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「んん……」
目覚めたときには暗闇の中に居た。
光の一切灯らない真っ暗闇の中で、手が付ける地面があることを確認した後に私は身体を起こした。
「あれ、私……あの魔物に食べられて、それで……」
(何で生きてるの?)
そうだ私は確か、あの時、リースを助けて吹き飛ばされたグランツの手当てをしようと思って駆け寄ったら、後ろにあの魔物がいて。
そこまで思い出して、急に私の身体は震えだした。
まさか、食べられるとは思っていなかったからだ。そこからの記憶は曖昧で、そうして何故かここにいる。
私は辺りを見渡すがやはり何もなく、広がるのは混沌の闇だった。しかし、足が付ける地面があると言うことだけ救いだろうか。いや、ふわふわと浮いていたらどう……ということでもないのだが。
「いや、私……死んだのかな。もしかして、ここって死後の世界!?」
確かに魔物に食べられてそのまま死んでしまったとしたら辻褄が合う。死後の世界ってこんなんなんだあ……と馬鹿な事を思っていると、自分でも気がつかないうちにポタリポタリと涙が流れていた。
「あれ、何で私泣いて……死んだのがショックとか、そういうんじゃ」
両手で零れる涙を拭うがそれでも私の涙腺は決壊したように、止らなかった。
寂しいとか怖いとかそう言った負の感情が波のように押し寄せてくる。その黒い悲しく寂しい感情に飲まれそうになり、私は思わず自分の頬を叩いた。
「そうよ、悪いことはしてないんだし。地獄に落とされるなんてこと無いでしょう!」
自分でもどこからその発想が出てきたのか、自分のポジティブ具合に若干ひいていたが、この状況はどうしようもないので、取り敢えず前向きに考えることにした。
といっても、ここには何もなく、広がる闇を見つめることしか出来なかった。
「死神とかがむかえに来るのかな……閻魔様とか……あはは」
そう思うと少し笑えてきて、そんな状況ではないのに、つい口角が上がってしまう。
だがそれも一瞬のこと。私は、今の状況を考えるとやはり恐怖の方が勝り、自然と身体が震えだしていた。
「あっちでやり残したこと一杯あるのに」
まだ自分が死んだと確定は出来ないが、この闇の中から抜け出す方法など知るはずもなく、私はリースの顔やリュシオル、ルーメンさん、グランツやアルベドの顔がふと頭に浮かんできた。ここに来て関わった人、それからずっと私のことを気にしていてくれたリースのことが、走馬燈、思い出が蘇ってくるのだ。
それはもう、負の感情の波を押し返すように。
私は、何も出来ていないと思った。
聖女として召喚されたのに、聖女じゃないと言われ続けて、この間は攻略キャラの一人と喧嘩もしてしまって。
ああ、何て自分って馬鹿で無能なんだろうと思った。
まあ、オタクだし何も出来ないって言うのが普通だろう。だって、何で召喚されてはい戦って下さいって言われて、はい戦いますって言えるのだろうか。私は言えない。
でも、聖女だから大丈夫だろって自分に言い聞かせてここまでやってきた。
そうして、告げられた悪役への道。
リースの誕生日あたりにはヒロインが現われて、私は悪役への道を進まざる終えなくなる。まあ、それが確定というわけではないが、所詮は偽物聖女であることは私は痛いぐらいに分かっていた。だって、これまでに私を聖女って認めてくれた人がいただろうか。
攻略キャラはまだしも、神官やルーメンさん、私の周りで私の数少ない味方以外は皆私に酷い目を向ける。
私こそが災厄とでも言うように。
「……どうしよう」
そう呟けば、私の声がこの真っ暗な空間にこだまする。
私は、このまま闇に溶けるよなマイナスの気持ちを持ちながらここでしゃがみ込んでいるのもイケないと、歩くことにした。もしかしたら出口があるかも知れないと思って。
『エトワール!』
暫く歩くと、聞き覚えのある声が耳に響き、私は振返った。しかし、その声の主はそこにはおらず代わりにヴンと音を立ててモニターのようなものが現われる。そこには、外の景色だと思われる、リースやグランツが戦っている姿が映し出されていた。
リースはかなり動揺している様子で、必死になって私の名前を呼んでいた。その必死さが今まで見たことの無いようなものだったので、私はそのモニターに近付いた。しかし、そのモニターには触れることは出来ず、スカッと音を立てて私の手は空を切った。
どうやら、この映像はプロジェクターのようなもので映し出されたものらしく、まあそのプロジェクターがあるわけではないのだが、実際に触れることは出来ないらしい。
だが、この映像が見られると言うことは、ここはやはり魔物の腹の中らしい。
「腹の中ってことは、私いつかとかされちゃうんじゃ……!」
最悪の未来が容易に想像できてしまい私の顔はみるみるうちに青くなっていった。
しかし、魔物が先ほど食べた騎士達がいないところを見るともう消化されてしまったか、はたまたこの闇に溶けてしまったか。どちらにせよ、ここにいるのは危ないと思った。勿論、ここから脱出する方法があるわけでもないのだが。それでも、ここは空気が重い。
吸うだけで、それこそマイナスの気持ちへ気持ちへとなっていくような。
(この魔物って確か、災厄の……)
災厄は確か、負の感情を増幅させるものだと言っていた。また、魔物を凶暴にもと。だが、これがもし魔物でないとしたら?
そう考えて、少し歩くと、ドクン、ドクンと何かが脈打つ音が聞えた。
「何の音?」
その音に耳を澄ましながら、暫く歩いていると黒い空間の中に、人間の心臓のようなものが現われた。それは、周りに棘のようなもので覆ってあり、棘はそれらを守る役割を持っているようだった。
私は、何故かそれに手を伸ばしており、私が近付いた瞬間、棘の一つが私の手をパシンと叩いた。
酷い音と共に、私の手に棘で傷つけられた跡ができツゥ……と真っ赤な血が流れ出た。
「……もしかして、コレが魔物の心臓? コレを壊せば……」
ピンと何かが繋がった気がして、私は手で弓矢を引くポーズを取った。そうして、イメージすれば、光の矢が現われる。
コレを壊せば、きっとここからでられると確信したからだ。
しかし、私が弓を引こうとした次の瞬間、足下にもぞもぞっとしたものが這った。そして、それが這いずりながら私に近づいてくる。
私はそのおぞましい姿に悲鳴をあげるが、それと同時に私の周りではっていたものは私の身体に巻き付いてきた。
それは、手のような形をしており、無数の手が私をさらに深い暗闇へと引きずり落とそうとしているのだ。
『お前は聖女じゃない』
『この偽物聖女が』
『災厄の前兆がこんな所まで』
と、誰かも知らない人の声が脳内に直接流れてきて、私は
頭が痛くなった。
これは一体なんなんだ……私は頭を押さえながらよろめく。
『貴方はダメな子ね』
『ピアノなんてやって何になるんだ。勉強をしろ』
(お母さんと、お父さんの声……? 何で?)
さらには、追い打ちをかけるように、一番辛かったときの思い出が声が私に響いてきた。
聞きたくもない、忘れたかった過去の事。親からのプレッシャー、虐め、それら全てが私を呑み込んでいく。
(息、出来ない……誰か、誰か……助けて……)
こぽぽぽ……と、本当に水の中に沈んでいくように苦しくなる。
最後に手を伸ばしながら、このまま沈んで泡のように消えてしまえたなら楽になれるだろうか……何て、私は笑っていた。
(誰か、誰でも良いから助けて……)
リース―――――!