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街道沿いの宿場町の宿屋に泊まったり、休憩や戦闘訓練などを挟んだりしながら徒歩で進んでいく。
戦闘訓練の一環として、ひたすらスキルを習得しまくった俺は、ある程度めぼしいスキルを覚えたところで習得をいったん中断し、実際にスキルを使っていく段階へと切り替えた。
テオに教わりつつ真面目に練習した甲斐もあって、俺は数日でそれなりにスキルを使いこなせるようになったのだった。
街道を進んでいた俺達は、小さな港町・コべリに到着した。
ニルルク村は別大陸となるため、エイバスから陸路で向かう場合でも、コべリの街の港から定期船に乗り海を渡るのが一般的となっている。
まずは閑散とした街中を通り抜け、港にある船舶案内所へと直行。
窓口にて、大陸を結ぶ定期船便の乗船チケットを購入しようとしたのだが……。
「すみません……現在、向こうの大陸に渡る旅人の方がほとんどいらっしゃらないもので、全便欠航となってるんですよ」
思わず大きな声を出したテオに、若い女性窓口職員が申し訳なさそうに謝った。
俺も横から質問する。
「定期船の欠航って今日だけなんですか?」
「いえ、1ヶ月前からです。魔王が復活してから、向こうの大陸は魔物の動きが活発になっているという話が広まったんですよ。その頃から徐々に、大陸を結ぶ定期船便の乗船客が減っておりまして……それでも半年ほどは1日1便に減らすなど、経費を切り詰めて何とか存続させていたのですが、赤字続きでさすがに厳しいという話になり、無期限で欠航とさせていただいております」
「再開の目処は?」
「今のところは何とも」
「そうですか……」
ゲームでは、この街からの定期船便が欠航するなんて事態は見たことがない。
詳しくは分からないが……これまでと同様、何かしらの『現実とゲームの違い』が影響している可能性があるかもな。
「言われてみればさー、4年前に来た時より街を歩いてる人が減った気がするかも」
考えこんでいたテオが口を開いた。
「そうなのか?」
「前はもっと街がにぎやかだったぜ。ほら、さっき商店街通った時、閉まってる店も結構あっただろ?」
「ああ、あったな」
「たまたま時間が早いだけかもとか思ったけど、たぶんそうじゃないんだろなー。コベリに来るまでの街道からして、人通りが少なくなってた気もするし……だよね、お姉さん?」
「そうなんです……大陸を渡る旅人の方を相手に商売している店が多かったもので、土産物店や飲食店などがここ最近、軒並み店を休業なさってるようでして……あ」
「……定期船便は欠航中ですが、チャーター可能な船なら幾つか登録がありますよ」
女性職員は「はい」と答え、手元の資料をぱらぱらとめくっていく。
「本日出発可能な船ですと……小型の漁船が1艘だけですね。明日以降で宜しければ他の船もご紹介できますが、どうしましょうか?」
「テオはどう思う?」
「う~ん……早いに越したことないし、小型漁船でいいんじゃないかなぁ」
「了解」
「では担保金として、お2人分で200Rお預かりさせていただきます」
「はい、これでよろしく!」
テオから担保金を受け取った案内所窓口の若い女性職員は、手慣れた様子で書類を用意しつつ、手続きの説明をしていく。
「……確かにお預かりしました。漁船との契約が成立しなかった場合、担保金は全額返金いたします。その際は、こちらの担保金預かり証を窓口へお持ちください。こちらが預かり証です。無くすと返金できなくなるので、責任を持って保管をお願いします」
「分かりました」
「そしてこちらが漁船への紹介状となります。先方のご希望では、13時から15時までの間に、港にある指定の水産加工所のオーナーを訪ねてほしいという事です。15時以降でも加工所が開いていさえすれば交渉はできるそうですが、本日中の出発は厳しい可能性があるようなので、15時までに訪ねるのをおすすめします」
「OK! お姉さんありがとねー」
手続きを済ませ、船舶案内所を後にしたところで俺が言う。
「13時までまだ時間あるし、どっかで昼飯にしないか?」
「さんせーい! 俺、行きたい店あるんだけど」
「お! テオのおすすめ料理は旨いもんばっかだし、楽しみにしてるぞ」
「ハードルあげるねー。たぶん期待にはこたえられるはずだぜ。あそこの親父さんの作る煮込み料理、ほんっと絶品なんだよな~♪」
そう笑ってから、テオは先導するように商店街のほうへと歩き出した。
がっくりと肩を落とす俺とテオ。
小さなコベリの街・唯一の商店街は、昼時にも関わらず閑古鳥が鳴いていた。
その中のお目当ての飲食店へと到着した俺とテオが目にしたのは、店の入口扉に貼られた“休業を知らせる紙”だった。
すっかり煮込み料理の口だった俺たち。
どうしようもなく、ただただ途方に暮れていると。
声をかけてきたのは、たまたま通りがかった年配女性。
生まれも育ちもコベリの街だという彼女は、俺達から事情を聞き、なんと親切に営業中の飲食店をいくつか教えてくれたのだ。
相談した結果、俺とテオはその中の1軒へ行ってみることにした。
それが年配女性が教えてくれた**「地元民だけが知る隠れた名店」な食堂**だった。
だが足を踏み入れてみると、十数席の狭い店内は、外の寂しさが嘘であるかのように賑わっていた。
俺達も早速、地元漁師風の男達に混じって席に着き、この食堂の名物だという魚介パスタを2人分頼む。
程なくして運ばれてきたのは。
ざっと目分量で、普通の店のパスタの軽く倍はあるだろう。
あまりの多さに驚いた俺が店員に確認したところ、「1皿が普通盛りの1人前で間違いない」との答えが返ってきた。
食べきれるか不安になる俺とテオだったが……。
……心配は無用だったようだ。
材料の魚介類は全てコベリの港に水揚げされたばかりの新鮮な物というだけあって、獲れたてならではのプリッとした食感が存分に味わえる。
スープはたっぷり溶け込んだ魚介の旨みとトマトの酸味が絶妙で、そのスープをしっかり吸い込んだ細いパスタもたまらなく美味しかった。
いくらでも食べられそうなその味に、夢中になって無言で食べる。
気付けば2人とも、スープ1滴残さず山盛りパスタを完食していたのだった。