

ワインに包まれた地面に着くと、グラスは悲しい音を立てて粉々になった。






























一定の感覚でくる頭痛に、少し嫌気がさす。

激しい痛みが治まって少しした後、今度は弱めだが一定の速さの痛みが、脳の神経に針を刺し続けていた。

立ち上がろうと節々の痛みを堪え、曲げた膝の関節を元に戻す。

然しその瞬間──────

「わっ…!」

ガクッと勢い良く足腰の関節が曲がり、地面に膝を着く。

私は四つん這いになりながら、啞然とした表情で足の方を見た。

恐らく此の事を一般的に云うと、“腰を抜かす”というものに中るのだろうか。

事実「こりゃ拙い…」と、内心少し焦っているのを巫山戯たような云い方で私は隠す。

然し隠しきれずに、冷や汗が頬から垂れた。

其れには訳が二つある。

一つは幻覚の影響で立ち上がれない事、もう一つは、先程から躰の体温が上がっている事だ。

今はまだ微熱程度だが、その内 四十度前後の熱が出るだろう。

「一体、どれ程手を滑らしてくれたんだか…」

深く深呼吸をし、ゆっくりと立ち上がった。

壁に手を付きながら 私は社員寮へと向かう。

(熱が出て歩けなくなる前には、寮に戻りたい……)

汗が頬を伝い、襯衣に滲む。躰は熱さを感じていると共に寒気を覚えていた。

毒の服用後の所為か、免疫力が一気に落ちていて、息がどんどん荒くなっていった。

外套のポケットから携帯を取り出す。

(流石に誰か呼んだ方が────








ドスッ…!








刹那、脇腹辺りに針が刺さるような痛みが走る。

「……は」思わず声が漏れた。

視線を移すと、其処には背中を少し曲げ、注射器を私の服の上から刺す男が居た。

注射器の中に入った液体が、躰に流れ込んでくるのが判った。

「っ…!」

後ろに振った腕を男は軽々と避ける。

先刻の毒の影響もあり、私の動きが遅くなっているのだ。

男は舌打ちをすると、勢い良く走って逃げ出す。

「待て!!」

声を張り上げた瞬間、視界が歪んだ。


ドクンッ!!


「がっ…!?」心臓の鼓動が大きく響く中、誰かの手に心臓を握りしめられているように感じた。

刺さった儘の注射器を抜いて、植え込みがある草木の中に投げ捨てる。

「ゔっ……ぐぁッ…」

襯衣の胸元を握りしめながら呻り、力が抜けたかのように地面に膝がつく。苦しみを堪えながら私は頭を動かした。





――あの男の狙いは何だ?


私単体?其れなら彼女の仲間か?

否…もしそうなら私が毒入りの葡萄酒を飲んだ時点で近くに居た筈だ。


だのに、彼女以外の気配は感じなかった。




――毒を摂取した上での攻撃?


否、彼女の性格からして自分の力のみで私に復讐するだろう。

という事は彼女は関係していない……。

そしてもし“私単体が狙いなら”ナイフやら銃などを使って殺しに来る筈。

なら狙いは探偵社員か…?くそッ……!





震える手を動かし携帯を開く。

刹那、視界に映るものの色彩が一気に反転し、今度は心臓を抉られるような感覚に陥る。

「はぁっ…はぁ………ゔッ……ぐぅ…っ!」

静かな夜に、一人の青年が悶え苦しむ声のみが響いた。

呼吸の仕方を忘れたかのように上手く息を吸うことができなかった。

荒い呼吸が喘鳴に変わる。

視界がぼやけ、画面に映る文字が見えなくなっていった。

(っ……指に力が入らない…!)

眉をひそめる。

疾く社員の皆に此の事を伝える必要があった。然し、この状況になっては相手は誰でも良かった。

国木田君じゃなくても佳い、敦君じゃなくても佳い……誰か……。

相手が電話に出てくれる事を願い、ぼやけて見えない儘、震える指でボタンを押す。

着信音が切れるのを只々待ち続けた。その間、 着実に意識が遠のいていっている。

すると着信音が切れ、誰かの声が聞こえてきた。

誰なのか判断できない。

何を云っているのかも聞き取れない。

喉が痛み、掠れても尚、私は声を絞り出した。















「………助”…げ、て……」
















なんとも醜い声だろう。

……否、今の私の状態は醜さの度を超えて、正に醜態とも云わんばかりの姿だ。

本当は誰にも見せたくない。



特に………中…也に……は____。








糸が切れるかのように、私の意識は途切れた。

太宰さんが幼児化した件

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コメント

2

ユーザー

太宰さんの思考まで書くとは...! やはり天才ッ✨

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