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竜崎
放課後。
紅葉がスマホを見ながら、小さく声を上げた。
「見てこれ」
渚が身を乗り出す。
「なになに?」
画面には……猫がじゃれている動画。
「かわいい〜!」
「でしょ?」
「猫は何でこんなにも可愛いのか……ほんと癒される」
「あの子ら絶対に自分が可愛いって自覚してるよね(笑)」
少し遅れて、陽向も覗き込む。
「お?猫か。確かにかわいいけど…俺は断然犬派だな!」
「いやいや、猫一択でしょ」
「犬は芸ができるし、賢いじゃん!」
「猫だって鍋に入るよ」
「犬は……」
「いやいや猫は……」
軽く言い合いになりながら、二人は笑っている。
「こはるは?」
そんな様子を見ている渚がこはるに話を振る。
「え……?」
少しだけ考えて、
「私は……犬、猫より、うさぎですかね?」
その言葉に、
「お、意外」
犬猫戦争をしていた陽向が笑う。
雪斗も少しびっくりしたのか、視線を持っていた本からこはるへ移した。
「意外と知られてないけど、うさぎって結構感情表現豊かだしな!」
「え、そうなの?」
紅葉が興味を持つ。
「って……昔、雪斗からめっちゃ聞かされた」
「……そんな言ってないだろ」
雪斗が少しだけ顔をしかめる。
「でも、実際飼ってみて初めて分かることも多いよ」
記憶を遡っているのか、視線を上に向ける雪斗。
「嬉しいと変なジャンプしたり……怒ると足鳴らしたりするよ」
と言い、笑いながら足で床をタンッと鳴らしてみせた。
こはるは、その音に少しだけびっくりしたが、雪斗がうさぎの話を楽しそうにしているのが嬉しく、少しだけ目を細めた。
「へぇ〜」
「って言うか、雪斗うさぎ飼ってたんだね。」
「ん〜…昔ね……」
こはるの胸が締め付けられた。
「じゃあ雪斗もうさぎ派?」
紅葉が軽く聞く。
「……いや」
ほんの一瞬だけ、間が空く。
「……今は特に……」
視線を逸らしながら、続ける。
「……好きとか嫌いとか、そういうのはないかな」
(……)
帰り支度をしていたこはるの手は、止まっていた。
⸻
廊下。
「こはるはさ」
紅葉が何気なく言う。
「なんでうさぎ好きなの?」
「え……?」
少しだけ考える。
「そうですね〜……」
言葉を探すように、ゆっくりと続ける。
「ちゃんと、見てるんですよ」
少しだけ悲しそうに笑うこはる
「ん?」
「一緒にいてくれる人のことを……ちゃんと見てるんです」
「……」
「嬉しいときとか、悲しいときも」
「……ちゃんと分かってて」
少しだけ視線を落とす。
「声は出せないですけど……」
「その分……」
「行動で伝えようとしてる、というか……」
「へぇ……」
紅葉は少しだけ目を細める。
「こはるも詳しいね。昔うさぎ飼ってたの?」
「飼ったことないですよ」
笑って答えるこはる。
「その割には、めっちゃうさぎの気持ちをわかってるみたいだったからさ」
「あ、あははは〜。ただ好きなだけですよ〜」
その反応に笑う紅葉。
少しだけ歩いて、
「でも」
ぽつりと続ける。
「雪斗も、うさぎに詳しかったよね」
「あれだけ詳しくて、好きじゃ無いわけないでしょ(笑)」
紅葉の言葉に、心が少し軽くなる。
「そうですね…!」
こはるは小さく頷き、笑顔で答えた。
「紅葉〜こはる〜早く帰ろ〜!」
下駄箱で叫ぶ渚。
「今行くー」
紅葉とこはるは足早に渚の元へ向かう。
⸻
「あ、すみません……少し寄るところがあるので、ここで失礼します!」
軽く会釈をし、いつもとは違う場所でみんなと別れるこはる。
さっきの紅葉の言葉を思い出しながら、目的の場所により、帰宅をするこはるであった。
⸻
夜
甘い匂いが広がる部屋の中で
こはるは、溶かしたチョコレートをじっと見つめる。
「……」
ゆっくりと、型に流し込む。
(……うさぎ)
頭の中に、あの言葉が浮かぶ。
「……」
手が、ほんの少しだけ止まる。
(……好きとか嫌いとか、そういうのはないかな)
胸の奥が、少しだけ重くなる。
「……」
でも、
もう一度、チョコを流し込む。
(……それでも)
(嬉しいと変なジャンプしたり……怒ると足鳴らしたりする)
手は止まらなかった。
型の中で、少しずつ形になっていく。
丸い体。
小さな耳。
その形を見て、
ほんの少しだけ、目を細める。
(……)
少しだけ迷う。
でも、
手は止まらなかった。
「……よし」
小さく呟いて、
そっと型から外す。
少しだけいびつな形。
(やっとできた…!)
犬や猫の形をしたチョコの隣。
少しだけ数の多くなってしまった別の形のチョコを大切そうにラッピングをしていく。
(雪斗くん、喜んでくれるかな……)
⸻
次の日の朝。
「どうぞ」
こはるが、小さな袋を差し出す。
「え、なにこれ?」
「バレンタインは……明後日ですけど、学校がお休みなので、先にお渡ししようかなと(笑)」
「すごーい!」
「ありがとう。あ、だから昨日途中で帰ったんだ」
「みんなに内緒にしたくて」
「食べていい?朝ごはん食べてないからお腹すいちゃった(笑)」
「初めて作ったので、見た目とか味とか……ちょっと変かもしれないですけど、それでもよければ!」
早速中を開ける2人
「え…これで初めて作ったとかやば……めっちゃ可愛くない?」
「猫かな?可愛い。食べるの勿体無いね」
大絶賛の2人
「お、なになに、俺のもあったりするの?」
陽向がひょっこり現れた。
「あんたのは無いよ。これは私たちの!」
渚は言うが、こはるはちゃんと用意していた。
「陽向君のもちゃんとありますよ」
陽向にも渡す。
「やった!ありがと!」
「こんな奴にあげなくてもいいのに!」
「こはるちゃんは優しいんだよ!って。こっちは犬じゃん!すげー!」
少し照れくさそうに笑うこはる。
(……あと、一つ)
手の中に残った、小さな袋。
陽向に続き、雪斗も教室に入ってきた。
自分の席の周りで騒いでいるみんなを見て
「おはよ〜って……朝から賑やかだな」
「おはよー」「うっす」
「見てみてこれやばく無い!?こはるが初めて作ったんだって。しかもチョーうまい(笑)」
次々とチョコを頬張る渚。
「おぉ…すごいじゃん!」
ゆっくりと、雪斗の方を見る。
「あの!」
「ん?」
「雪斗くんは……」
ほんの少しだけ、間を置いて
袋を差し出す。
「こっちを!」
「?」
受け取った雪斗が、中を見る。
「……うさぎ?」
「はい。」
小さく頷く。
「うさぎのチョコです!」
「バニーケーキも好きだと言っていたので!耳が折れないように作るの大変だったんですからね(笑)」
雪斗は、少しだけそのチョコを見つめて
「……ありがと」
短く答えた。
⸻
放課後。
「うまっ!」
陽向の声が響く。
「いいな〜私もう食べちゃった。それちょうだい」
「やらねーよ!」
「でも初めて作ったとは思えない出来だよな。甘さもちょうどいいし」
陽向と紅葉も笑いながら食べている。
「よかったぁ……」
こはるは、小さく息をついた。
ふと、視線が動く。
雪斗の方を見る。
「……」
袋から取り出したチョコ。
その中に、
小さなうさぎの形。
雪斗はそれを見つめる
「なんか……出来が良すぎて食べるのちょっと勿体無いね(笑)」
と言いながら一口かじる。
「……どう……ですか?」
思わず、聞いてしまう。
「うん、おいしい…」
「……そうですか」
こはるは、優しく笑って小さく頷く。
(……よかった)
それだけで、十分だった。
⸻
こはる達が先に教室を出ていく。
静かになった教室。
「……」
雪斗は、手の中のチョコを見る。
少しだけ、指でなぞる。
「……」
ほんのわずかに息を吐いて、
もう一口かじる。
何も言わないまま、
静かに食べ終えた。
⸻
帰り道。
「……」
夜空に浮かぶ、細い三日月を眺めるこはるが、
ふっと、小さく笑う。
(……難しいなぁ)
そう呟きながら、小さくステップを踏むこはるであった。
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