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少し前向きになったゼロは、枕に沈み込むようにして俺にへそを向けていた。短い足をなぜか組んで、ふてぶてしい態度で俺を見ている。どっちが飼い主なんだかわからないこの状況に、俺も屈辱的だ……と内心プルプルとしながらゼロを見ていた。



「ゼロ、今お前は犬なんだぞ。その、さ。人間らしいの抜けないのかよ?」

「ハ? 元が人間なんだ、仕方ないだろう」

「いや、しかたがないとかじゃなくて……癒されるってことは、とりあえず、たーぶん、犬として癒されるってことだと思う。だから、お前は今から犬として癒されろ」

「人間扱いされないってことか? ストレスだ」



ゼロはそういうと、キッと俺を睨みつけた。だが、やはりポメラニアンに睨みつけられても……と、いつもの威圧は半減している。

前向きになったとはいえ、ゼロが俺からの癒しを許容しない限り、彼はずっとのそのままだろう。

俺も、あまり犬には詳しくないが、一般的に犬がされてうれしいことをしてみようと俺は魔法で小さなボールを生成した。ピクンと、またゼロの耳が分かりやすく動いて体が前のめりになる。俺が出した赤いボールにくぎ付けになったようだった。



「何だそれは」

「何だって、ボールだけど」

「だから、何故ボールを出したかと聞いている。そんなもので、俺が癒されるわけ――ッ!」

「いや、めっちゃ犬じゃん」



ボールを部屋の隅へと投げると、ものすごい勢いでゼロは飛び出していった。そして、数秒も立たないうちにボールを加えて帰ってきて、俺の膝の上にボールを置く。はっはっ、と舌を出して、しっぽをブンブンと振ってもう一回と目を輝かせるのだ。



「……ハッ!? 今、俺は何を…………」

「もう一回、やる?」

「クソ……そんな、球に。屈辱的だ」

「めっちゃ喜んでたじゃん。素直に、楽しいって認めたらいいのに……」

「俺は人間だぞ?」



ぽいと、ボールを投げれば話の途中でも構わずゼロはボールを追って行った。そして、ぴょんぴょんと飛び跳ねてボールをくわえると、俺にまた持ってくるのだ。

人間だといいながらも、犬の本能にはあらがえないというか。

ゼロは、何度も、クソッ! と呟きながら、投げるたびにちゃんとボールをとって帰ってくる。けなげすぎるというか、かわいすぎるというか。

ボールをとって帰ってきては、褒めてといわんばかりに俺を見上げる。中身がゼロだとわかっていても、あまりにもかわいくて、俺は何度目かのボール投げの後、彼の頭を撫でてしまった。こちらも衝動にあらがえないというか。俺が撫でるたび気持ちよさそうに目を閉じて舌を出すので、癒すはずが、こちらも癒されてしまうのだ。

そして、ついには口に出して、彼を誉めたくなってしまったのだ。



「よしよ~し。ゼロは、賢いなあ~」

「なっ、主、やめろ。く……っ、クソ、もっと褒めろ」



と、ようやくゼロはしてほしことを口にした。最初は、正面から撫でられるだけだったのに、犬に成り下がるかといっていたゼロは、俺の膝の上で腹を見せるように転がった。撫でてほめれば褒めるほど、ゼロの表情が和らいでいく気がして、俺は腹を見せて寝転がったゼロをほめちぎった。



「よしよし、ゼロはすごいな~偉いぞ~」



もう、俺も完全に犬扱いである。だがしかし、もうここまでくると、このポメラニアンがゼロだという事実もどうでもよくなってしまっていた。



「もっと撫でろ。よしよししろ、主」



完全にポメラニアンの顔でゼロが俺を見上げるので俺はもう無心でわしゃわしゃと撫で続けた。そして、しばらくそうしていると、ボン! と小さな爆発音を立てて、白い煙がベッドの上に立ち込めた。



「げほっ、何……? な……っ」



すうじゅ煙が晴れたころには人型のゼロが俺の膝の上にいて……俺を見上げている彼と目が合うと、彼はいつものように眉間にしわを寄せる。驚いた表情を見せたのは一瞬だけだった。

癒されたためか、彼は元の身体に戻っていたが、一度ポメラニアンになっていたこともあってか、彼は服を着ていない全裸だ。バキバキに割れた筋肉にうっすらと汗がにじんでいる。



「よ、よかったじゃん。人間に戻って……」

「……ああ」

「まあ、呪いは完全に解けてないかもだけどさ。こうやって定期的に……んなっ!?」



また、ポメラニアンになったら、先ほどのように犬と戯れる如く癒せばいいのかと方法はわかった。まずは喜ぼうと、俺はもう一歩ゼロに近づいて、ふと彼の下半身に目が行ってしまったのだ。全裸ということもあって、隠すものがないから。

そして、俺は見てしまったのだ。彼のアレが……チンコがそれはもう反り返って勃起していることに。

そういうわけもあってか、ゼロは、額に手を当ててうつむき、フーっと息をついた。俺が近づいていることに気づくと、鋭い視線で俺を睨みつける。



「何だ」

「な、なんだって。お前、何で勃起……してんの。は……」

「知るか」

「俺の、よしよしがそんな気持ちよかった?」



と、聞けば、先ほどよりもすごい目で睨みつけてきたのだ。

どう考えても、欲情しているとか、興奮しているというふうには見えない。少なくとも、俺のせいでそうなっているようには思えなかった。

ゼロは、何度か舌打ちをした後、ベッドに戻ってき、ドスッと腰を下ろす。全裸の男が、ベッドの上に腰かけたことで、俺は驚いて、端へ移動してしまった。



「誰も、アンタみたいなやつ襲わない」

「いや、身の危険が……って、俺も嫌だわ。てか、そんな襲われるとか想像してたわけじゃないし!」



なんでそんな発想になるんだ。BL世界だから? と、思いつつも、ゼロは、俺がいることも気にせず、ごつごつとした手を自身の股間にあてて上下に扱き始めた。



「あ、ちょ……ッ」



思わず声がこぼれてしまって、俺は赤面してしまった。どうしてかは自分でもわからないが、いたたまれなかったのだ。

恥じらいとかはないのかと思った。

実際、どれだけ仲がいい男友達であっても、いきなり自分の部屋で自慰し始めたら引くだろう。ゼロにはそういった感覚がないのだろうか。俺に見られてもいいと。裸を見られたなら、自慰も別に構わないと。



(いや、俺がかまうから、他所でやってくれ)



だったとしたら、俺はゼロの着替えを持ってこないといけないわけで、その間ずっとこいつは俺の部屋でシコっているだろう。それもそれで嫌だ。こいつがシコッた部屋で寝るとか、シーツを変えても思い出すから嫌だった。

ゼロは、俺のことなど気にも留める様子もなく手を上下に動かしていた。じゅぷ、しゅっしゅっ、と先走りで滑りが良くなったゼロの肉棒が膨らんでいく。だが、射精には至らないのかずっと苦しいままだった。俺も俺で、その赤黒く凶器的なゼロの肉棒を見て、思わず喉を上下させる。グロテスクなのに、自分と比べて男としての尊厳を傷つけられそうなのに、目が離せなかった。

はあ……と、低いテノールボイスが、小さく漏れる。ゼロは、竿を扱きながら指の腹で鈴口をいじっているようだった。ぬるりと先走りが亀頭を濡らしている。



「くそ……ッ」



忌々し気につぶやくと、俺はじぃと見ていた目をバッとそらした。ベッドの隅まで後退すると、ゼロはまた深く息を吐き出す。そして、手を止めたかと思うと俺を呼んだ。



「……主」

「な、なんだよ……」



部屋が明るいのにかかわらず、彼のターコイズブルーの瞳がギラギラと光っているように見えた。

自分の肉棒から手を離して、ゼロはがちがちな太ももに手を置いてうなだれるようにしてため息をもう一度つく。射精し終わった後の件じゃタイムかと思ったが、まだ彼のチンコは元気よく勃ち上がったままだった。それで、なんとなくわかってしまった。



「もしかして、ゼロ……イケないのか?」

「みたいだな」



と、ゼロは半信半疑という感じで、だが間髪入れずにそう答えた。



「みたいってなんで……」

「しごいても中途半端だ。射精までに至らない」

「いや、俺に言われても……」



だから――と、ゼロはこちらを見た。なんだか、ムスッとしていて怒っているようにも見える。

だから? と聞き返したら、舌打ちがまたも飛んできて、俺は身体がはねる。



「呪いのせいじゃないか」

「の、呪いのせい? ゼロ、何の呪いに……」

「主かかけた呪いに決まっているだろ。他に何がある」

「俺がかけたのは『ポメラニアンになる』呪いじゃん。勃起が止まらない呪いじゃないんだけど」

「だが、それ以外考えられない。それに、主のことを見ていると……」



そこまでいって、ゼロは言葉を区切った。

俺がかけたのは『ポメラニアンになる』呪いだけのはずだ。だが、これも、そう診断されただけであって、もっと深刻な付随している何かがあるのかもしれない。それこそ、ポメラニアンから人間に戻ったとき勃起が収まらないとか。



(意味わかんねえだろ。勃起が収まらないって……!)



そっちのほうが、重症だし、呪いだろう。

そんな馬鹿なと。俺もそう思った。だが、ゼロは大真面目だったし、とても深刻なように顔を歪めている。その間も、彼の肉棒が萎えることはなかったのだ。俺は頭を抱えてうなった。俺のせいだというのなら、責任をとらなければならないのだろうが、だからといってどうしろと……

ゼロは首を横に振ったのち、俺にこっちのこいというように目で訴えかけてきた。それに導かれるように、俺はゼロのもとにいって、全裸の彼の隣に腰かける。



「んで、それどうすんの」

「どうするもこうするも、このままではまずいだろう。仕事に支障が出る」

「今も出てるけどな」

「何か言ったか、主」



何も、と俺は首を横に振って、ゼロを見た。本当に近くで見れば見るほど、憎たらしい身体をしている。

そんな男が、真剣に勃起したチンコを見て悩んでいるのだから、絵面的に笑えて仕方がないのだが、笑ったら殺されそうなので、どうにか笑いをこらえる。

そうして、しばらくの沈黙のうち、ゼロが重い口を開いた。



「主、先ほどのように、俺を癒してくれないか」

「は、はあ!? い、癒すって、どう、どうよ。お前、もう犬じゃねえし……」

「……言いたくないが、俺のをしごいてみてくれないか」



と、ゼロはバカ真面目に言うのだ。

しごいてくれないか、と。誰のを? ゼロのをだ。俺は、ちらりとゼロの下半身に視線を落とし、そのグロテスクで凶悪なそれと対面する。



(いやいや、無理だって。人のチンコなんてしごいたことないし!)



なんで、癒すがしごくに変わっているのか。というか、俺がしごいて意味があるのかとぐるぐると頭を回る。でも、ポメラニアンから人間に戻ることの延長線上に、勃起があるのなら、俺がどうにかしなければ勃起は収まらないかもしれない。

そう思ったら、するしかないのかという気を駆り立てられる。



「いや、でも、俺人のなんてしごいたことないし……」

「俺の呪いを解くのに協力するといったのは、主だろ。それとも、口先だけなのか?」

「ああ! もう、やる! やってやるよ。そんな、真剣に言われたとしても、お前勃起してるんだからな!? かっこいい顔して、勃起してんだからな!」



ゼロがどれだけ、かっこよくても、筋肉バキバキでも、チンコもバキバキであることには変わりなかった。

協力するという約束を持ち出されては、やるしかなく、俺は自分を奮い立たせながら、ゼロのほうに近づいてチンコを見る。



「早くしてくれないか? 視姦じゃ、射精しないぞ」

「あ~~もう! わかったから! お前、犬でも人間でもふてぶてしすぎるだろ。犬なのに、猫かぶってやがったな」

「……見抜けない主が悪い」



俺は半分やけくそになって、ゼロの肉棒に手を伸ばした。その動作があまりに滑稽で恥ずかしくて、だけど一度やるといったのだからやめるわけにはいかなかった。ぽっぽっと、顔が赤くなる。ええい、ままよ! とどうにか、ゼロの肉棒を掴んでしごこうとするが、片手では握り込めないほど大きかった。



「おま……デカすぎるだろ」

「誉め言葉だな」

「女泣かせな……カリ首とかやべえ、これ……こんなん……さ」

「何をぶつぶつ言ってるんだ」



ゼロが不思議そうに言うものだから、俺はうるさいと一蹴する。

それから、一度手を放して改めて肉棒を凝視した。でかいし、太い。カリの部分もしっかり張り出していて、血管がびきびきに浮き出ていた。赤黒い肉棒は黒ずんでいるように見えてグロテスクで怖いほどだった。

ゼロに掘られるエンドがなくてよかったと思うほど、凶悪で、凶器的なチンコを前に、俺はもう一度つばを飲み込んで、しごく。手の動きや握り方を必死に考えながらしごいてみるものの、射精する気配はなかった。俺じゃ、やっぱりだめなんじゃないかと顔を上げてみると、クッ、と何かをこらえるような声が降ってきた。



「ゼロ?」

「……なぜ、手を止める」

「いや……俺の、その、気持ちいの?」

「気持ちくない。早くおさめたいだけだ。手を動かしてくれ」



なんだかやせ我慢しているようにしか見えず、気持ちいのか? と、ちょっと自分のテクに酔って、俺はコスコスと亀頭の部分を掌で擦った。

すると、ゼロはぎゅっと拳を作るようにして下半身に力を入れたのがわかる。ドクンドクンと射精の準備をするように肉棒が脈打った。

あのゼロが、俺にしごかれて気持ちよくなっている。



(まあ、男だったらそうだよな。つか、誰だって気持ちよかったら、抗えないもんな……)



これは、性欲処理ならぬ呪いを解くための癒しなのだ。そう思って無心に俺はしごいて、擦った。大きすぎて上下させるのにかなりの労力がかかって、手が痛いが、ビクン、ピクンとゼロの肉棒が揺れるたびに、もう少しだと、達成感で埋め尽くされる。



「んッ、く……っ」



と、不意にゼロが呻くような声を出した。なんだ? と見上げれば、目をつむって苦しそうに眉間にしわを寄せている彼の表情が飛び込んできた。見たことのない表情に少し動揺してしまうが、肉棒を握っている手に力をこめる。するとまたもゼロは苦し気にうめいた。耐え忍ぶような声に、漏れる熱っぽい息が俺の鼓膜を刺激する。



「ああ、イクとき言えよ。勝手に出されたらさすがに引くからな」

「うるさい、主……わかったから、もう」

「イク……だからな? 言えよ」

「……クソが……イクッ、クッ!」



耐えきれないようにゼロは、俺の掌に向かって射精した。べっとりと白濁液が手を汚して、青臭いにおいが鼻をつく。

ようやく終わったという気持ちで、俺は自分の手を呆然と見下ろした。白い液体は粘度が高いのかどろっとしていて手から垂れる様子はなかった。

ゼロは、肩で息をするようにしながら、俺を睨みつけている。その眼光は鋭いのにどこか熱っぽくて、俺は思わずドキッとした。



(いやいや……何考えてんだよ)



相手はあのゼロだぞ? だが、ようやく勃起が収まったようで、彼のチンコは力なくくたっとシーツについていた。といっても、かなり通常時でもデカいのでこれまた憎たらしい。



「よしよ~し、偉いな、射精できて」

「……主」

「え……っ、あ、今のは。悪い……その、さっきの、ポメだったときの癖というか。まっ! よかったんじゃないか! チンコ戻って」

「…………ああ」



思わず、精液のついていないほうの手で頭を撫でてしまったが、さすがに犬扱いをしすぎたんじゃないかと反省する。だが、ゼロはそこまで嫌がるそぶりは見せず、ただぷいっと顔をそらして立ち上がった。



「まあ、例は言う。また、次も頼む」

「いや、次はないって……」



もう、簡便なんだけどなあ、と思いながら、俺は手を拭いてゼロの着替えを持ってくるために部屋を出たのだった。

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