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ーー咆哮。一撃で獲物を仕留められなかった怒り。獲物が沢山いるのに、一匹も食せない怒り。 顎虫蛇は、表皮に浮かび上がった血管がみるみる赤くなり、本格的な戦闘態勢に入った。
そして、その長くて大きい体躯をとぐろ状に巻き、まるでエネルギーを蓄えるかのように渦巻いた。次に全身の筋肉によって制御された体躯を、緊張した筋肉の強張りがピークに達したとき、解放――
体躯は捻転し、先端の顎がまるで掘削機のように、いとも簡単に地面を削りながら掘り進んだ。
「なんだ!?こいつの動きは!!」
予想外の動きに戸惑う一同。だが、ゲンによる指揮により、村人達は一瞬たりとも気を緩めてはいない。
「お前ら、地中に潜ったやつに注意しろ!飛べるやつはすぐに退避するんだ!!」
そして、ジンの指揮により飛べる者は遠くの木に逃げ、窺うようにしてジン達を見つめた。
「親父、俺はやれるぜ!」
フライバエの形態変化を、ソウは完全にものにしていた。そして、ソウはまた新たな試みをしようと企んでいたのだ。
「ソウ、無理はすんなよ!」
ゲンの右腕は装甲のような見た目へと変化しており、その刀身は橙色を帯び、まるで琥珀のように年月を蓄積した異様さを漂わせている。
「ゲンさんはガードして、俺がヤツに一発お見舞いする!その隙にみんな、胴体に切り付けるんだ!」
(一同はうなづいた。)
顎虫蛇は、金属音のような音と共に地表へと「ドガン」と音を立てて現れた。村人を完全に襲おうとしていた。
しかしゲンは音を頼りに、フライバエの形態変化を一瞬だけ発動して羽を出現させ加速。空気抵抗を減らすため即座に解除し、右腕の大剣で受け流すようにガードした。
(ギャリリリリリィッッ)
鈍い金属音と共に回転速度が落ちていく。
回転が止まった、その瞬間――ラルクは顎虫蛇のこめかみに照準を合わせた。黒い鋏に、ロケットのように貝が出現する。
「ぶっ飛ばすぜ!」
ラルクが呟いた刹那、空気が波打つ。
体勢を変えようとした顎虫蛇へ、鋏を閉じ、槍のように突き刺した。
「キシャーッッ」
顎虫蛇は頭をのたうち回す。
好機だった。サブは銛のような腕を尻尾に突き刺す。
「やったッス、てっええうお゙お゙」
顎虫蛇は暴れ回り、サブもつられて振り回される。そこに――
「いくわよっ!やあああ」
レイの腕はいまだに不慣れな形態変化で出来ている刃だったが、それでも腹部を切り、確かな傷を付けた。レイはすぐさま後ろに退避する。
「レイっ!ナイス!」
ソウは、レイが切り付けた傷へ追撃を仕掛けようとしていた。
「宿れ……装岩虫」
右腕が岩状の外殻に覆われ、その外殻は何かを飛ばすかのように逆立つ。ソウは飛行したまま、右腕を薙ぎ払うように振り撒いた。
「装岩弾!!」
――名を叫ぶと同時に、掛け声のように岩状の破片が飛び出す。鋭く尖った破片は、重力も相まって加速し、傷ついた腹部へと突き刺さっていく。
(顎虫蛇は叫ぶ。)
突き刺さった岩の破片から血が噴き出し、顎虫蛇の意識は完全にソウへ向けられていた。
そして残る力を振り絞るように、再びとぐろを巻き、エネルギーを溜め始める。
だが今回は捻転せず、顎で喰らいつくかのようにソウへ飛び込んだ。
(なっ!空を飛んでるのに、こんな……近くまで……)
ソウは装岩弾を顎に当てるが、傷が付くだけで勢いは止まらない。顎虫蛇は口を大きく開いた。
「ソウ!!!」
地上からレイが叫ぶ。
誰もが反応できずにいた、その中で――ただ一人、この機会を待っていた人物がいた。
「ッッ親父!!?」
(風を切る音)
「だーから、ソウ、お前は囮役って言ったろ?」
突如、地表から飛び出したのは、ソウの父、ゲンだった。
走馬灯のように、ゲンの記憶が甦る。一人の少女が手招きしているように見えた。やがて霧散し、光の粒子となって力を与えたかのように感じられた。
「凶刃・怒怒羅」
複雑な形態変化により、腕だった大剣は完全な武器へと再構築される。
全身は真紅の分厚い装甲に覆われ、羽も赤黒く堅牢なものへ変わり、まるで武者のような姿へと創り変わった。
腰を大きく捻り、大剣へ力を溜めて――
――刹那。
薙ぎ払われた一閃。橙色の刃の軌跡が残り、
顎虫蛇の首が宙を舞った。
ソウは、異様なゲンの姿と、一撃で屠られた顎虫蛇を交互に見て、ただ驚愕していた。
「まったく、今回は骨が折れるかと思ったがな。ソウ助かったぞ。奴の回転さえなければ、こっちのもんだ。とんだ巨大蛇来い来い囮作戦だったな。かっかっか!」
ゲンは大剣を担ぎ、大笑いしている。
「ゲンさーん、降りてきてくださいよー!」
地表で、ラルク達が呼んでいた。
「ほら、行くぞ、ソウ。」
ゲンはソウに声をかける。
「ああ……」
ソウは返事をするが、声に力はなかった。
(いつまで経っても、親父の背中が遠い……。)