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#一次創作
ruruha
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「央魔そのものは非力です。その血が体内に流れている分には、本人にはなんの効力も示しませんから。しかし、その血を得た者は強大な力が手に入ることになる」
「……どういうこと?」
「央魔の血はあらゆるものを活性化させ、その力を増幅させると言われています。衰えゆくはずの力をとどめ、失われた器官を蘇生させ、その個体が持つ限界の能力をなんの努力もなしに発揮できるようになる……」
「……ふうん」
「その顔は」
じっと私を見つめ返した。
「全く理解していない時の顔ですね」
バレてた……。
彼は私の家庭教師でもある。
状況は違っても、こういうやりとりは今に始まったことじゃない。
「……話はちゃんと聞いていたわ。でも、難しいことを一気に言うんだもの。分からないわ!」
「なるほど、私の説明が悪いと。ずいぶん簡潔に説明したつもりだったんですが」
「か、簡潔だったのかもしれないけど、簡単じゃなかった!」
私の反論に、アーウィンは意外にもあっさり肩をすくめた。
「まあ、いいでしょう。今回は仕方ありません。言ってる私もよく分かっていないので」
「そうなの?……すごく詳しそうに見えたけど」
率直な感想を口にすると、彼は少し笑う。
「ただの受け売りですよ。人間の中には、央魔を研究している人たちがいて……私はその報告を知識として知っているだけです。央魔は希少で、その血は強力な上に不安定。同じ個体、同じ状況でも同じ結果が出るとは限らない。現在にも”村”には数名の央魔がいるようですが、それでも詳しいことはよく分かっていないのです」
「?村って?吸血鬼が暮らす村があるの?」
「ああ、いえ……”村”とは、祓い手たちを取りまとめる組織のことです。昔からただ”村”とだけ呼ばれていますね」
「祓い手……じゃあ、フレディのいるところ?」
「まあ、そうですね」
興味なさげに首を振った。
「まあ、いいじゃないですか。そんなことは。いくら説明したところで、その力の本質は央魔にしか分からない。いずれ分かりますよ。あなたはいずれ央魔になるのだから」
「ま、待ってよ、待って!私はそんなものになんかならない!!」
「では自分を失い、血を求めるだけの存在になりたいと?あの場所に出会った者たちのように?」
「違う!!」
「央魔のヒナは特殊ですが、あなたはその中でも、さらに特殊だ。自我の対立は普通脳内で起きるものだし、あそこまで”影”が血に狂っていることも普通あり得ない。あなたは私のような普通の冥使になるという選択肢は、用意されていないんです。央魔として生きるか、”影”に取り込まれて我を無くすか。そのどちらかだ」
「……そんな……」
「あなたは央魔になるのです」
私の気持ちなどお構いなしに、アーウィンは断定した。
「で、でも……私!!わた、私……吸血鬼なんて……絶対!」
途端に手を離して、冷淡に言い放つ。
「選択肢はないのです。あなたには”影”を制してもらいます。私は央魔でないあなたに興味が無いので」
興味。その言葉に泣きたくなった。
「無理……そんなの無理!だってあのお化けは強いし、怖いし……わ、私は……私じゃできな」
腕を強く捻りあげられて、嘆きは断ち切られる。
「いたい!」
アーウィンは酷薄な笑みを浮かべて、私の顔を覗き込んだ。
「泣いていても、誰も助けてくれませんよ。ここには私とあなたしかいないのだから」
一瞬、彼の顔を見つめる。私とあなたしか?
「お、お母さんは……」
お母さんはどこ?さっきの悲鳴ーー。
「!!」
アーウィンの手を振り解いてベッドを下りると、部屋を飛び出した。
予感は見事的中。
物置へ飛び込むと、地下へのドアがぽっかりと口を開けている。
呆然と立ち尽くす私の後ろから、ゆったりとした足音が近づいてきた。
四角い穴を見つめたまま、叫ぶ。
「アーウィン……お母さんは……お母さんはどこ!?」
「さて……どちらでしょうかね?」
「やっぱりあの悲鳴は!!」
振り返ろうとした私の背中を、彼が強く押した。
短い階段を転げ落ちる。
その背後で扉が閉まった。
「アーウィン!!」
甲高い悲鳴を上げる。
扉に縋り付いて、拳を打ち付けた。
「出して!!アーウィン、出して!!ねえ、お母さんに何したの!!アーウィン!!」
けれど返事はない。
この重いドアの向こうに、あなたはいるのに。
私の声、聞こえているはずなのに!
「答えて!アーウィンーー!!」
予想通り、救いの手を差し述べることはなかった。
冷たい鉄のドアにすがったまま考える。
さっきの悲鳴……あれは夢の中で聞いたもの?
それとも現実の世界で聞いたもの?
本当にお母さんの悲鳴だった?
分からない。嫌な予感がする。
暗い通路を振り返ると、立ち上がった。
ここは地下道の入り口。
黒々とした闇の通路が、蛇のようにうねりながら奥へ延びている。
「出口」ではない。
地下道が続いている。
「あの場所」が開かずの修道院なら、私は今湖の下を通っているんだろう。
この生臭い臭いはそのせい……。
道を下るごとに、湿気と闇が濃くなっていく。
進むと死人門がある。
これが生と死の世界を隔ててる……そんな気がした。
「…………」
地下道が続いている。
死人門を抜けたこちら側は、さらに闇が濃くなった気がした。
闇色の道は緩やかに上がっている。
地上に出るハシゴまできた。
それをよじ登る。
目の前には開かずの扉。
開かないから、開かずの扉なの。
もし、この扉が開いたら……その時、何が起こるんだろう。
「?」
中庭を歩いていると、庭の隅に土が盛り上げられている場所があるのに気づいた。
何かしら……。
昨夜まで、こんなのなかったよね?
気になって近づいた私は、ハッと立ち止まる。
「!」
盛り上がった土の上には、見覚えのあるチョーカーがちょこんと乗せられていた。
震える手で、それを取り上げる。
血で汚れたそれは、バラのチョーカーだった。
リズがおばあさんからもらったもので、お守り代わりにいつもつけてた……。
「…………」
指できつく擦っても、こびりついた血は取れない。
それは拭い去れない現実。
リズ……。
夢じゃ、ないんだ。
もうどこにもいない。もう二度と会えない。
もう私の太陽は、二度と輝かない……。
しばらく泣いてから、血まみれのチョーカーをポケットにしまった。
庭には、おそらくリズのお墓がある。
フレディがやってくれたのかな……。
お墓に備えてあったチョーカーは、今私の手元にある。
コメント
1件
チェシャ猫さん、第四夜②読み終わりました……。アーウィン、ほんと冷たいですね。「興味が無いので」って突き放す言い方、心臓にグサッときました。でもその冷酷さが逆に、この世界の危うさを感じさせますね。それにラストのリズのチョーカー……血の付いたそれがポケットにしまわれるシーン、胸が詰まりました。彼女の不在が現実として重くのしかかってくるようでした。次で何か変わるのか、心配です。