テラーノベル
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第6話「視線」
音楽室の前で、足を止める。
中から、音がしていた。
ピアノ。
静かで、でもはっきりとした旋律。
昨日と同じ。
ゆかりは、少しだけ息を止める。
(いる)
理由は分からない。
でも、そう思った。
扉に手をかける。
ほんの少しだけ開けて、中を覗く。
やっぱり、先生だった。
窓際のピアノに座っている。
背中が見える。
指が、鍵盤の上をゆっくりと動く。
その音は、どこかで聞いたことがあった。
(……死と乙女)
昨日、先生が教えてくれた名前。
でも。
それがどういう意味なのかは、よく分からない。
ただ、音だけが残っている。
少しだけ、寒い。
音が止まる。
先生がゆっくりと振り返る。
目が合う。
「……来たんだ」
昨日のことには、何も触れない。
責めるような気配もない。
ただ、それだけ。
ゆかりは、なぜか少しだけ安心する。
「少しだけ、弾いてみる?」
軽い声だった。
ゆかりは、ピアノなんて弾いたことがない。
でも。
「……うん」
小さく頷いていた。
自分でも、理由は分からない。
先生が立ち上がる。
席を少しだけ空ける。
ゆかりは、その場所に座る。
鍵盤が、近い。
指を置く。
音が鳴る。
少しだけ、響く。
その音が、妙に綺麗に聞こえた。
(第6話 後半 終)
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