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大人達が見守る中、高速で飛び回るアリエッタによって、サイロバクラムの神が創った四角形の兵器の群れはあっさりと駆逐された。自分達から見てあまりにも常識外れなその光景に、援護しようという考えに至る者が出る事すら無かったのだった。
「パフィ、ちょっとパフィ! 目を開けてよパフィっ! なんでこんな事に……。今夜はあたしの好物を作るって張り切ってたじゃない。うわーん(棒)」
「こらこら」
ミューゼが真っ白になって倒れているパフィに向かって好き勝手やっているが、返事は無い。
呆れるムームーの後方では、アリエッタがピアーニャとネフテリアに掴まり、お説教されていた。
「アリエッタちゃん。あんな危ない事したら、メッだからね。まだパフィを連れて行ったのは許せるけど」
「は、はぃ」(何がマズかった? もしかして翼のデザインが良くなかったから、ダメ出しされてるのか?)
「分かったかな?」
「はいっ。うぅ……」(泣いちゃだめだ。怒られてるって事は、僕の為を思ってくれてるんだ。考えろ。一体何色がてりあの好みなのか……)
アリエッタは自分の行動が問題だという結論には至らなかった。というのも、最初の攻撃を開始してから全然怒られたり止められたりしなかったので、その行為自体が悪いという考えに至っていないのだ。ミューゼやピアーニャ、ソルジャーギア達も一緒になって攻撃していたという事も、罪悪感を感じさせない原因ではあるが。
「……コイツちゃんとリカイしてるのか?」
「怒ってる事は理解してるハズだから、とりあえずね」
それなりに単語は覚えてきているが、まだまだ会話としては通じにくい以上、雰囲気で怒るしかないのだ。細かい事はちゃんと会話出来るようになってから改めて調整していくしかない。
(あ、もしかして……)
優しさを充分に感じる説教の最中、アリエッタは怒られる別の原因に思い至った。それは、
ひしっ
「は? おい?」
「ぴあーにゃ、ごめんなさい」(そうだよね。あんな危ない状況でお姉ちゃんが離れちゃ駄目だよね。あんな凄い雷を見たから、感覚がおかしくなってたかも)
妹分を守らなかったという事実である。
本人は至極真面目な顔でピアーニャを抱擁し、そして涙した。
「いや、なんで?」
「あー……そういう反省に向かっちゃったかー……」
残念ながら説教失敗。
このままファナリアの家に帰るまで、ピアーニャを手放す事は絶対にしなかったという。
仕事が出来なくなった総長を、シーカー達はここぞとばかりに笑い、その場で『雲塊』によって闇討ちされていった。
亜空間にて。
イディアゼッターが虚空から、サイロバクラムの方向に向かって語り掛けていた。
「ようやく落ち着いたようですね」
「………………」
「ええ。今回は分かっていただければ充分です。やり過ぎではありましたが、人々とあの娘によって大した被害もなく収まりましたから」
相手は我に返ったサイロバクラムの神である。
冷静な今であればアリエッタの説明が可能と確信したイディアゼッターは、少し様子を見ながら時間をかけて説明していった。ファナリアに帰っていった事も。
「………………!」
「そうですね、こちらから手を出さなければ、ただの可愛い女神ですし、常に保護者も一緒にいます。早急に会話を教えるように言ってあるので、次に来た時はもう少し意思疎通が出来るかと」
「……?」
「エルツァーレマイアの出身次元は言語が違うのですよ。あの子は今のところファナリアに落ち着きそうですし、当分はこのリージョン『サイロバクラム』に来ませんよ」
「…………! …………!」
サイロバクラムの神は、このリージョンに正式な名前がつけられた事に驚いていた。
「はい、そういう名前になりました」
「………………♪」
どうやら、自分が創ったリージョンの名前を気に入った様子。
リージョンには神々自身も仮命名してはいるが、それをリージョンに住んでいる人々に伝える手段は無い。というより、世界創造時のルールとして知識面での直接的な干渉はしないように取り決めていた。なので、直接干渉可能なイディアゼッターにも仮名は教えられていない。
リージョン同士の交流が始まった時、自分達の住む場所の名前は自分達で付けるべきだという、人々の意志の自由を尊重した神々の配慮である。
「どうやら調子は戻ったようですね」
「………………」
「では、貴方には引き続き400年の封印を施します」
「……!?」
「何故そんなに驚いているのでしょう。危うくサイロバクラムを滅ぼす所だったのですよ?」
「!!」
「はいはい。時々様子を見せてあげますから、しっかり反省してくださいね」
こうして、サイロバクラムの神は一時的に封印されてしまった。イディアゼッターの存在は、こういった神々への罰や抑止力としても必要とされているのだ。
元々サイロバクラムは世界としても神に依存した創りではなく、人々も神の存在を認知していなかったので、例え神がいなくなったところで何の影響も無い。
「ふぅ、一応アリエッタさんの事を周知しなから、また様子を見に行くとしますか」
後に人々から虚空神と呼ばれる事になるイディアゼッターの真なる苦労は、これが始まりなのかもしれない。
巨大な壁が人々を滅ぼしかけた事件から数日が経った。
すっかり落ち着いたサイロバクラムの転移の塔では、元レジスタンスが嬉しそうに警備を務めていた。
「いやなんでレジスタンスが一番馴染んでるんだよ……」
「まぁまぁ、そんな事もあったなぁ。なつかしい」
「変わり身がヒデェ」
こうなったのも、元レジスタンスのリーダーであるエンディアの影響である。
ケインの筋肉に夢中になったエンディアは、ヨークスフィルンの魅力を徹底的に語り、そのままサイロバクラム人を次々とヨークスフィルンに連れ込んだ。
その結果、異世界に魅了される者達が続出し、間もなくレジスタンスが解体されたのだった。大部分の元レジスタンス達の顔は、それはそれは晴れやかだったという。
勿論納得していないレジスタンスもいたが、同志の殆どが離れた事で、完全に諦めていた。今はゆっくりと異世界を見て、受け入れようとしている。
「おーい、ヨークスフィルンとファナリアに行く法律が決まったそうだぞ」
「まじかー。そろそろ無料期間は終了かー」
今までは法が整っていなかった。その為、一部のソルジャーギアのみだが、許可があれば割と自由にリージョンを行き来出来ていた。本人達は少し残念そうだが、今後は手続きさえすれば誰でも通れるようになる。家族で異世界へ遊びに行く人も増えるだろう。
「今度ファナリアに行って生の魔法幼女でも探すか……」
「お前それは……」
「あのアリエッタちゃんみたいな子、たくさんいるかもしれないだろ?」
「ナルホドそうだな!」
「をい」
欲望丸出しだが、何事も最初はそんなモノなのかもしれない。
リージョン間の交流を前向きに進める事になったサイロバクラムは何を得るのか。そして他のリージョンに何をもたらすかは、ピアーニャ達もまだ少ししか理解していない。少なくとも、目を付けた魔力運用技術は、多数のリージョンに影響を与えるだろうと予想されている。もしかすると、四角形の家具や作物も……?
そんな期待を様々なリージョンに与え、さらに後日。サイロバクラムはついにリージョン外交をスタートしたのだった。
「ついに始まりましたね」
「そうだね。クォンは楽しみ?」
「ん~、まぁあれだけ関わっちゃいましたし、いい方向にいけばなーって期待はありますよ」
ファナリアのニーニルの町。現在ムームーとクォンが商店街でデート中。
丸い尻尾の美女(♂)と角ばった物体を浮かべたハイレグ美少女のコンビは人の目を引きやすく、周囲のヒソヒソ話のタネになっている。
本人達は完全に慣れているので、全く気にした様子は無い。2人は交流が始まったばかりのサイロバクラムについて、話をしながら歩いていた。
「最近のサイロバクラムはどうだって?」
「あの事件から、大気中のエーテルが濃くなったらしくて、その回収装置と運用方法を考案中って聞きました」
「あーあれ。大丈夫なの?」
「一部の獣がちょっと狂暴化したとかなんとか」
「あんまり大丈夫じゃなさそう!?」
「ソルジャーギアのみんながいるから、大丈夫ですよ」
サイロバクラムの神が残してしまった四角形の残滓は、世界全体に影響を及ぼしていた。だが、そういったトラブルに対する組織が既に存在している為、今のところ大きな問題にはなっていない。
「あ、あれ美味しそうですよ。食べましょうよー」
「はいはい。この後クリムの所で食べるから、ちょっとだけね」
「わーい」
腕を組んで歩く2人の姿に周囲の妄想が捗っているようで、息を荒らげている者もいる。
ムームーはそんな気配にしっかり気づいているので、軽く食べ歩きをしながらミューゼの家の方へと歩いていくのだった。
寄り道しつつもたどり着いたエルトフェリアは、相変わらずの大盛況。クリムの店『ヴィーアンドクリーム』では、ノエラの店『フラウリージェ』の店員が数名、新作の服を着て忙しそうに接客していた。
「うーん、相変わらずだね」
「ですねー」
入った所で順番待ちをしなければいけない状況だが、店を覗く2人は一切焦らない。そのまま店の裏側に回り、エルトフェリアとミューゼの家を繋ぐ渡り廊下へとやってきた。そこにはクリエルテス人のラッチが、リング状に変形して木にぶら下がっている。
「……何してるの?」
「ムームー殿リムか。今はこうして木のぬくもりを全身で受け止めているリムよ」
「そ、そう? お昼の時間だから来たんだけど」
「ではフェリスクベル様を呼ぶとしよう。少々お待ちリムぞ」
「ん、お願いね。中で待ってるよ」
母に習ってエルトフェリアの警備員をしているラッチは、家の中にミューゼ達を呼びに行った。やっている事は、まだまだ留守番程度のようである。
ムームー達は、エルトフェリアの裏口から入り、1つの部屋で待機し始めた。ちょっとわくわくしながら、これから来る相手の話題を始めるのだった。
「そういえばアリエッタちゃんは、どうしてるんでしょうね」