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「….で、なんで無断でアレンジ加えたわけ?」
夜の練習終わり、和やかだったムードが大森の一言で一変した。若井もスタッフもその場にいた全員が異変を察知し黙る。
「ごめん。でも昨日のアレンジちょっとしっくりこなくて….」
藤澤はキーボードの上に手を置いたまま静かに答えた。
「は?じゃあなんで相談しなかったの? 勝手にやったら合わせる側は大変なんだよ。いつまで自分本位なわけ?」
声が荒い
藤澤の唇がキュッと結ばれる
「だって、大森に言っても聞いてくれなかったじゃん」
その「大森」という呼び方に一瞬だけ大森が眉を寄せる。
「だからって勝手に音変えるなよ。俺音外しそうになったじゃん。リハだから、練習だからって好き勝手やっていいわけじゃないんだよ」
「もういい」
藤澤はパチン、とキーボードの電源を落として、荷物を無造作にカバンへ放り込んだ。
「お疲れ様でした。」
背中越しにそう言って、スタジオを出ていく藤澤の後ろ姿が、
ーその背中が、いつもより細く見えた。
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夜の公園ベンチで藤澤は膝を抱えて泣いていた。
もう何時間ここにいるか分からない。
冷たい風が頬をくすぐるその時、ベンチで小さくなってる藤澤にそっと影が重なった。
「…探した。帰ってこないから心配した」
「なんで来たの」
「…..今日も一緒に寝たいから」
目を伏せていた藤澤だったが、大森の声がいつになく静かでそっと顔を上げ、目を見開いた。
泣いていた。あの大森元貴が。
月明かりに照らされた瞳に、涙の滲みがあった。
「ごめん、本当にごめん。僕焦ってた、最近僕はミセスでいてもいいのかなって。自信がなくって」
大森が驚いたように見つめる
藤澤は、眉を下げて言葉を続けた。
「僕、置いていかれたような気がした。元貴も映画とか朝ドラに出演して、若井もレギュラー番組のMCをやっていて。でも…..でも僕は、僕にはなにもない。
最近元貴、僕の意見も聞いてくれなくなって、それで……」
「ごめん」
大森はゆっくり手を伸ばして、藤澤の頬に触れた。
「ごめんそんな風に思わせて。でも俺には、ミセスには涼ちゃんが必要だよ。涼ちゃんが言いたいことも、これからは多分ちゃんと聞く。ねえ、だからさ….俺の隣、戻ってきて?」
その一言に藤澤の頬がふっと緩む。
「もう、多分じゃダメじゃん!….もしも、ヤダって言ったらどうする?」
「じゃあ無理やり連れて帰る。俺のキーボードだもん」
「ふふ…ほんと、ばか」
そっと寄りかかってくる藤澤を、大森は優しく抱き寄せた。
喧嘩をしても、ずっと一緒に音を奏でていきたい。その願いと共に。
溜めてた気持ちが爆発したって、わだかまりが楽にならなくたって、最後に抱きしめてくれるのは、やっぱりこの人だ。
「ねえ、涼ちゃん」