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冬美視点。
亮一に電話したけど、留守電になってしまった。
LINEでもしようかと思ったけど、浮気を疑って慌てて連絡してると夫に思われるのもなんだか癪にさわる。
ガチャリと玄関のドアが開いた音がした。
枕元の時計で時間を確認する。
[22:38]
そんなに遅い時間でもない。
「マル、いこ」
ベッドから起き上がり、マルと下へ降りた。
「おかえりなさい」
「ただいま、疲れた…」
「歓迎会で飲み過ぎたの?」
「あ、いや、そんな飲んでないよ。やっぱりね、ああいうのは気疲れするよ」
「女ばかりだと、大変よね?何か食べる?食べれてないんでしょ?」
「あー、じゃあお茶漬けできる?梅干しの」
「できるよ、ちょっと待ってて」
上着を脱いで、ソファにどっかと腰をおろしていた夫。
新人さんの歓迎会というのは嘘、それはわかってるけど、午後から休みをとってどこで何をしてたんだろう?
女と浮気をしていたとしても、あまりにも疲弊しているように見える。
「先に風呂入ってくるわ」
「追い焚きしてね、ぬるいと思うから」
「ん、わかった」
お茶漬けの準備をした後、お風呂場の前に脱いだ夫の洗濯物を確認した。
真っ白なシャツはシワだらけになって、あちこちに肌色のファンデーションとピンクの口紅らしきものが付いていた。
うっすらと香水も匂った。
見ればわかる、浮気の痕跡。
でもそれを隠そうともしない亮一。
隠そうともしないということは、浮気ではないということかもしれない、すくなくとも夫にとっては。
これを付けた犯人はあの日の銀子なのだろうか?
だとしたら、このあからさまな痕跡は銀子からの挑戦状かもしれない。
「バカだなあ」
思わず声に出してしまう。
ここで妻である私が夫を責めるとでも思ってるのだろうか。
挑発なんかには乗らない。
ゴミ袋を持ってきて、その日の夫が着ていたものを全て捨てた。
そして何事もなかったかのように過ごす。
だって、夫は、とても疲れているように見えたから。
もしも浮気をしていたとしても、それは夫にとっては負担でしかないものということだ。
ほっといてもそのうち終わる。
「ねぇ、お茶漬けできたよ、ワサビ、効かせとく?」
「あ?うん、糠漬けもあるとうれしいな」
「承知しました」
できるだけ明るい声で、いつもと同じに対応する。
それが私にできることだ。
次の朝。
「じゃ、行ってくる」
「ねぇ、ちょっと待って、顔色が悪いよ、風邪でもひいたんじゃないの?」
次の朝、仕事に出かけようとする亮一をとめて、おでこに手を当てた。
「大丈夫だよ、熱もない。少し疲れてるだけだから。それより今日…」
「おぼえてるよ、結婚記念日!15回目の」
「できるだけ早く帰るよ」
「うん、あ、そうだ、今日は亮一のお店に買い物行っていい?」
「え?あ、うん、俺、忙しくて相手できないけど」
「なんで店長さんに相手してもらわないといけないのよ。聡美ちゃんと買い物行くね」
「う、うん、じゃ行ってくる」
「行ってらっしゃい」
普段の買い物は、夫のお店を使わない。
なんとなく行きづらいのと、車で行かないといけないのがちょっと億劫で歩いていけるお店で済ませてしまう。
なので、お店に行くと言われて、少し焦ったように見えたのは仕方ないのかな、それとも。
夫を見送った後、聡美に連絡を入れて昨夜の夫の様子を伝え、今日買い物に一緒に行ってくれるように頼んだ。
もしかしたら、何かわかるかもしれないからと。
《いいよ、午前中なら行けるから。午後から保護者会なんだよね》
私は急いでマルの散歩を終わらせて、聡美の家に向かった。
「おはよう!さぁ、行こうか!」
「ちょっと聡美ちゃん、なんか昨日より張り切ってない?」
「もちろんよ、もしかしたら、お店の店員に浮気相手がいるかもしれないでしょ?それがあの銀子かもしれないと思うと、ワクワクするわっ!」
「もう、何か起こること前提じゃないの?」
「起こらないと、面白くないし。毎日家事に追われる退屈な主婦の楽しみなんだから」
ふんふん🎶と鼻歌混じりの聡美。
「あれ?その服」
先日私のフリをして、マルと家に帰ってくれた時の服だった。
そしてサングラス。
「そうよ。銀子がいたら、あの時の私を思い出すでしょ?さすがに店内で帽子は無理だけど」
「用意周到なんだから!」
車を出す。
「ね、冬美さん、ひとつだけ確認しておきたいんだけど」
「なんのこと?」
「万が一、お店で修羅場になったらご主人の立場としては、責任を取らされるかも?修羅場なんかにならないようにするけど」
「その時はその時考えるよ」
「そう?でもなぁ、あのご主人が浮気とかってちょっと考えにくいんだよね、イメージがわかないっていうか」
「私もそれ思うんだ、だから確実にわかるまでは気づいてないフリしとく」
聡美が言う通り、夫の亮一が浮気するなんて想像できない。
優しいから誤解されることはあるかもしれないけど。
「さ、着いたよ。いるかなぁ?銀子ちゃん」
「ホントに楽しんでるんだから」
カートを押しながら店内に入った。
そうだ、結婚記念日のご馳走を買いにきたことをすっかり忘れてた。