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美羽はいつの間にか紬と女子トークに話が盛り上がって一緒にお風呂に入って一緒のふとんに寝ることになった。紬は、学校の友達での好きな男の子の話や好きなアニメの話、ハンバーガーショップでもらったおまけのおもちゃの話、颯太にできなかった話を次から次へと滝のようにどーっと話し出す。
美羽はこれは本当はお母さんに聞いて欲しかったことなんだろうなと思いながら会ってまもないのにたくさん出てくるなと嫌がらずにずっと聞いていた。
その2人の様子を壁の影から見ていた颯太はヤキモチを妬くくらいだった。
(紬ばっかりずるいな……)
「紬ちゃん、明日は学校でしょう? そろそろ寝ないと起きれなくなっちゃうよ?」
ベッドで2人仲良く並んで寝ながら話をしていたらいつの間にか時計は9時を過ぎていた。
「あ、本当だ。もう、こんな時間。聞いてくれてありがとう。美羽……さん。おやすみなさい」
紬はふとんを顔までかぶり、数分で寝落ちした。たくさん話して、いつもより疲れていたようだ。横にいた美羽がしばらく熟睡するまで紬のお腹あたりをポンポンと撫でていた。確実に寝たことがわかると寝室からリビングに移動した。
リビングに行くと、颯太はチューハイの缶を開けておつまみのさきイカをしゃぶっていた。
「紬、寝た?」
「うん、もうイビキかいてぐっすり寝たよ。本当、お父さん、大変だね。お疲れさまだよ」
颯太は冷蔵庫から缶チューハイを取り出しては美羽に渡した。
「んじゃ、お疲れさまってことで乾杯しよ」
「あ、これ好きな桃味だね。果汁入りだ。ありがとう」
ソファの横に座って、缶同士をぶつけた。一口飲んで口の中が潤った。
「紬が寝静まった後がほっとするんだ。1日のお疲れさま会して明日のためにこうやってリフレッシュね。やっと、この生活が落ち着いてきたかな。もうすぐ1ヶ月なるな……」
「聞いても良い?」
「ん?」
さきイカをパクパク食べてはチューハイを飲む。
「どうして、ここに紬ちゃんが来ることになったの? お母さんは?」
「あ、そこ聞いちゃう? 気になるよね、それは。色々あって話すと長くなるけど、ざっくり言うと離婚したんだ。
俺が親権を持ったってことになる。あまり元嫁のことを悪く言いたくないけどあいつは子育て不向きなんだよ。ごめん、そんな話聞きたくないよな。自分を棚に上げて言える立場ではないんだけどさ」
「そっか……」
「引いた? 面倒だろ。そんな話聞くの。あまり、俺に関わらない方が幸せだと思うけど……美羽は物好きだよな。世の中に男は他にもたくさんいるのに」
膝を抱えては、頭を膝につけて横から颯太を見た。
「人間くさいじゃん」
「え、俺、臭い? 加齢臭が出てきたかなと思って、香水つけるようにしてたけどそれでも臭うかな」
颯太は両腕を嗅いで確かめた。美羽は笑いをこられるのに必死だった。
「颯太さん、面白い! そう言う意味じゃないのに……」
目から涙が出るくらい笑う。
「へ? 違うの?」
「完璧すぎないところがいいってことだよ。そりゃぁ。ちょっと、とまどいはあったけど、同じ穴のムジナかなって思っちゃった。私も、颯太さんと拓海を天秤にかけて人を比べた訳だし……。話聞くと、颯太さんの場合は奥さんから相当嫌われてる気がした」
「え?! なんで? わかるの?」
「んー。女の勘? 初めて私がこの部屋来た時、女気配が全然なかったから。私が奥さんなら浮気されないようになんか対策するかなとか考えるけど、何もない。独身、1人暮らしっぽい。ちなみは拓海は独身でもバリバリ女気配がある!! あの人は浮気性」
「あー、そう言うことか。拓海くんはモテそうな気がするもんね。俺は結婚の肩書きなきゃ全然モテないからさ。
独身が必ずしも良いとも限らないね」
「颯太さん、恋愛と結婚は別! あと、生活態度とか、浮気は無理。確かに拓海はモテるから恋愛してる時は楽しいけど結婚相手にはできない。地獄だよ。毎日帰ってこなそう」
「ハハハ……本人いないからって随分言うね。同じ男だから何とも言えないけど、俺も可能性はゼロじゃないだろ」
「颯太さんは何か違うなって思って。メッセージもちゃんと返してくれるし、遅れても返事くれるから紳士的って思うけど拓海は、突然連絡来たかと思ったら、しばらく放置されるし謝りもしないの」
「……あ、無くなった。おかわり持ってくる」
颯太は拓海の話ばかりでだんだん飽きてきた。飲み切った空き缶を台所に持っていく。冷蔵庫の中から新しい缶チューハイを取り出した。
「そういえば、聞きたかったことがあって、颯太さんって出身どこなの?」
「えっと、小学生から大学までは埼玉県に住んでたよ。その前は福島にいたかな」
「福島? え、苗字ってなに?」
「今は元嫁の苗字で上原だけど、旧姓は楠だよ。楠 颯太離婚したから楠に戻るけど。何、昔の話なんて興味あるの?」
不思議そうな顔で問いかける颯太。美羽は両手で口元をおさえた。涙が出そうになる。
「そうちゃん?!」
「は? 何、急にそうちゃんって……」
「そうちゃんでしょう? 昔、公園で砂場遊びしたじゃない。わたし、みーちゃんって呼ばれてた」
「はー? そんな昔の話覚えてないよ。人違いじゃない? 同じ名前の他人の空似だって」
颯太には思い出したくない過去がある。当時の記憶は美羽も一緒に消したい過去だ。でも、嫌でも思い出す。嫌な記憶ほど鮮明に覚えてるものだ。
「ごめん、今日帰ってもらえる?」
「あ、うん。そろそろ帰ろうとは思ってたからお邪魔しました」
表情が険しくなってきた颯太は、突然美羽を追い出した。空気を読んだ美羽は慌てて外に出た。幼少期の記憶が蘇る。
ーー
「颯太、もうみーちゃんと会っちゃダメ。絶対ダメよ!」
颯太の母は、血走った目で言う。
「なんで?! せっかく仲良くなれた友達なのに」
「何が何でもよ。あと、私たちお引っ越しするから会うこともなくなるから大丈夫よ」
「やーだーー! なんで会っちゃだめなんだー!」
幼い颯太は理由も分からず泣き叫んでは駄々をこねた。それでも母は意地でも首を縦に振ろうとはしなかった。
まさか、その引っ越し理由が颯太の父と美羽の母の浮気だとは小学6年になってから知った。
かなりの衝撃的だった。
ーーー
颯太は美羽が立ち去った玄関のドアに背中をつけて悔し涙を流した。
どうしてあの時の『みーちゃん』なんだ。
もう忘れたかった。
忘れなければならなかった。
颯太にとって生まれて初めて好きになった人だった。