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塔に満ちる黒い魔力と、王家の剣から放たれる蒼い光。二つの“異なる運命”がぶつかり合い、空気が張り裂けそうなほど緊張していた。
アレクシス王子は一歩踏み出し、
王家に代々伝わる神聖魔術《蒼光審断》を剣へ宿す。
「……ルシアン。
王家の血を継ぐ者として、正しい判断をしろ」
「兄さんこそ……間違っている」
「間違いかどうかは関係ない。
国家を守るために必要なのだ」
アレクシスの声が響き、塔全体に緊張が走る。
その瞬間――
セレナの胸の奥で、黒薔薇の心臓が強く脈打った。
(……王家を守るため……
私を殺すのが“正しい”って……?)
母の記憶、父の死、呪いの声、そしてルシアンの傷ついた姿。
すべてが胸の奥で絡まり、静かに怒りと悲しみへ変わる。
「……私は……そんな理屈のために死にたくない」
アレクシスが剣を向ける。
「それは“我儘”だ。
お前を野放しにすれば、何万人が死ぬか――」
しかし、言葉の途中でルシアンが前に出た。
「兄さん……やめてくれ。
セレナはもう暴走していない。
彼女は自分の意思で――」
「黙れ!!」
アレクシスが怒鳴り、弟に刃を向ける。
塔の外では討伐隊が次々と魔術を準備し、
王家の討伐命令のもと、完全武装を終えていた。
その光景は――
王国全体が“ひとりの少女”を滅ぼすために動いているようだった。
セレナは震える手を見下ろす。
もう、逃げるつもりはなかった。
ただ――
悲しかった。
(どうして……こんなにも私の命は軽いの?
どうして皆、私を“呪い”でしか見てくれないの……?)
その時、ルシアンがセレナの手を握った。
「セレナ。
……僕が君を絶対に守る」
その声に、胸に刺さっていた痛みが少し溶ける。
(……私は……ひとりじゃない)
だが、アレクシスの瞳からは静かな怒りが消えなかった。
「ルシアン、そこから退け。
でなければ――」
「退かない」
兄弟は、初めて真正面から剣を交える運命へと立った。
アレクシスの声は震えていた。
「……なら、お前が反逆者だ」
討伐隊が一斉に剣を構えたその瞬間――
塔の最上階から、黒薔薇の魔力が爆発的に溢れた。
ドォオオォン!!!
激しい衝撃が王都全体を揺らす。
塔の外壁が崩れ、黒い魔力が空を覆った。
討伐隊の兵たちが叫ぶ。
「魔力が……暴走した!?
いや、これは……集中している……!」
「喰魔の覚醒じゃない!
守るように……外へ広がっていく……?」
その通りだった。
黒い魔力は、塔の外へ攻撃するどころか――
セレナとルシアンを守るように壁となって立ちはだかった。
アレクシスは驚愕していた。
「……暴走では、ない……?
なら、この力は……何なんだ……?」
黒薔薇の魔力は、セレナの胸にある“心臓”から静かに溢れていた。
セレナは、はっきりと言った。
「私は……喰魔じゃない。
あなたたちが思い込んでいた“滅び”なんかじゃない。
私は――選ばれた力を持つ者なんです。
守るための、黒い光を」
その言葉が塔の中に響いた瞬間。
王宮の魔術師団長は、血の気を失い叫んだ。
「殿下!
そ、その少女は……“黒薔薇の王妃”の後継者……!
喰魔の器ではなく、王家を守る側に立つ“真の魔導女王”――!」
アレクシスが目を見開く。
「……母の……後継者……?」
(王家の血に反逆する者でありながら、
王家を守る力を持つ者……?)
混乱が、王子の心を引き裂いた。
王家の歴史は歪められていたのか。
彼女は本当に災厄なのか。
それとも――王国の未来を救う鍵なのか。
「兄さん……」
ルシアンが前に出る。
「セレナは敵じゃない。
僕たちの――希望だ」
アレクシスの手が震えた。
剣先が床に触れるほどに、力が抜けていく。
しかし。
その時――塔の外から新たな怒号が響いた。
「王命が下ったぞ!!
黒薔薇の娘と第二王子を拘束、抵抗すれば殺せ!!」
それは――
王自身の声だった。
アレクシスの表情に絶望が走る。
「……父上……?
なぜ……ルシアンまで……?」
討伐隊が一斉に塔へ突入する。
アレクシスが叫んだ。
「待て!!まだ――!」
だが、もう止まらない。
王家そのものが崩れ始めていた。
セレナはルシアンの手を握り、
静かに、しかし確かな意志で言った。
「――逃げましょう。今は戦う時じゃない」
ルシアンはうなずき、彼女の手を強く握り返す。
アレクシスはその背中を、
ただ呆然と見送ることしかできなかった。
(……どうして……こんなにも脆いんだ……
王家とは、これほど崩れやすいものだったのか……)
黒い霧の中へ消えていく二人を見て、
アレクシスはゆっくりと膝をついた。
「……俺は……何を信じればいい……?」
王家は揺らぎ、王国は分裂を始めた。
ここから――
“反逆の物語”が本当の姿を見せ始める。