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※太宰視点
※探偵社員がポトマに移行する話が出てきます
※中也が煙草吸ってます
※𝖢𝖯要素は無いですが中太中好きが書いてます
※雑
起きるという行為は、生きてく上で必ずする行為だ。だというのに、こうも面倒臭くやりたくないものでは、一日の始まりとして最悪である。これだから生きるのは面倒だ。
あーあ、自殺したい。
そう思いつつも、今日はすんなりと起き上がり、探偵社へ行く準備をする。
今日は何をしようか。国木田君にちょっかいでもかけようかな。あ、書類仕事がだいぶ溜まってるんだ。丁度いい。張り切って仕事をしている国木田君の書類に少しずつばらばらに入れよう。何時気付くかな。
――プルルルルル、プルルルルル、プルルルル、プルルルルル
まだ早朝の乾いた空間を割る様に、着信音が鳴り響く。時刻は十一時。国木田君からの電話である可能性が最も高い。
ただ、何か違う。国木田君は私が遅刻する事にイラつきを感じはするが、仕事中に自ら電話をかけてくるような人物では無い。重要な話だとすれば話は別だが、そうでは無いだろう。ただの勘でしか無いが。
兎に角、こうも鳴り続けられては五月蝿くて仕方が無い。応答釦を押し「もしもし?」と話しかける。
急に声を出す事を要求された喉が、焦りながら出した声はがらがらであり、誰が聞こうとも寝起きだと言う事は判る。これで、国木田君である場合は今起きたという事は伝えなくて良さそうだ。
それにしても、応答は無い。もうそろそろ一言あってもいいと思うのだが。電話の相手は誰であったろうか。確認し忘れていた。画面を見ればわかるのだろうが、これまた寝起き特有の霞の所為で物が見えにくい。
「……」
迷惑電話だろうか。雑音などが聞こえる為、繋がってはいる。
「太宰か?」
不意に、スマホから声がする。機械特有の少しザラついた砂の様な声。
その声の主が誰なのか気付くのに、少し時間がかかった。寝起きで頭が回っていなかったのか、機械を通した所為で声が変わっていたからなのか。
恐らく、何方も合っている。何せ、有り得るはずも無い相手からの電話だからだ。未だに霧が掛かっている頭で、正確では無い声を記憶から引き摺り出すのは時間がかかる。ただ、これだけは判った。
これは夢だ
夢とは、寝ている間に脳が記憶を整理することで起きる幻覚である。今、私はそれを見ている。そうすれば、この状況に説明が着く。
「…何の用だい?」
何かを思い出す様に息が漏れる音がした。それはそうだろう。私は、彼の思考が完全に判る事なんて出来ない。天然の考える事は、何時もズレているから。
「いや、何か用があったからかけたはずなんだが…忘れてしまった。悪い」
電話越しでも、しゅんとなっている耳が見える様だ。犬は嫌いだが、彼が犬になったら私は飼う自信がある。というか飼わせてほしい。
電話口から、子供がよく出す高い声が聞こえる。何かに歓喜する様な声だ。自分もやれと要求する声が聞こえる為、彼は私と電話しながら子供の面倒も見ているらしい。
「いいよ。久しぶりに君の声が聞けただけで充分さ」
「?そうか。ならよかった」
じゃあねと、私は電話を切った。本当に、久しぶりに声を聞いた。
そうか。矢張りこれは悪夢か。下手をすれば一生起きる事の出来ない。彼が生きている世界。私が探偵社員のままで、忘れてしまうような要件で軽く電話が出来る程近く平和な関係。
私が夢だと自覚しているから、この関係が壊れそうになったら起きればいい。私に都合が良すぎる。良すぎるが故に、目覚める事が難しい。
起きたって、詰まらぬ日々が待っているだけだ。
温まることのない布団を被り、正午までに探偵社に着くように十一時には布団から出て、起きると言う行為をしなくてはならない。
歩き、探偵社に向かい、書類仕事をこなす。時には外に仕事をしに行く。時々国木田君を揶揄い遊ぶ。酷くつまらない時は巫山戯たふりをして入水しに行く。
歩き、誰もいない家に帰る。読み古した本を開き、既に暗記している内容を確認する様に読む。どうしても飽きてしまった時は、引き出しの奥にしまった小説を読む。偶に、酔いと悪意を求めて彼奴がよく行くバーへ行く。その中で、ふと思い付いた時には、彼との思い出のバーへ。
そんな日々。特になにか変わった事がある事もなく、ただ存在している日々。
生きる理由も、死ぬ理由すらも、三日月の様にぼんやりと境界線を無くし、曖昧になっていく。そのうち、生きる理由が見つからないから死にたくなり、死ぬ理由が見つからないから生き続けてしまう事になる。何かに期待しては、何も残らぬ日々を。
それがどうだ。この世界は、私がこうであればと、何度も何度も、存在する筈がない神に縋い願った世界では無いのだろうか。
きっと、彼は小説を書いている。保護している孤児は増えている。ふらりと、あのバーにも現れる。
恐らく、小説を書くのに行き詰まった時などに。
最近書いている小説の話。孤児の襲撃の腕が上がった話。中也がうざったい話。孤児を救い導いている話。
そんな、出来る筈もなかった会話を、彼と出来る。
一体、何方が悪夢なんだ?
いっそ、このまま目覚めずにいた方が、「幸せ」とやらになれるのでは無いだろうか。
なら、ずっとこのままで――
――プルルルル、プルルルル、プルルルル
カーテンの隙間から、光が埃を照らす。ぼやりとした頭に、着信音が無遠慮に入り込む。そのせいでがんがんと痛む寝癖の酷い頭を撫でながら、電話を切る。
五秒後、再度なる着信音。渋々、耳から離して応答釦を押す。
「おい、青鯖野郎!手前、何時まで首領を待たせる気だ!今日が探偵社とポートマフィア合同会議だって事忘れてんじゃねぇだろうな!」
ああ、五月蝿い。だから一度切ったというのに。全く。
悪夢から私を目覚めさせるのは何時もこの五月蝿いチビだ。
「五月蝿いなぁ。そんなに騒がなくても聞こえるよ。森さんなんて放っておけばいいのに」
「手前!今何つった!?」
電話口から、「まぁまぁ」と声が聞こえる。あれだけ首領がーとか云っておいて、森さんの目の前でこんな五月蝿い声を出しているのか。
「判ったから。じゃあ、今から着替えて向かうよ」
「手前、こんだけ遅れといて準備すらしてねぇのかよ…」
中也は怒るのにすら疲れたとでも言いたげに、大袈裟に溜息をついた。
「十分後に其方行くからな。さっさと準備終わらせろよ」
「態々飼い主を迎えに行くなんて、やっと私の犬って事自覚した?」
「ほっとくと来ねぇからだよ!ったく。兎に角、さっさと準備しとけよ!」
私が返事をする前にプツリと切れた電話を眺めながめる。
『現実と夢は、何方の方が悪夢なのか。』夢の中とはいえ、馬鹿げた思想だ。
そんなもの、現実に決まりきっている。
一体どれだけの人が、夢の中で生きていきたいと思ったことか。
どんなに苦しい世界でも、彼が生きていれば私はそれだけでいい。それだけの為に、私は何でも出来る。
玄関の前に投げ捨てられている砂色の外套を羽織る。
昨日は襟衣を着たまま寝たから、これでもう準備は終わった。
あとは、あの五月蝿いのが来るのを待つだけ。
読みかけだった本を手に取り、適当な場所を捲る。
_ピーンポーン…ガチャ
頁を幾つか捲っていると、背の低い男が部屋に入ってきた。
「勝手に入ってこないでくれる?そもそも鍵開いてた?」
「国木田とかいう奴が鍵くれたんだよ」
「あぁ、成程ね」
そういえば、十分後と言った割には早い。まぁ中也の事だ。「彼奴は十分後つった所で準備なんてしねぇだろうな」とでも思っているのだろう。
「…手前、昨日着替えたか?」
「いいや?」
「風呂は?」
「面倒臭くて」
中也は深く溜息をついた。そんなに溜息をついたら不幸になっちゃうよ。まぁ、私のせいで溜息をつきすぎて不幸になる中也も見てみたいけど。
「手前、本当そういう所だぞ…」
呆れた表情の中也は、私を無理矢理立たせて靴を履かせる。
「今回の会議は武装探偵社からポートマフィアに移籍する社員を決める会議…。手前にとっちゃ意地でも行かなくちゃならねぇ会議だろ」
そう。今日の会議は、ポートマフィアに探偵社員の誰が行くかを決める会議。
ポートマフィアの仕事は、人を殺すに値する事が殆どだ。でも、探偵社員は皆善人だ。人を、殺すという目的で傷付けることは出来ない。
人を一人殺しただけで精神を病み、後悔して、また殺すことを強いられて。それでも他の社員を守る為に殺し続ける。あんな善人に、ポートマフィアの仕事など向いていない。
だから、決めた事がある。彼の最期の願いを裏切ってしまうけれど。
裏切る覚悟位、つける時間はくれないか。
「…まぁ、手前の考えてる事は何となくわかる」
暫く歩いてから、一丁前に車道側を歩く中也が声を出した。
「だけどな、あの善意の塊みてぇな人間達が、それを赦すと思うか?」
かしゅりと音がして、煙草特有の臭いが私の鼻を掠めた。
中也が、煙草を嫌う私の傍で煙草を吸う時は、大抵決まった理由がある。
ただの、抵抗だ。中也なりの、抵抗で、我儘で、お願いであって。
帰ってきてくれと、傍にいてくれと、そんな我儘を私に頼む事が出来ない中也は、自分が思っている偽善臭い所だけを私に出して、煙草を吸う。
私がポートマフィアを抜ける時もそうだった。
『手前の好きにすればいいんじゃねぇの』
たったそれだけを、煙草を吸いながらどうでもいいように云った。
強くて、弱音なんて吐かないと。中也はよく云われる。
実際は、そんな事は無くて。弱くて、臆病で、どうしようも無いくらい本音を云うのが苦手だ。
「中也」
「ンだよ」
隣に歩く中也を、昔のように遠ざける事はせずに、短足の中也の為に、歩調を合わせながら歩く。
「今度は、中也のこと裏切らないよ」
中也は、物凄く驚いた顔をした後、吸っていた煙草を灰皿に捨てて、笑った。
「どうだろうな」