テラーノベル
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『白霞に溶ける声』「遅い、邪魔。……来る意味あったの?」
その言葉は、刃より冷たかった。
時透無一郎はわたしを見るなり、容赦なく言葉を突きつけてくる。
彼の黒曜石のような瞳は、まるで感情を持たないかのように冷たい。
「足手まといなんだよ、あい。任務に出てきて、何ができるの?」
森の中、鬼の気配が消えたあと。
わたしが息を切らして追いつくと、彼は淡々とそう言った。
傷ついた心に、彼の声は容赦なく突き刺さる。
「……わたし、少しでも役に立ちたくて……」
「だったら、鍛錬でもしてから来て。見ててイライラする」
無一郎の言葉は冷静すぎて、怒っているのかもわからない。
だけど確かに、そこには「突き放す意志」がある。
でも――なぜか、彼はわたしのすぐそばを離れない。
「じゃあ、なんで守ってくれたの……さっきの鬼から」
わたしが問うと、彼は一瞬だけまばたきをした。
「……放っといたら死ぬでしょ」
それだけ。冷たい。でも――
ほんの少しだけ、目を伏せたその横顔が、寂しそうに見えた。
「君って、いつも泣きそうな顔してるね。……だから、いじめたくなる」
そう言って、無一郎はふっと笑った。冷たい笑みなのに、胸の奥が熱くなる。
冷たさの奥に、少しだけ混じる温度。
それが、時透無一郎という存在の“残酷さ”であり、
わたしが目を離せなくなる理由だった。
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