「…仲直り、できないかな」
宮舘の、絞り出すような言葉。それは、この最悪な状況を終わらせるための、大人としての提案だった。しかし、渡辺の心は、それを猛烈に拒絶した。
「…やだ」
その声は、拗ねた子供そのものだった。
「え…?」と、宮舘が困惑する。
「やだ!やだもん、絶対やだ!」
渡辺は、その場にしゃがみ込むと、膝を抱えて、まるで聞き分けのない子供のように首を横に振った。
「どうして…。仲直り、したくない…?」
宮舘が、傷ついた声で問いかける。すると、渡辺は顔を上げ、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で、叫んだ。
「だって、『仲直り』したら、『ビジネスパートナー』に戻っちゃうじゃんか!」
「…!」
「俺は、そんなのやだ!涼太と、ただのメンバーになんてなりたくない!俺は…っ、俺は、涼太の“一番”じゃなきゃ、やだぁっ…!!」
それは、理屈もプライドもかなぐり捨てた、魂の叫びだった。
「翔太…」
宮舘が、そのあまりの子供っぽさに、呆気に取られる。
「俺が、悪かったのは、わかってるもん…!でも…俺、寂しかったぁ…!」
ついに、一番言いたくなかったはずの、本音中の本音が、嗚咽と共に溢れ出した。
「ごめん、ごめんよぉ、りょうたぁ…!俺のこと、嫌いにならないでぇ…!」
もう、アイドルの渡辺翔太の姿は、そこにはない。ただ、大好きな幼馴染に構ってもらえなくて、寂しくて、素直になれなかった、5歳の“わたなべしょうた”が、そこにいるだけだった。
その、あまりにも無防備で、子供返りした姿を見て、宮舘の心の中の氷が、完全に溶けていくのがわかった。
「…ふっ」
思わず、笑みがこぼれる。
「…なんだよ、笑うなよぉ…」
「ごめん、ごめん」と、宮舘は笑いながら、しゃがみこむ渡辺の隣に腰を下ろし、その頭を、わしゃわしゃと優しく撫でた。
「嫌いになんて、なるわけないだろ、バーカ」
その言葉と、昔と少しも変わらない手の感触に、渡辺は、さらに声を上げて泣きじゃくるのだった。
コメント
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好きです(T-T) この作品大好きです!!

いやめっちゃ長かった! 頑張りましたね!!