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あの「涙の謝罪」から数日。


シャーロットの態度は、以前のような冷酷さを装いつつも


どこかちぐはぐで、私に向ける視線には隠しきれない熱が混じるようになっていた。


その日、私は図書室の奥にある、彼でさえ滅多に触れない古い記録簿を見つけてしまった。


そこに記されていたのは、アルフレッド公爵家のあまりに殺風景な家庭環境と


幼いシャーロットが受けた「情愛」の欠片もない帝王学の記録。


「シャーロット……あなたって、誰かに甘えたことはあるの?」


ダンスのレッスンの合間、ふと口をついて出た言葉に、彼の体がピクリと硬直した。


「……愚問だな。公爵家の跡継ぎに、そのような軟弱な感情は不要だ。俺は、完璧であることのみを強要されて育った」


冷たく言い放つ彼の横顔は、一見すればいつもの「氷の公爵」そのものだ。


けれど、私にはわかってしまった。


あの子爵への異常なまでの嫉妬も、私をチョーカーで繋ぎ止めようとする強引な独占欲も


すべては「誰かを愛し、愛される方法」を知らないがゆえの、不器用な叫びだったのだ。


「……寂しかったの、ですよね」


「なっ……何を…」


彼が反論しようとこちらを向いた瞬間、私は逃げ出すよりも先に、彼の頬にそっと手を添えた。


いつも冷たいはずの彼の肌が、私の手のひらの下で微かに震えている。


「心配しなくても、私はどこにも行かないわ」


私は背伸びをして、彼の広い肩に腕を回した。


いつもはあんなに強引に私を抱き潰す彼が、今はまるで雷に打たれたように硬直し


ただ私の温もりに曝されている。


「エルサ……お前、何を……そんなの契約には……」


「契約だからじゃない。私が、そうしたいから、シャーロットを抱きしめたいの」


優しく背中を撫でると、張り詰めていた彼の肩から、ふっと力が抜けた。


次の瞬間、私の首筋に彼の顔が埋められる。


「……ずるい女だ」


掠れた声。


それは今まで聞いたどの命令よりも弱々しく、そして人間らしい響きを持っていた。


彼は私の腰にしがみつくように腕を回すと


まるで迷子の子供が唯一の拠り所を見つけたかのように、私の肩に深く顔を押し当てた。


「……信じられないんだ。お前のような女が、なぜ俺のそばにいるのか。……消えてしまうのではないか、目が覚めたらすべてが幻なのではないかと、毎日……喉元まで、不安がせり上がってくる」


剥き出しになった彼の本音。


王都を震え上がらせる「氷の公爵」が、私の腕の中でこんなにも脆い顔を見せている。


彼は私のうなじに、壊れ物を愛でるような、切ないほど甘い口づけを落とした。


「エルサ……支配欲以上に、俺はお前に情が湧いて…離したくないし、泣かせたくないと思ってる。だがこの想いをどう伝えればいいのか、俺にはわからないんだ」


耳元で囁かれる、震えるような愛の告白。


それは、昨日までの「再教育」という名の支配よりも、ずっと深く私の芯を熱くさせた。


氷の仮面が完全に溶け落ち


その下から溢れ出したのは、どろりとした独占欲と、愛を乞う一人の男の純粋な情熱。


「……今は、それだけでいいと思うの。愛を言葉にするって、難しいもの。それに…シャーロットが私のこと、凄く大事にしてくれるから、最初のころの最悪な第一印象とは別人みたいだもの」


私がそう微笑むと、彼は初めて


悪戯が成功した子供のような、少しだけ照れくさそうな、けれど最高に幸せそうに「最悪で悪かったな」と笑みを浮かべた。


その夜の彼は、いつものような強引なお仕置きではなく


朝まで何度も何度も、私の名前を愛おしそうに呼びながら、温かな愛撫で私を満たしてくれた。


契約から始まった二人の関係が、真実の絆へと変わった瞬間だった。


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