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テヒョンside
僕は、浣腸で泣いてしまったジミナが可哀想で堪らなくて…
早く忘れさせて、気分を変えて、なかったことにしたかった。
だから泣き止んだジミナの車椅子を押して、売店に連れて行った。
ジミナの車椅子を押して、売店の狭い通路をなんとか進む。
「ジミナ、お菓子どれがいい?気になるのあったら取ってあげるね」
「うん…あの、上のやつ?」
「これ?」
「ちがうよぉ。その右の〜」
「あ、これー?」
「だから!それじゃないってば!なんで分かんないの!?」
「え、これのこと?ジミナわかんないよ〜ちゃんと説明して…?」
「もう!緑で字が書いてあるやつだよぉ」
「あ、こっちね、ごめんごめん。」
ジミナにスナック菓子の箱を取って見せる。
「裏も見せてー。何味かな?」
「チーズ味じゃない?ピーナッツも入ってるよ。」
「じゃあこれにする。」
「雑誌も見る?取ろうか?」
「うん、だいじょぶ…」
「じゃあお金払ってくるから待ってて。」
…本当は、自分で商品を手に取って、色々見たいんだよね。
それが出来なくなって、イライラしてしまう気持ちはよく分かった。
売店は、入院しているジミナにとって唯一の娯楽だったんだ。いつも小さなお財布を握りしめて、雑誌をペラペラめくって選んだり、新しいお菓子をチェックしたり。それがジミナのお楽しみだったのにね…。
スナック菓子を買うと、僕たちは中庭に行った。
ベンチの横に車椅子を付けると、僕はベンチに座ってお菓子の箱を開けた。
ジミナはひな鳥みたいに小さな口を開けて次々に食べるから、僕は休み暇なくジミナの口にお菓子を運ばないといけなかった。
「ジミナ食べすぎじゃない?ゆっくり、よく噛んで食べてよ?」
「分かってるよぉ。」
ジミナは美味しそうにもぐもぐしていたけど、表情はどこか沈んでいて、寂しそうだった。
…そのときジミナが突然、涙をポロリとこぼした。
「ジ、ジミナ〜、どした?」
僕はびっくりして、ジミナの顔を覗き込んだ。
「ご、ごめん…。泣いちゃダメだよね…せっかくテヒョンがお散歩に連れ出してくれて…お菓子も美味しいし、天気も良くて、こんなに気持ちのいい日なのにね…(泣)」
「ジミナいいんだよ?我慢することない!泣きな〜?」
「う、うわ〜ん。」
ジミナは堰を切ったように、泣き出した。
僕はジミナの背中をそっとさすった。小さな背中は小刻みに震えていた。
それから僕は、ハンカチでジミナの涙を拭った。拭いても拭いても、ジミナの涙はポロポロと流れ出て止まらない。
「ごめ…ヒック…ヒック…涙、とまらないよぅ(泣)」
「ジミナどした〜?悲しくなっちゃった?」
本当は…涙の理由は聞かなくても分かってた。
売店に行っても、自分で商品を手に取れないこと。
お金を払えないこと。
車椅子を自分で動かせないこと。
分かっていても、受け入れたつもりでも、できないことを目の当たりにするとやっぱり悲しくて、また絶望して…。
「ぼ、僕はもう…1人でお買い物も、できないんだね…ぐすん。」
僕は、ジミナの動かない小さな手を握って、それからまた背中をさすって…うんうんと頷くことしかできなかった。
「そうだね、悲しいね…。分かってるよ。」
「前はね、外出や退院することが楽しみだった。でもさ…こんな身体で、病院の外に出るのは怖いよ。病院の中にいたって苦しいけど、外の世界はもっと怖い。怖いよぉ…ヒック…ヒック…。」
「ジミナ〜大丈夫だよ。僕がそばにいるじゃん…。」
「あのね…もし次ジン先生から外出の許可がもらえたら…コンビニに行って新商品チェックしたり…本屋さんに行って立ち読みして本を選んだりしたいなって思ってたの…。」
「うんうん…。コンビニも本屋さんも、行きたいよね。いつも病院の売店だけじゃあねぇ。」
「そ、それから…前にテヒョンと行ったゲームセンターに行って、またドライビングのゲームしたり…映画見ながらポップコーン食べたりもしたかった。前すっごく楽しかったから…。けどそれも、もう…(泣)」
「映画、行けるよ?ポップコーン、僕が口に入れてあげる。ゲームだって、きっと出来るのあるよ。僕が探す!」
僕は必死で、食い下がった。
「あ、あと…遊園地だってまた行きたかったなぁ。でもさ、前だって観覧車にも乗せてもらえなかったのに…両手が動かなくなって、益々僕が乗れる乗りものなんて、ないと思う…ぐすん。」
「そんなことないってば!僕が調べるから!ジミナが乗れるやつ、僕探す!!」
僕はなんかもう意地になっていた。
両手が動かなくても、できること沢山あるよ。楽しいこともあるよ。外の世界は怖くない。僕がついてるよって伝えたくて…。
だけど、だけど…僕は言いながら、なぜだか泣き出してしまった。
あ…まずい…なんで僕が泣いてるの?僕はジミナを勇気づけなきゃいけないのに。
けど、どうしよう…。やばいって思っても、涙は止まらない。
…悔しかった。
こんなに頑張ってるジミナが、どんどん不自由な身体になっていくことが。
自分にはどうしてもあげられないことが。
それから、自分の身体だけが丈夫で五体満足なことが…。
「ご、ごめっ…ジミナごめんね…。ジミナを慰めてあげたかったのに…僕が泣いたって仕方ないのに…。」
その時ジミナが…あんまり動かない両手を伸ばして、身体ごと僕の方に来て、僕を抱きしめてくれた。
震える手で、不自然に曲がった腕を一生懸命に伸ばして…。
びっくりしてジミナを見ると、ジミナは言った。
「テヒョンだってさ…泣いてもいいんだよ?」
「……え?」
「いつも僕の為に、泣くの我慢してるんでしょ?気づいてたよ。」
「え…うそ…ごめ…」
「謝らないで。テヒョンが泣いてるの見たら、なんか僕の涙、止まった…。」
「そ、そうなの…?」
「ありがとう…いつでも、僕と同じ気持ちでいてくれて。僕の悲しい気持ちを、一緒に引き受けてくれて。」
「う、うん…。」
「…そうだよね、僕にはテヒョンがいるんだった。1人じゃないんだって思ったら、怖いの少し、なくなったみたい…。」
「そ、そう?良かった…ぐすん。」
「テヒョン、大丈夫だよ〜。お菓子一緒に食べよ?僕の口にも入れてね。」
「う、うん!」
僕が泣いた途端に立場が逆転して、ジミナが僕を慰めてくれた…。
僕はなんだかそれが、頼もしくて、嬉しかった。
それから僕たちは2人で鼻をすすりながら、一緒にお菓子を食べた。
僕は残りのお菓子を、ジミナと自分の口に、交互に入れた。
一緒に買ってきた温かいお茶も順番に飲んだ。
太陽の日差しは暖かくてポカポカとして、僕たちの気持ちまで温めてくれているような、そんな気がした。