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美鈴視点
咲夜と美鈴の関係は、主従のようで、そうじゃない。
主を支えるために働く咲夜を、門の前でいつも待っていたのが美鈴だった。
口数は少なくて、挨拶だけの日もあったかもしれない。
でも、それでもよかった。
いつも通り、それだけでよかった。
だから――
「咲夜さん、寝坊ですか? ほら、そろそろ起きてください」
「……寝てる、わけじゃ……ないですよね……?」
咲夜は人間で、寿命がある。
時を操る能力があっても、それは他人の時間だけ。
彼女自身の命は――普通の人間のまま、終わってしまった。
美鈴はそれを受け入れられなかった。
「いつも私に“寝るな”って言ってたのに……
咲夜さんが寝て、どうするんですか……」
「……また言ってしまった。
もう何十年も経ってるのに、なれないな……」
美鈴には長命な寿命がある。
でも咲夜は短命だった。
時間を止められる者が時間に殺され、
時の流れに生きる者がそれに取り残される――
皮肉にも、逆転してしまったんだ。
「今日も、門番の仕事はちゃんとします。
咲夜さんが“見てる”かもしれないから……」
「……なんて、馬鹿ですよね、私」
咲夜視点
咲夜は時を止められる。
でも、それは“自分以外の誰かの時間”だけ。
レミリアお嬢様、パチュリー様、美鈴――
皆が少しでも快適に過ごせるように、
彼女は自分の時間を削ってでも、働いた。
そんな中で、唯一彼女が「自分に戻れる」時間があった。
それが――
「おはよう、美鈴。……また門で寝てたの?」
「……ったく、だらしないな。……でも、そういうところが好きよ」
死者蘇生異変。
魔理沙の魔法で、咲夜は「戻ってきた」。
皆は「また咲夜が戻ってきた」と言ってくれる。
紅魔館は、元通り。
だけど――咲夜だけは、違和感に気づいていた。
時計の針が重く感じる
美鈴の「おかえり」がぎこちない
自分の部屋が、少し“新しくなっている”
「……これは、私が死んでいた証拠ね」
「魔理沙、貴方……どこまでやったの?」
咲夜は知っている。
人間が妖怪になってはいけないことも。
死んだ人間を蘇らせるのが“幻想郷の理”に反することも。
それでも、
魔理沙の魔法で蘇った“幻想”の中で、皆と暮らすのは幸せだった。
「紅茶の淹れ方も、掃除の手順も、全部覚えてる……。
私は、まだ“あの日の私”でいられるのね」
「でも……それって、本当に私?」
霊夢が来る。
咲夜はもう分かっている。
霊夢がこの異変を「終わらせる」ために来たことを。
それは、咲夜が“もう一度死ぬ”ということでもある。
「貴女が来たのね、霊夢。……私も、待ってたのよ」
「でも、魔理沙には言わないで。あの子、また壊れてしまうから」
本当は、怖い。
でも、**もう一度“ちゃんと死にたい”**と思ってる。
自分だけがいつまでも動き続けて、
周りの時間が止まっていくこの感覚が、
咲夜にとっての最大の地獄だった。
「お嬢様……また置いていくことを、許してください」
「私は、貴女の“道具”ではなく、
ただの一人の人間として終わりたい」
美鈴がまた門の前で言う。
でも、咲夜はもうそこにいない。
霊夢と一緒に、異変を“終わらせた”から。
だけど、咲夜の部屋には今でも
整えられたベッドと、空のティーカップがある。
咲夜の死は、“終わり”ではなかった。
魔理沙の願いが“続き”を作った。
でも、咲夜は「自分の時間を、もう止めたい」と思った。
それが彼女にとっての、最後の意志だったんだ。
コメント
1件
ああああああ脱字が!!!!!!!!!!