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ぱっ、と手を解放されると、ずきずき痛む右手を軽く振り、庇うように左手で傷口の箇所を抑える。
何で俺だけそんな特定されてるような話になってんの?ていうか、
「……何があかんの?未成年じゃないんやし。それに、似たようなんしとる人、なんぼでもおるやん。」
俺だけの話ちゃう、これは事実や。なんならもっと治安酷いとこあるやんか。そう強気に反論すると、『リョウさん』と呼ばれていた男は《まぁまぁ、》と両手をぱたぱたさせて落ち着かせるように説明を含めて言った。
「えっとね、君…『こっち』では結構目をつけられてるみたいでさ。」
「俺が?…何でなんすか?」
「界隈からしたら、お前の見極めが甘過ぎて…世間知らずのチョロいバカだと思われてるからだよ。」
「バッ…はぁっ!?」
煙草に火を点けて吸った煙を一吐きする『レン』と呼ばれた、今となっては見慣れすぎた男がド直球にシンプルな悪口をぶつけてくるもんやから、カチンとくるのは間違ってへんはず。
「レン…!」
「良い人そう、金持ってそう、変なことしなさそう。イコール大丈夫だろう。その間違った先入観が周りをヒヤヒヤさせてんの。…考えが幼稚園児並に甘過ぎんだよ。…っふ、いや…それ以下か。」
リョウさんの仲裁の声も無視してそう鼻で笑う彼にぐらぐらと徐々に怒りが湧き上がってくる。…アンタが俺の何を知っとんねん。
「俺やって変な奴には引っかからんように気をつけてんで?実際引っかかってへんし。俺が勝手にやってんやから別に周り気にする必要も無いやろ。…そもそもなんやけどな、何でアンタにそこまで言われなあかんの?」
もう呼び方にも気ぃ遣ってられへんわ。身体ごと向き合い喧嘩腰で睨み上げると《…へぇ?》と彼は片眉を上げ、2吸い程度しか吸っていない煙草を踏み消すとずい、とその距離を詰める。…ちなみに、正直手が出る喧嘩したことないねんけど…これ、どうしたらええの?
「レン!ちょっと喧嘩は、」
リョウさんを左手で制止したと同時に、急に右手で持ち上げられる俺の顎。それは所謂、…顎クイってやつで。端正な顔に至近距離でじっと見つめられては、威嚇の目が泳ぎそうになる。
「なっ…何す、」
「『変な奴に引っかからないように』、ね。必死に逃げて助けを求めてた奴がよくそんなこと言えるね?」
「ゔっ…。」
「…とりあえず、一旦ちょっと黙っててくれる?」
俺にしか聞こえないような小声でしっかりと話すと、掴みっぱなしの顔の角度をちょいちょい変えたり、髪型をまじまじと…それでいて初めて出会った日の時よりも丹念に俺を精査する彼。抵抗したら何されるか予想もできず、情けなくも黙れと言われたからには一旦大人しくすることにした。
上から下まで注がれる熱視線。離された右手の人差し指を己の鼻先にとんとん宛てながらぐるっと俺の周りをゆっくり1周し、元の位置に戻るなり今一度全身をチェックしながら彼は言った。
「──リョウさん。コイツ、うちのプレイヤーにどう?」
「「…、はぁっ?!」」
何言うてんのこの人。それはリョウさんも同じだったようで、ほぼ同時に驚きの声を上げた時にはお互いに目が合った。そうやんな?マジで何を言い出してんねん。
「人が良すぎるのと単純さがネックか…。ウチにあまりいないサクさんタイプのビジュとスタイルだし。──ヘアメ変えて、一旦スーツ…いや、セットアップの方が良いか…?それで纏めたらワンチャンナンバー入れるかもな。…いけなくても新規の客集められるかも。あとは時計、と…アクセ周りと。靴も…」
そう早口でブツブツと独り言を呟きだした彼は遂に俺の髪を弄りだして。前髪を分けたり下ろしたり、一旦オールバックにしてみたり。
…何やねん、この状況。
「レン、あんまり小声早口でブツブツ言うと引くぐらいヲタク感出ちゃうよ?…彼の顔見てみなよ。すっごいスンとしてるんだけど。」
《まぁでも、》とリョウさんはぼそっと 続ける。
「こうして会った感じ…単純さは確かに否めないな…。」
「…今お兄さんもディスりました?」
「、こっち見る。」
やや強引にまた顎を引かれると、ついさっきまでは髪や身体を見定めるような感じだったのに、その目は再び俺の目を捉えていて──不本意ながらどきりと心臓が跳ね上がった。
「お前、酒は?」
そう問う彼の視線からは何故か逃れられなくて、俺は素直に嗜好を話した。
「、飲めるしまあまあ好きな方…。やけど!俺にホストは無理や。他人には嘘吐きたくないねん。あと女性は…特に苦手やし。」
自分のセクシャルがはっきりしてから、本当に女性が苦手なんだと自認していた。普通に話す分には問題ないけど、ボディタッチや恋愛が絡むとどうしても嫌悪感が勝ってしまう。そんな俺にホストになれと?そんなん無理に決まっとる。それなんに、
「なるほど?リョウさん、黒服ならいいって。」
「えっ、嘘やろ!?」
「いやいやいやいや…レン、曲解にも程がある。」
そうや。何でそうなんねん。黒服やって女性と多少の絡みあるんちゃうの?知らんけど。
「でもホスト『は』無理って言ったよ?お前だって、他人に嘘吐かなきゃいいんでしょ?」
「…そうは言うたけど…。」
「ウリやるより健全な稼ぎ方じゃない?ほら、ちょっと前に『諸用で黒服1人抜けた』わけだし。」
俺ら2人にしか解らないような軽い脅しをかましてくると、俺は更に言葉を詰まらせる。よく解らんけど言い分としては確かに、と妙に納得してしまった。…言い回しのプロはほんま怖い。
そんな中、《えーと、》と話を切り開くリョウさんは、
「決定…で、良いのかな?」
と意外にも前向きな雰囲気を醸し出し、笑顔で首を傾げた。いつの間にか断れない状況まで陥っていて、未だに触れられている手をそっと退かし、頬を軽く掻く。
「まあ…ちょっとならやってみても、ええかな…。」
「分かった。じゃあ、明後日までに病院にも行ってもらって、必要書類と一緒に念のため履歴書も持って来てくれる?16時半には俺居るしスタッフにも伝えておくから、リョウで呼んでもらったら良いよ。これ、名刺。」
《よろしくね?》と手渡されたそれを受け取ると、俺は特に内容を読むわけでもなくただただ眺めていた。