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6限分の授業を終えると、あっという間に帰りのHRを迎えた。
それから暫くして掃除が終わり、都合よく誰もいなくなった教室の自席で腕を添えて机に顔を突っ伏していた。
頭の中はずっと昨夜のことや先生のことでグルグルしているのに、言語化するのはしんどい。
〝先生に告白して付き合える〟なんて絵空事、叶うわけが無いと何も出来ずにいる自分と、それを軽々と叶えている人を比べてしまうと、とても情けないし、好きなこと自体が惨めになってくる。
〝普通〟に考えれば、先生に恋をしているなんておかしい。
私はおかしい子なのだろう。とか、余計なことまで考え始めて、唸りそうになっていた。
「…どうした、体調悪いのか?」
そのとき、突然そんな言葉が聞こえ、すっ顔を上げるとそこには心配そうに私を見つめてくる齋藤先生がいた。
「えっ、齋藤先生…」
びっくりしてワンテンポ反応が遅れ、慌てて席から立ち上がるが、先生は私の肩に手を添えてきて
「なにかあったなら聞くって言ったろ?」
と言って微笑むだけだった。
なのに、私は気が付くとまた席に座って、先生の方に体を向けて「先生、こんなことを言うのはやめようと思っていたんですが、お話があるんです」と言っていた。
「ああ、真剣に聞くから、聞かせてくれるか…?」
その包容力ある柔らかい言葉は、私の穢い恋心を包んでくれるようで、安心して言葉を紡いだ。
「私……齋藤先生のことが、好き…なんです!」
……言ってしまった。
怖くて先生の顔が見れない、だから下を向いたまま、私は続ける。
その好きというのはライクじゃなくてラブなんだと。
すると先生は私の頭を撫でて言った。
「…ありがとな、嬉しいよ」
思わず俯いていた顔を上げると、その顔はとても慈愛に満ちた表情で私に笑い掛けていた。
そして私が「先生、それってどういう意味ですか」と言いかけた時だった。
「用のない生徒は速やかに下校するように」という放送が流れ、先生にも「また明日な」と言われたので、渋々鞄を肩にかけて学校を後にした。
家に帰宅するなり、私は自室に篭ってスマホを起動すると即座にTwitterを開いた。
「やばい、先生に告白したら振られるかと思ってたんだけど、めっちゃ笑顔で「嬉しすぎる、ありがとう」って言われちゃったんだけど!!やばい付き合える可能性あるのかな?!」
浮かれ気分で今日あったことを呟くと、すぐにいいねがついた。
ほぼ同時にリプも飛んできて、送ってきたリプの文章を目で追うと、そこには「でもそれって付き合えるとは言われてなくね?」と書かれていた。
思わず私はスマホの画面を消し、ベッドの上に放った。
……たしかにそうだ、だけどあんなに喜んでくれたし。
そんな期待と不安が胸を渦巻いている間にも返信は増えていき、いいねの数は凄いことになっていた。
その数に興奮してしまい、ツイートした人にDMで〈先生は私の事どう思ってると思いますか?〉と送るとすぐに既読がついて返事が返ってきた。
〈それは本人にしかわかんないけど、少なくとも嫌われてはいないと思うから頑張って!〉
その言葉に勇気づけられた私は、齋藤先生の事を想いながら眠りにつくことにした。
翌日以降も、先生への好意をひた隠しにしながら過ごしていった。
そして迎えた昼休み、いつもなら小春ちゃんと話す時間だったけれど今日は用事があるといってすぐに教室を出てしまったので、1人で昼食を取ることになった。
……そういえば最近先生と話せてなかったな。
なんて思いながら、やはり付き合えるのか付き合えないのか決定的な返事を聞かないことにはモヤモヤし続けてしまうだけなので、私は教室に戻ってきた先生に本音を聞くべく、素早く話しかけた。
「あの、先生、昨日の返事って、どういう意味なんですか…?」
勇気を振り絞って問いかけると、先生は少し驚いた表情をした。
そして一度咳払いをしてから真剣な表情で私を見つめてきた。
先生の目にはどこか不安げな自分が映っていて、それは期待感からか恐怖心からかはわからなかったけれど、私は先生の言葉を待っていると、先生は口を開いた。
「付き合うことは出来ないな」
「それは…私がまだ子供だから、ですか………?」
先生のストレートな言葉に、つい聞き返すと
「ああ、ネネに好かれるのは嬉しい。でもその年齢で、今先生に抱いている感情を恋というには軽すぎるんじゃないか?」
「えっ」
振られるどころか、先生への〝好き〟という恋愛感情を否定され、癇癪を起こしそうなほどに動揺してしまった。
「もう少し冷静になって考えるべきだと思うな」
そんな私にお構いなく自分の意見を押し通すかのようにそれだけ言い残して、私を通り過ぎて教卓に向かい、また女子の群れに囲まれた。
私は帰宅中の電車の中で壁に腰かけて、スマホを起動するとTwitterを開いて、ひとつのツイートをした。
「先生の気持ちがようやくわかった、先生と私は両思いみたい。でも先生はちゃんとしている大人だから『卒業したら付き合おう』と遠回しに伝えてくれた」