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あれからなんだかんだ4日が経った。早めに履歴書を出したけど採用は即決で特に面接っぽいことはなく、《じゃあこれから研修ね?》とリョウさんのサポートがありつつもハイペースな現役黒服さんに懸命について行く日々だった。
そんな中、舘に誘われてランチをご馳走になることになった俺は、《鍵空いてるから着いたらそのまま入っておいで》と連絡があった通りに扉を開けた。隙間が空いた瞬間からふわりと良い香りが流れ、一気に食欲が増してくる。
「邪魔すんでー!」
「邪魔すんなら帰ってー。」
「あいよーぅ!」
「………。」
「…おぉい!止めろや!」
最早お決まりの流れ。リビングへ顔を出すと、ソファーに我が物顔で寝転び、視聴していた動画をそのままにげらげらと笑うしょっぴー。その奥のキッチンに目をやると、調理をしながら微笑ましそうにこちらを見ている舘の姿があった。
「いらっしゃい、康二。」
「おん、邪魔すんで。」
「…、帰る?」
「帰らへんわ!途中端折んなって、大事やぞ!」
わざとらしくきゅるんとしたあざとい顔と、その独特な間でまさかのテンドンをかまされたことで少しの驚きを覚えたが、2人のノリの良さについつい口角が上がる。
ツッコミを入れた時に舘を指さしていた俺の右手の傷口を覆う大きな絆創膏を見たのか、しょっぴーの笑い声が不意にデクレッシェンドさながらにゆっくり小さくなり、そのまま話しかけてきた。
「…お前、右手どうした?」
「えっ?…あ、」
思わず指摘された手をポケットの中に突っ込むも、盛りつけを終えた料理をテーブルへと運んできた舘の強い視線を感じ、すぐに隠すことをやめた。
「…ちょっとな。強めの怪我してん。」
「大丈夫なの?」
舘の心配そうな声を俺は絆創膏を眺めながら受け止めた。
「最初はぼちぼち痛かったんけど、今は全然大丈夫やで?縫ったりとかもしてへんし。」
「縫ったり…?切り傷、なんだ?」
料理を一旦置いた舘は、俺の右手をそっと手に取り同じく加減を見るようにその箇所を眺めた。
「痕、残ったりしない?」
「、…お、おん。多分…?舘、そんな心配性やったっけ…?」
《本当に大丈夫?》とまるで母親のようにかけられ続ける声を聞きながら、動画を逃した所まで戻しながらしょっぴーが補足する。
「俺が怪我とか病気とかした時でも、いつも結構こんな感じだよ、涼太は。」
「高校時代にも康二が風邪ひいた時にメシ作りに行ったりしたじゃん。」
…そうや。高校進学をきっかけに上京してからずっと一人暮らしだった俺。インフルエンザに罹ったある日、出席停止中も暫く続く高熱でどうしても家のことができない中、下校してすぐに俺の家に来て看病してくれたことがあったことをじわじわと思い出した。
「せやったわ…。」
「…手、お大事にね?」
「おん、おおきにな。」
未だ気を遣うようにゆっくりと手を離されると、《さて、》とその手をぱん、と大きく鳴らして話題を変えた。
「もう料理はできたけど…お腹の具合はどう?」
「すっげー腹減ってる。」
「俺も!めっちゃ腹空かしてきた!」
もてなされる側の声に微笑みながら頷くと、舘はテーブルへ招くように両手で誘導した。
「ふふっ、じゃあ席着いてて?残りも配膳するから。」
「手伝おか?」
「大丈夫、あと1回で全部持って行けるよ。特に康二は怪我に響いちゃいけないし。」
もうそこまでの怪我ちゃうねんけどな…。そう言うても舘は聞かんやろな。彼の言葉に甘えて着席することにした。
「そういや、俺最近バイト始めてん。」
「えっ、そうなの?」
「どこ?涼太と遊びに行く。」
先日舘が賄いで食べていたペスカトーレをフォークに巻き付けながらふと近況を話すと、思った以上の食いつきで。性格上接客業と思われている──それは一応間違いはない──けど。遊びに行く、と言われては回答に困る。一瞬の静寂が流れたことに多少の気まずさを感じながら、重い口を開く。
「あー…っと…ちょっとそれはムズい、な…。」
「何で?」
すかさず問いかけられたしょっぴーの質問に少しの恥じらいと抵抗もあり、誤魔化すように鼻先を掻く。
「その…ホストクラブ、やねん。」
「「お前が?!」」
驚きを含めてシンクロする2人が想像したのは恐らく、所謂プレイヤーの方だろう。でも彼らは俺の性格は知っていても、セクシャルを知らないからこそ発せられた言葉と解るからこそ、
「いやちゃうねん!ホストの方じゃなくて黒服の方やで!?」
すぐ、俺の言葉を信じてくれるとも解っていた。