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それは、最初から嘘だった。
そう思ったのは、同窓会の案内が届いた日だった。
封筒の中には、懐かしい校舎の写真と名簿が入っていた。
ページをめくりながら、私は自然と、ある名前を探していた。
見つからないはずがない。
だって、忘れたことなんて一度もなかったから。
放課後の教室で話したこと。
雨の日、傘を半分こにして帰ったこと。
卒業式の日、最後まで言えなかった言葉。
記憶は驚くほど鮮明だった。
けれど、名簿のどこにも、その名前はなかった。
誤植だと思って、実行委員に連絡を入れた。
返ってきたのは、困惑したような返事だった。
「すみません。その名前の生徒は、在籍していませんでした」
一瞬、冗談かと思った。
でも、相手の声は本気だった。
アルバムを引っ張り出した。
集合写真の中に、彼がいるはずの場所は空いていた。
不自然なくらい、きれいに。
母に聞いてみた。
「この人、覚えてる?」
写真を見た母は、首をかしげた。
「誰? あなた、昔から一人でいること多かったでしょ」
胸の奥が、静かに冷えていく。
じゃあ、この思い出は何なのだろう。
誰と笑って、誰に傷ついて、誰を好きになったのか。
その夜、夢を見た。
知らないはずの声で、誰かが私を呼んでいた。
目が覚めると、枕元に、使い古したペンが落ちていた。
見覚えがある。
確か、彼がよく貸してくれたものだった。
でも、次の瞬間、私はそれを否定した。
――彼なんて、最初からいなかった。
そう思った途端、胸の痛みだけが残った。
理由も、名前も、思い出も消えたまま。
残ったのは、
「何かを失った」という感覚だけだった。
それが嘘なのかどうか、
もう確かめる術はなかった。