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エルトフェリアの廊下をテクテクと歩く4人の人物。そのうち2人の大人は、かなり疲れ切った顔で小さな人物に引っ張られていた。
「ミューゼ、パフィ、もーすぐっ」
「うんうん。今日はピアーニャちゃんも来るものね」
「あんまりはしゃぐと転ぶのよー」
今日は久しぶりにみんなでお食事会。アリエッタは我慢出来ないとばかりに保護者2人に話しかけていた。
ミューゼとパフィは普段着だが、アリエッタはちょっとオシャレしている。
「総長ってもう来てるの?」
「いまお母さんが塔に出迎えに行っていますリム」
「アリエッタ。ピアーニャちゃんはもうすぐ来るらしいから、良い子で待ってようね。可愛い格好してるから、きっと喜ぶよー」
「? はいっ」(ピアーニャいるの? まだなの? どっち?)
アリエッタが首を傾げた所で、とある部屋の前に到着した。
ラッチがドアを開けると、部屋の中にはムームーとクォン、そしてネフテリアとノエラが座っていた。
「コニチワっ! テリアっ」
「はいこんにちは~」
「コニチワ! ノエラ!」
「うんうん、こんにちは。よくできましたわね~」
順々に挨拶していくアリエッタ。その姿を、ミューゼはとても暖かい目で見守っている。パフィは興奮しながら見守っているが。
「アリエッタちゃん楽しそう……というより、嬉しそうですリムね」
「お昼の挨拶覚えたばかりだし、本人もたくさん会話したらもっと言葉を覚えられるって分かってるみたいで。最近はかなり積極的に話しかけてくれるようになったのよ」
サイロバクラムから帰る時、ミューゼとパフィは、イディアゼッターに言葉ではなく会話を覚えさせるように言われていた。その時は何が違うのかと疑問に思っていたのだが、試しに積極的にアリエッタと他愛ない話をするように心がけてみたのだ。
すると、みるみるうちに日常会話を覚えていき、以前よりも遥かに意思疎通がしやすくなっていった。
挨拶を終えたムームーがふと気づく。
「そういえば、名前の発音も良くなった?」
「あ、気付いたのよ? そうなのよー。いままでのも可愛かったけど、正しく呼ばれたのが嬉しくてうれしくて……その日は泣きながら仕事に行ったのよ」
「なんでそれで仕事行ったの……」
「リリと組合長に2刻だけ自慢してきたのよ」
「やめてあげて!?」
これまでは発音がうまく出来ずに下っ足らずな感じで会話し、名前を呼んでいた。会話に慣れて口の動かし方が上手くなったのか、「ぱひー」から「パフィ」へと呼び方が進化したのだ。
そしてそれが自信に繋がり、積極的に保護者2人に話しかけまくり、結果ミューゼとパフィの疲労に繋がっている。
「モースグ、ごはん、たビた…る!」
「うんそーだね。もうすぐだよ」(えっ、かわいい。間違えるのもかわいい)
所々カタコトになり、間違えたり慌てて言い直したりもするが、むしろそこが可愛く、疲れているところに話しかけられても、2人は嫌な気分どころか嬉しくさえ思えているのだった。
「パフィ。顔、顔」
「むへへー可愛いのよぉ~♡」
「最初から沢山話しかけてあげれば、よかったんですかね?」
「ん~、わたくしはそうは思わないかな」
「?」
言葉を覚えさせる為の教育方針を間違えていたのかと考えるミューゼだったが、ネフテリアがそれを否定した。
「これまではアリエッタちゃんに物の名前を教えたり、アリエッタちゃんが勝手にあの『名前の本』を作って勉強してたでしょ?」
「ええまぁ……」
ネフテリアの言う『名前の本』とは、以前にアリエッタが自分自身の勉強の為に作った単語カードの事である。そういえば商品にするのに名前を決めてなかったとネフテリアはこっそり思ったが、後回しにする事にした。
「そういう下積みがあったから、こんなにも早く会話出来るようになったんじゃないかなって思うの。知ってる言葉があると、飲みこみやすいっていうか」
「な、なるほど……」
「あとはアリエッタちゃんが、ミューゼとどれだけお話したいかって所でしょうね」
「やだかわいい……」
「だから、3人とも安心してわたくしの嫁になりなさいな」
「わかりま……へ? いやなりませんけどっ!?」
「チッ」
どさくさに紛れてミューゼをアリエッタごとゲットしようとしたが、後少しの所で言質を取るのに失敗したのだった。
丁度その時、部屋のドアが開いて2人の人物が入ってきた。
「お邪魔しまーす」
「き、きたぞー」
入ってきたのは、リリとピアーニャ。
ドアの外にはパルミラがいて、ラッチを手招きしている。
「それじゃあ我は下がらせていただくリム。何かあったらお呼びくださいリム」
「うん、ありがとね」
すっかりミューゼの手下のような立場が気に入っているようで、パルミラから色々教わりながら使用人っぽく振舞うラッチであった。ただし口調の方だけは、もっと自分の理想に近づけようと、別の努力をしているが。
「副総長は来なかったんですね」
「女性陣に混ざるのはツライって言って、私に譲ってきましたよ」
「あー…ね」
特に用がないのと、すっかりリリと仲良くしているロンデルを囲むのも何か違うと思い、納得した。
「あれ? そうちょ……あ」
そういえば、さっきからピアーニャが静かだと思い、ミューゼが見回すと、既にアリエッタの隣に隣接して座らされていた。その顔からはただならぬ怨念を感じる。隣のアリエッタのニコニコ笑顔とは、対照的である。
「いつのまに」
「さいしょからだ」
入ってきた途端に、誰にも気づかれないままアリエッタに掴まってしまったピアーニャは、もっと早く気付けと涙目で訴えるのだった。
ラッチ達が出て行ってから少しして、今度はルイルイをはじめとするフラウリージェ店員が、料理を持って入ってきた。
「お待たせしましたー」
「ありがとなのっ!」
『はうっ!』
『あぶぉわあああ!』
アリエッタのお礼の言葉に胸を撃たれ、危うく大惨事になる所を、ミューゼの蔦とムームーの糸によって免れた。ルイルイ達は料理が乗った皿ごと雁字搦めになり、ミューゼとムームーがぜーぜーと息を切らしながら、テーブルの上に乗り出して手や杖を突き出している。
「……うん、今のは仕方ないかな」
(大丈夫かな? あの場所もしかして滑りやすいんじゃ?)
ネフテリアに困った顔で見られているアリエッタは、自分が原因である事を理解していない。床を注意深く睨みつけている。
気を取り直してテーブルに料理が並べられ、ルイルイ達は申し訳なさそうに出ていった。
それを見送ったネフテリアは、エルトフェリアの代表者として乾杯の音頭を取った。突然。
「それじゃ、サイロバクラム交流開始おめでとー!」
「いきなりですわね! おめでとー!」
『おめでとー!』
「とー」
なんとかその行動について行った一同は、各々に料理を手に取り舌鼓を打つ。
今回の料理は、下拵えをパフィが行い、仕上げはクリムが全力で作ったもので、アリエッタの木(仮)や家から持ってきた野菜も使っている。
味をある程度自由に変化させられる葉や実を使えば、最高の料理にするのは容易い。ラスィーテ人なら尚更である。この日の為に実験と試作を重ね、現時点で出来る最高の料理を並べたのだ。
「おいしー!」
「さすがにスゴイな……」
「ここの料理を味わったら、お城の料理もただの家庭料理ね」
「それテリア様が言っちゃうんですか」
「やっぱパフィとクリムは凄いわ」
「ふふーん。もっと褒めてもいいのよー。この日の為にネマーチェオン人を沢山料理したのよー」
『あっはい……』
その説明だけで、ちょっぴり食欲を失った。よく見ると、パフィの瞳の奥に、暗いモノが視える…ような気がした。
この後結局、美味しそうに食べるアリエッタに釣られて、全員でしっかり完食したのだった。
「パフィ、おいしー!」
「アリエッタ、おいしかったー、ね」
「ふんふん。パフィ、おいしかったー」
「ぐふっ、どういたしましてなのよぉ~」
笑顔で感想を伝えられて、アリエッタとパフィはお互い大満足。
その様子を見て、ピアーニャは密かに小さな拳を握って喜んでいた。
(よしよし、いいカンジだな。このままカイワできるように、なってくれよ)
「あー、ピアーニャ。そんなに待ち遠しいなら、一緒に言葉教えてあげたら?」
「いやだっ。コイツぜったい、わちにもおしえようとしてくるぞ」
「そりゃ妹ですからねぇ」
「ちがうからなっ」
違うと言われましても……と、頭をポンポンと撫でられる総長を見て、困った顔になるネフテリアとノエラ。
ピアーニャの顔がイラッと変化したのを見てから、今後の事を話し始めた。
「クォンとムームーには、暫くの間フラウリージェでモデルの仕事をしてもらいたいんだけど」
「うえぇっ!?」
いきなりの仕事、いきなりの指名に、ムームーが悲鳴を上げた。
「……まぁルイルイに色々着せられるでしょうけど、運命だと思って諦めて?」
「そんなぁ……」
「ムームーさま。がんばりましょう!」
姉に弄ばれる未来が確定して意気消沈するムームーに対し、クォンは乗り気である。何しろ義理の姉と慕う人物と一緒に、愛する恋人の着せ替えを堪能出来るのだから。
「次のお披露目では、サイロバクラム風の服を出しますわ。幸いにもアリエッタちゃんが、そういう服を沢山描いてくれましたもの」
「サイロバクラムに行ってから、すっごい勢いで書いてましたからね」
アリエッタはサイロバクラム人の服装を見て、近未来的でいいなと思い、さらに自分で発現したロボットのような武器を思い返し、帰ってくる頃にはクォンと初めて会った時以上に、創作意欲に満ち溢れていた。その結果、先行してやってきたサイロバクラム人が心底憧れるレベルのボディスーツタイプの服が、それなりの量作られたのだった。
「先輩達に聞いたら、真っ先にここに来るって意気込んでました」
「もうそんなに広まってるの!?」
「これは緊張しますわね……」
交流が始まる前に本場を超えてしまったようで、店長のノエラの心境は穏やかではなくなった。
それもそのはず。神々の影響もあって、芸術面が進歩しないこの次元では、基本的に服は単色でワンパターンなのである。サイロバクラムも例外ではない。それどころか、サイロバクラムの神は造形センスも皆無で、全てが真四角だったのだ。見た事のない形状の服などを見れば、目を奪われるのは必然である。
「もう来てたりして」
「あはは、まさかぁ……あり得るね」
クォンの予想通り、たった今フラウリージェの扉を、2人のサイロバクラム人が開いていた。置いてある服のクオリティと値段に驚いて腰を抜かすまで、あと少し。
「まぁモデルの話はついでなんだけどね。2人にはしばらくの間、フラウリージェの警備をしていてほしいの。パルミラとシスだと、もしサイロバクラムから暴れん坊が来た時に、対処出来るか分からないからね」
「なるほど、まぁそういう事なら」
意外としっかりした理由があって、ムームーは落ち着きを取り戻した。
これでフラウリージェは安心と、アリエッタを見るネフテリア。
(こっちはこっちで、アリエッタちゃんの護りを強化しないとね。もうすっかり強力な能力を持っているって広まっちゃったし)
女神アリエッタは最重要人物なのである。これまでと違って言葉が通じやすくなったので、ある程度は制御出来るようになったと思われるが、それでもこれまでのやらかしで広まってしまった情報を消す事は出来ない。実際アリエッタ達の周囲で何かの気配を、ネフテリアは感じていた。
「そろそろ仕掛けてみるか……」
そう呟いた後、真面目な気分を落ち着かせる為にミューゼをお触りし、杖で叩かれるのだった。