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#一次創作
ruruha
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「…………」
ゆっくりと床を見た。
彼女の落とした血が点々と続いている。
近づくなってどういうこと?分かんないよ……。
「だって近づかなきゃ、助けてあげられないじゃない……」
フレディの言うことは、やっぱり私には難しすぎるよ。
知恵の間の床にあるコインはすすけて、半分ほど黒ずんでしまっている。
火の気なんてないのに……。
これをぶつけられて、びっくりしたんだ。
あの時リズは……。
「…………」
湧き上がる疑念を振り払う。
どうでもいい。そんなことはどうだっていいの。
リズを捜さなきゃ。
彼女の血が私を導いてくれるわ……。
三階の忘却の間に入ると、不意に顎のあたりを風が撫でた。
窓に打ち付けられた板の隙間から、風が吹き込んでいるんだ。
それをよく見ると、急に外の世界が恋しくなった。
窓に歩み寄ると、その隙間を覗き込む。
暗い空と暗い湖が見えた。
月の光が冷たく、優しく湖面を照らしている。
外は広いな。
鳥籠から外の景色を見るってこんな感じなのかしら。
湖の向こうには黒々とした林があって、その林に隠されるようにして屋根が……。
「!?」
目を見開いた。
あれは……もしかして私の家!?
屋根のてっぺんがちょこっと見ている。
でも……。
目が痛くなるほど、その屋根を見つめた。
「…………」
もしそうだとすれば、あの屋根の少し下には窓がある。
二階にある私の部屋だ。
それじゃあここは、いつもあの窓から見ていた風景の中……。
開かずの修道院。
陰鬱の湖の中に建つ、迷い込んだら二度と出られない……。
窓の外を見つめていたら、ほんのわずか布擦れの音がしてハッと振り返った。
そこにはリズが立っている。
「リズ……!!」
その姿を見た途端、涙が溢れた。
窓際を離れ、彼女に駆け寄る。
「よかった、やっと見つけた……」
「レナ……」
どこか虚な感じで、名前を呼んだ。
「捜しに来てくれたんだ」
「そうだよ。いっぱい捜したんだから……!」
しゃくりを上げる私に、彼女は何も答えない。
ただぼんやりと突っ立ている。
「リズ……?」
「……助けて」
掠れた声がポツリと漏れた。
「助けて……怖いよ……!」
彼女の声が震える。
同時に体も大きく震え出した。
まるで氷の世界に放り投げられたかのように、歯がカチカチと音を立てる。
「私、私……!どうなるの!?どうなっちゃうの!!」
「リズ……!」
震えるリズの体を抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫よ」
言い聞かせても、私の声は聞こえていない。
畳み掛けて言い募った。
「助けて。お願い、助けて。助けて、助けて!!」
彼女の肩をきつく掴む。
私がここにいることを思い出して欲しかった。
「私がいるわ!必ず助けるから」
方法なんてわからないが、本気だ。
その声にふと顔を上げて私を見た。
「……ほんと?ほんとに?」
「本当。約束する」
ゆっくりはっきりそう言って、頷かせる。
それを見て、ようやく彼女の体から力が抜けた。
「……ありがとう」
しがみついて、抱きしめ返す。
さっきまでの痙攣は収まっていたものの、小さく震えていた。
涙声で何度も繰り返す。
「ありがとう、ありがとう、レナ……ありがとう……」
「お礼なんていらないわ。友達だもん当たり前でしょう?」
その言葉を聞いた途端、彼女の震えが止まった。
「そう……だよね」
顔を見上げて、ホッとした笑みを浮かべーー
「あたしたち、友達だもんね?」
目が赤く光る。
「!!」
どくん。心臓が大きく揺れた。
耳の奥にフレディの声が蘇る。
ーー入蝕されてる。
どくん。声が出ない。
ーー関わるな。
息ができない。どくん。
「どうしたの?助けてくれるのよねえ?」
リズの口からズルっと舌が伸びた。
赤く血管の浮き出た舌。
ーーヒトの膜を被っているにすぎない。
「!!」
反射的に体を離そうとした。
けれど、それよりも床に押し倒す方が一瞬早い。
がつんと頭が石床に叩きつけられた。一瞬景色が消える。
「痛ッ……!!」
「助けてくれるって言ったじゃない!友達だって言ったじゃない!」
馬乗りになって叫んだ。
何度も肩を揺さぶられ、何度も頭が床にぶつかる。
痛い!!頭が割れてしまう!
「や、やめ……やめて、リズ!!」
ふと私を痛めつける手が止まった。
けれど手は床に押し倒したままだ。
「ねえ。助けてくれるって言ったよね?私、レナにお願いがあるの」
「!?」
赤い目がぐるりと回った。
「血をちょうだい」
ああ。ヒトの膜が。剥がれ落ちていく。
「あんたの血はすごく美味しそう!分かるのよ。きっと砂糖漬けのスミレみたいに甘い味がするんだわ!」
「だ、だめよ。……しっかりして」
それは最後の一線だ。
越えてしまったら、きっともう戻れない。
お願い。ヒトでいて。リズでいて。
「ね、一緒に……お医者さんに行こ……もしかしたら方法が……」
「医者!?」
私の提案を聞くと、彼女は体を反らして笑った。
「あはははは!ほんとにレナってバカね!!あたしを助けてくれるのは、もう血だけなの!!この飢えを、痛みを忘れさせてくれるのは!あたし、もう分かってる!!」
その声は絶望に満ちている。
リズは頭がいい。
自分の変化を状況をちゃんと把握できている。
だけど、それでも血を求めずにはいられない。
……吸血鬼になるって、冥使になるって、そういうことなんだ。
私に何が言える?
その苦しみは、到底わからない。
コメント
1件
うわ……ラストの展開、心臓に来ました。リズをやっと見つけた安堵から、あの「友達だもんね?」の赤い目。フレディの警告が全部現実になった瞬間のレナの絶望がひしひしと伝わってきました。それにしても「砂糖漬けのスミレ」って比喩、甘くて美しいのに恐ろしい……。リズの理性と飢えのせめぎ合いが切ないです。次が気になります。