後ろのドアが勢いよく開いたと思ったら、乱暴な声が3人を横切った。
『おうおう!ひれ伏せ人間共!!俺の名はロマーノ!!バディとやらはお前かコノヤロー!!』
腕をぶんぶんと振り回しながら、頭に獣耳が生えたフェリシアーノと似た人物が入ってきた。
「え、魔神がデビルハンターやっていいんですか!?」
『いいぞコノヤロー!!』
ギルベルトは満足気な表情で腕を組み、菊とルートは予想外な人物に目を丸くする。だが、1番目を丸くしたのはフェリシアーノだ。
「に、兄ちゃ…」
フェリシアーノは、堂々と胸を張っているロマーノに近づき、彼の肩をガッと両手で掴んだ。
「今の今まで…何してたんだよっ!!急にいなくなったと思ったら、急に顔色も変えずに現れて!ふざけないでよ!どんだけ、俺が…兄ちゃんの、こと…心配したか……!」
言葉を発する度に出る涙が、ぽろぽろとフェリシアーノの顔を伝った。だんだんと覇気がなくなる彼にロマーノは焦りはじめ、崩れ落ちたフェリシアーノと目線を合わすと、手で涙を拭った。
『悪かった…ヴェネチアーノ……その、いろいろあってさ。お前がデビルハンターとして働いてるってギルベルトから聞いて、急いでここに来たんだ。それだけは信じてくれ』
「…うんっ……ぅ…わかった……しんじる、」
『もう泣くなちくしょー』
いつもの調子でヴェ、ヴェと泣き始めるフェリシアーノを喜色の笑顔で見守るロマーノ。それを見ていたら、疲れ果てていた疲労が浄化されたような気がした。
フェリシアーノの機嫌も良くなり、落ち着いた頃、ギルベルトは話を本題に戻した。この調子だとバディはロマーノさん、フェリシアーノさん。私、ルートさん。ですかね。と予想を立てたながら、そのまま話に耳を傾けた。
「魔人は悪魔と同じ駆除対象なんだが、お兄様は理性が高いからヴェストの隊に入れてみた」
「頭の耳が目立つから、人通りの少ない場所だけパトロールする事な。もし民間のデビルハンターに会ったり、警察官に職務質問された時ゃあ、公安対魔特異4課で〜すとか言って手帳を見せれば、 嫌な顔して帰っていくよだろうよ」
「それはなんとも……」
「仕方ねぇよ。前にも言ったけど公安対魔特異4課は実体的部隊なんだ。結果を出せなかったら、すぐにでも上の方々が解隊しちまうかもしれねぇ」
「まぁそん時は嘘の報告書出しとくから心配すんな!とりあえず街に慣れることだな!」
ダブルピースをコチラに向けながらドヤ顔をする彼に、ルートは軽いチョップを入れる。
「あ、バディはロマーノと菊な!んじゃよろしく〜」
『人間!早くなんか殺させろ!俺は今戦いたくて仕方ねぇんだこんちくしょー!!』
ギルベルトのバディ発表を聞いてから、体が、足が重い。ある程度の理不尽なら、人並みに広い心で許せるが、問題はどうやってこのワンパク小僧を大人しくさせるかだ。ちょっとでも目を離すと、何処かへ行ってしまうような好奇心旺盛な獣を手懐けるのは、少々骨が折れることだろう。
「というか、全然悪魔が見当たりませんね。逃げたのでしょうか」
『それは多分俺のせいだな』
『俺ぁ、魔人になる前はチョー恐れられてた悪魔だったんだ!きっと、俺の匂いで雑魚悪魔は逃げかえったんだろうな!」
「えぇ……じゃあ結果出るものも、出ないじゃないですか…」
得意気に鼻を高くするロマーノのに溜息をついた。そういえば、困った事があったらルートさんに連絡するように言われてたな。なんて思い出し、スマホを取り出して、電話をかけようとした時だった。
『血の匂いだ!!』
そう叫んだロマーノのフェンスから飛び上がり、反対側のフェンス目掛けて走り出した。
「あ、ロマーノ君!危ないですよ!」
そんな私の言葉は歯止めにも何にもならない。フェンスから飛び降りたロマーノは、自分の腕を噛み獣の姿へと変身すると、真下の悪魔目掛け、上から木っ端微塵に悪魔を粉砕した。
『どうだー!!俺の手柄だコノヤロー!!』
真下で、自分に向けた歓声の笑いが轟いていた。それを見て、菊はまた溜息をつくのだった。
「あのなぁ……確かに心配すんじゃねぇとは言ったが……」
「流石にアレはやり過ぎだろ!!」
飛び散った血と化した、木っ端微塵に粉砕された悪魔だったものを指差しながら、ギルベルトは泣きながら2人にギャンギャンと吠えた。
「まずなぁ、民間が手を付けた悪魔を公安が殺すのは業務妨害だ!普通だった逮捕だぞ?お兄様はもうちょっと考えて行動しろ!
「あと菊も。この暴れん坊ちゃんと見とけよ」
「……善処します…」
はぁ、とデカい溜息をつきながら、ギルベルトは後ろのベンチに腰掛けた。顎に手をあて、「うーん」と少し考えた素振りを見せた彼は、口を開いた。
「お兄様は魔人になる前、猛獣の悪魔だったから 、暴力を使った戦いが得意なんだが……すぐ興奮しちまうし、デビルハンターには向いてなかったのかもなぁ……」
ギルベルトの言葉にギョッとしたロマーノは、私の方に指を差す。
『こ、こいつが殺せって言ったんだ、コノヤロー、!』
「え!?」
突然着せられた濡れ衣に目を丸くする。
「私そんなこと言ってないです!絶対に!よくそんなデタラメをペラペラと、!」
『デタラメなんかじゃないぞチクショー!』
『この人間が悪魔を殺せって俺に言ったんだ!!本当だコノヤロー!!』
「こわっ!?ギルベルト君この悪魔嘘つきです!!逮捕です逮捕!!嘘なんとか名誉なんとか罪で逮捕です!」
『違う!!こいつがやれって言ったんだ!!悪魔は嘘をつけない!嘘をつくのは人間だけだコノヤロー!!』
「そんな設定ありません!!貴方が証拠ですよ、!こ、このばかー!おたんこなす!!」
『人間は汚いんだ!嘘をつく!俺はやれって言われたんだ!!』
「コノヤローとかチクショーとかキャラ作りして!もうごめんですよほんと!!」
「お前らうるせえええぇぇぇぇ!!!!!」
ギルベルトの大声にビクッと肩を震わせれば、「とりあえずお前ら落ち着け」と疲れ果てた口調で言われる。それに従って口にチャックをすれば、彼は説教を再開した。
「静かにできるよな、?」
「……はい」
『できる…』
「ん、偉い!正直どっちが足を引っ張ったとかは気にしないが、俺はお前らが仲良く活躍するところを見たいんだ」
「仲良くできそうか?」
「……善処します」
ロマーノは下を向き、冷や汗を垂らしながらコクッと頷く。私はそれを横目で見ているだけだった。
頭を冷やすのと休憩を目的に、近くの自販機に止まった。初めてのジュースにウキウキしながらも、渡されたお小遣いを自販機に投入する。
「何か飲みますか?」
『……なんでも』
よく見ると、彼の頭に生えた耳と尻尾は、ペタンと垂れ下がっていた。あからさまに元気を無くした様子を見て、オレンジジュースを彼に手渡し、隣に座った。
「ギルベルトさんが言っておられましたよね。私達が仲良く活躍する姿が見たい。と。ですが、私は嘘をつく人と仲良くなれるなど到底思えません」
「……だから、教えてほしいんです。包み隠さず。ギルベルトさんと何があったんですか?」
『……』
渡したオレンジジュースを見ながら、下を向く彼に問いかけるも、なかなか口を開かない。これは諦めるしかない問題なんでしょうか、と諦めかけていた時、彼が口を開いた。
『俺はお前と仲良くしたい訳じゃねぇ。だから、今言ったことはただの1人言だと思え』
「……はい」
『俺が仲良くできるのは、昔一緒に暮らしたヴェネチアーノとアントーニョだけだ。2人以外の人間は大嫌いだ。人間が何かしたからとかじゃねぇけど、悪魔の本能みたいなモンで嫌いなんだ』
『それに悪魔も大嫌いだ。悪魔は俺達の家を生活を壊して、アントーニョまで攫いやがった……』
『その出来事以降、はぐれたヴェネチアーノと攫われたアイツを探して彷徨ってたら、ギルベルトに誘われたんだ』
『ヴェネチアーノなら俺様が働いてる公安のデビルハンターやってるぞ。会いたいならお前もやるか?ってな』
『だがそれは条件つきだった。騒ぎを起こしたり、違反行為をしたらもうヴェネチアーノには会わせないってクソみたいな条件。まぁヴェネチアーノには会えたから、それはもう良いんだけどな』
『残るは悪魔に攫われたあん野郎だ。俺は悪魔からアントーニョを取り戻せるなら、人間の味方でも何でもしてやる。1人の人間の為なんぞと、お前には分からない感情だろうがな』
「そんな薄情な心は持ち合わせていませんよ。私にも大切な人がいますので」
「………自分で例えたら理解できるんです。もしあの人が悪魔に攫われたら、命がけで取り返しにいきます」
『……お前と俺を一緒にすんなコノヤロー』
「ちょっと、合わせてあげたんですよ?」
まったく。と拗ねながら、自販機で勝ったリンゴジュースに口をつけた。それを飲み干し、またパトロールへと気持ちを切り替えたら、彼がコチラに視線を向けた。
「どうかしましたか?」
『………なぁ、お前来る道中鮭が好きだとか言ってたよな?』
「まぁ、はい。それがなにか、」
『アントーニョを悪魔から取り返したら、朝食に出てくる鮭、俺の分も毎日やるといったらどうする?』
その提案に体がピクリと反応する。喉をゴクリと鳴らし、無意識に出てくるよだれを呑んだ。目を瞑り、精神統一を図って瞼を上げる。そして1言。
「どこまでもお供します」
ガタンゴトンと揺れる電車の中で2人は仲良く横に座った。公安からの外出許可を貰い、例のアントーニョさんを攫った悪魔の場所まで行くという。
『アイツを攫った悪魔の場所は分かってるんだ。問題はお前しか戦えない事だ。俺の姿を見られたらアイツを盾にされちまう。そうなったら詰みだ』
「ですね。計画的にいきましょう」
『……お前、大切な人がいるって言ったよな』
「? はい」
『家族とかか?』
「いえ。友人です。実体はなく、もう撫でる事はできませんが。まぁ私のココで生きてるのでいーんですが」
そう胸に手を当てると、彼は『人間は愚かだなぁ』とか言うから、つい再度八つ橋が千切れそうになる。その様子を他人事のようにケラケラ笑う彼に実物を見せようと、初めてアーサーさんの召喚を試みた。
「アーサーさん言われてますよ!来てあげてください!」
ところがどっこい。アーサーさんを呼ぼうとするが、まったく出てくる気配がない。いつもならケロッと出てくる癖に、おかしいなぁとか思っていると、彼の声が脳を駆け巡った。
『……悪い菊。今顔出せねぇ』
なんでです?
『ばっ、!おおお前のせいなんだからな!!』
そう言われ、脳内会話は終了した。
『やっぱりいねぇんじゃねぇか』
彼は右口角だけを上げながら、ハッと鼻で微笑した。
「い、います!今は調子が悪いだけで……』
『そりゃあそのアーサー?って奴は死んだって事だろ?死んだ命は無だ。心の中にいるだのなんだのは、浅ましい慰めだぞ』
まぁ信じろという方が難しいか。なんて諦め半分に「……あぁ、そうですね」と適当な返事を返した。それともう1つ。
(絶対仲良くなれないですね)
〘絶対仲良くなれねぇな〙
と実感する2人だった。が、それぞれの欲求の為に2人は電車に揺られるのだった。
『あの家だ。あそこにアントーニョと悪魔がいる』
街から外れた平原に、ポツンと佇む一軒家を彼は指差した。
「じゃあ早く行きましょう。あれからアーサーさん口利いてくれませんし、あまり頼らないでくださいね」
『? アーサーって奴と、それ。何の関係があんだよ』
「あぁ、私の力はアーサーさんと契約したものんです」
『……はぁ?アーサーは友達だって言ってたじゃねぇか。それに死んでるしよ』
「死んでません。あと彼は悪魔であり友達なんです。もう行きますよ」
『………人間の冗談は笑えねぇぞこんちくしょー…』
私の発言に引き気味な彼を連れて、その家へと向かった。家の前に着くや否や、さっきまで電車で話していた作戦が無かったかのように、彼がズカズカと前に進むものだから、流石に無防備すぎると止めに入った。
「ロマーノ君?」
『んあ?』
「貴方が姿を見せたらアントーニョさんを人質にされるのでしょう?そんな近づいては危ないですよ」
『ん、そんな設定だったか?』
「……設定?」
なんだか、彼と もともとあった壁が更に厚くなったように感じた。
『………言い間違い…だ』
何かがおかしい。違和感を感じられずにはいられないこの状況で、自分の野生の勘は脳に信号を送り、腰に差した愛刀に手を掛けた。
その時、彼は瞬く間に変身し、鋭く豹変した爪を自分に振りかざしてきた。急いで刀を抜き、受け身を取ろうとするも、振りかざした手に間に合うはずもなく、頭に刺激が伝わった。
クラッと立ち眩みにあえば、その場で視界が反転する。頭が痛い。体が言う事を聞かない。意識を手放す瀬戸際で目にしたのは、太陽光で綺麗さを増した黄金色の頭髪だった。
コメント
2件
続きありがとうございます!ロマ可愛い!あと、前言ったイラスト上げました!
続きありがとうございます〜!😭今回もめっちゃ最高です!!💗最後はアーサーなのかな...? 本当に面白かったです!!✨️いくらでも待ちますので良ければ続きお願いします!( . .)"