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土鍋の下で、侑くんの「治、お前マジで不潔やぞ!」というくぐもった絶叫が響いている。けれど、治くんはそれをBGM程度にしか思っていないのか、涼しい顔で私の腰を引き寄せた。
「……あー、やっと静かになったわ。朱里、あんな騒音に耳貸さんでええよ」
治くんの指先が、私の頬をゆっくりとなぞる。
キッチンには、彼がさっきまで仕込んでいた出汁の香りと、私たちの混じり合う吐息の熱が充満していた。
「……治くん。土鍋、重そうだよ。スマホ壊れちゃう……」
「……ええねん。壊れたら、新しいの買う。……それより、今はこっちの方が大事や」
彼は私の顎をクイッと持ち上げると、至近距離で私をじっと見つめた。
スナギツネのような細い瞳が、今は獲物を完封する時のような、暗くて深い熱を帯びている。
「……フルコースのメイン、まだ出しとらんよな。……おにぎり三つ分くらいの、甘いやつ」
「……っ、治くん……」
「……朱里。……許可、して。……俺以外の男の味、全部消したる。……君の喉の奥まで、俺の『執着』でいっぱいにしたるから」
彼が唇を重ねようとした、その瞬間――。
『あーーーっ!! 繋がった!! 治、お前、今度は「物理的」に隠しおったな!! 執念深いぞ!!』
土鍋を突き破らんばかりの振動。
角名くんが「あーあ、Wi-Fiのブースター追加しちゃった」と笑いながら、侑くんのビデオ通話をさらに強化して繋ぎ直してきた。
「……角名。お前、ほんまに……死ね。……そのブースター、後でおにぎりの具材にしたるわ」
『誰が具材や!! 朱里ちゃん! 治の「メイン」は独占欲っていう保存料が大量に入っとるからな! 胸焼けするぞ!!』
「……胸焼けしてええねん。一生、俺の味しか受け付けん体にするんやから。……朱里、こっち来い」
治くんは無表情のままスマホをキッチンの引き出しに放り込み、ガチャン!と鍵をかけた。
ついに訪れた、本物の静寂。
「……邪魔者は黙らせた。……続き、しよか。……お腹、空いたやろ。……俺の全部、食い尽くさせてやるから」
土鍋の下の、熱い秘密。
おにぎりの具材よりもずっと濃い、治くんの「野獣」という名の独占欲が、私の理性をドロドロに溶かしていった。