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あれから藤澤は大森と距離を置いていた。
スマホは通知オフ。鍵も変えた。職場もルートを変えて通っている。
(もう、終わらせなきゃ)
どれだけ優しかったとしても、どれだけ「恋人みたいだった」としても、あの部屋にあった僕の複製が、何より怖かった。
(あれは、愛じゃない)
(僕は、誰かの“空白”を埋めるために生まれてきたんじゃない)
_____________
夜。
藤澤のスマホが震えた。大森からだった。
「会って話せないかな。大丈夫。怒らないから。」
(……どうして)
(どうして、どこまでも追いかけてくるの)
怖かった。でも返事をしてしまった。
「場所は?」
22時すぎ。駅から少し離れた閉店後のカフェ。
中に入ると大森がひとりで座っていた。まるで何事もなかったかのように、笑って。
「久しぶりだね。元気そうでよかった」
「どうして、ここにしたの」
「涼架くんが昔SNSで“お気に入りのカフェ”って言ってた」
「鍵アカだったはず……」
「うん。だからフォロー用にいくつかアカウントを作ってたんだよ
涼架くんと同じ学校の生徒を装ってね」
さらっと言われたその事実に身体が固まった。
大森は続ける。
「今日は見せたいものがあるんだ」
そう言ってタブレットを差し出してきた。映っていたのは藤澤の勤務している様子。
カウンター。書架の間。スタッフ控室。
さらには更衣室のドアが閉まる直前の映像まで。
(……どこから?)
「隠しカメラをね、設置してたんだ」
「…………っ」
「怖がらせたかったわけじゃない。ただ、どうしても涼架くんの全部が知りたくて」
「……頭、おかしいよ」
「うん。君がそう言っても、僕は涼架くんのこと手放す気ないから」
藤澤は立ち上がった。
「……もう無理。僕は」
「じゃあここに入ってる人達、全員消しちゃおっかな?」
そう言って大森はもうひとつ、SDカードを取り出した。
「ここには君の実家の住所も入ってる。大学の頃の友人。バンドメンバーの連絡先も。あ、あと元カノの連絡先も入ってるけど」
「――っ」
崩れるように、椅子に座りなおす。逃げられない。
この人はもう僕という存在を全方位囲っている。涙が溢れて止まらない
「どうしたらやめてくれる」
「ここに帰ってくればいい。“僕の隣に”」
その言葉の甘さが毒のように染み込んでくる。
(終わったんだ、僕の人生は)
(逃げてもどこにも行けない)
(もう、いっか)
「……わかった。帰る」
その瞬間大森は心から嬉しそうに笑った。
「おかえり、涼架くん」
ずーーーっと、一緒だよ