潮が引いた岩場の隙間。
そこに、ひときわ小さなカニがじっと身を潜めていた。
目の前には広大な世界が広がっているように見えるが、実際は狭く、危険に満ちている。
かつて一緒にいた群れはもうどこにもいない。
孤独は静かに、しかし確実に心を蝕んでいた。
「…ここで、生きるしかない」
口には出さずとも、心の中で繰り返す。
柔らかい甲羅のせいで、風が吹けば簡単に吹き飛ばされそうだ。
それでも、この体で何とかやっていくしかない。
岩の陰に隠れてカモメの影をやり過ごし、隙間を縫うように進む。
その目は常に周囲を鋭く観察し、わずかな変化も見逃さない。
「弱い。でも、諦めるわけにはいかない」
日々の小さな戦いが続く中、彼女の心にはかすかな希望が芽生え始めていた。
「…私と同じ転生者、見つけられるかもしれない」
そう、同じように異世界から来た者がどこかにいるはずだと。
この小さな体で生き残ってやると決意を固めたのだった。
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