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# 第十五話 『保健室の常連』
入学から二週間。
Sクラスにも、少しずつ日常ができ始めていた。
朝はホームルーム。
授業。
実技。
昼休み。
放課後。
その繰り返し。
しかし、一つだけ変わらないことがあった。
「……またか。」
保健教師が苦笑する。
保健室の扉が静かに開いた。
「失礼します。」
リュシアンだった。
◇◇◇
「熱は?」
「三十七度八分です。」
「魔力切れだな。」
「はい。」
保健教師は慣れた手つきで椅子を勧める。
「横になりなさい。」
「ありがとうございます。」
リュシアンは素直にベッドへ横になった。
魔力は制御できる。
だからといって、身体が丈夫になるわけではない。
生まれつき体は弱い。
昔から変わらない。
◇◇◇
一時間後。
昼休み。
「リュシアン?」
保健室の扉が勢いよく開く。
「やっぱりここだ!」
アルフレッドだった。
その後ろにはレオンハルト。
セシル。
ノエル。
そして少し遅れてエリス。
「また倒れたの!?」
「倒れてない。」
ベッドの上で静かに否定する。
「休憩してるだけ。」
「それを倒れたって言うんだよ!」
アルフレッドは本気で心配していた。
◇◇◇
レオンハルトはベッドの横まで来ると、小さくため息をつく。
「朝、咳してただろ。」
「……少し。」
「少しじゃない。」
鞄から水筒を取り出し、差し出す。
「飲め。」
「ありがとう。」
素直に受け取る。
その様子を見ていた保健教師が笑う。
「君たち、本当に仲がいいね。」
レオンハルトは少し照れたように目を逸らした。
「……幼馴染なので。」
◇◇◇
セシルはベッドの横に椅子を引き寄せる。
「熱以外は?」
「頭痛は?」
「少し。」
「咳は?」
「大丈夫。」
「嘘ですね。」
即答だった。
リュシアンが少し困ったように笑う。
「……ばれた?」
「ええ。」
「咳を我慢する癖がありますから。」
保健教師が驚く。
「よく分かるね。」
セシルは静かに頷いた。
「長い付き合いですので。」
◇◇◇
その頃。
ノエルは部屋の隅で本を読んでいた。
……ように見えた。
実際は違う。
「質問。」
突然、本を閉じる。
「何?」
リュシアンが答える。
「熱がある状態でも魔力循環は九割維持してる?」
「八割くらい。」
「なるほど。」
メモを取る。
「ノエル。」
セシルがじっと見る。
「今は研究より、心配をしてください。」
「してる。」
「どこがですか。」
「原因を調べてる。」
悪びれる様子はない。
アルフレッドが苦笑する。
「それもノエルらしいけどね。」
◇◇◇
エリスは少し離れた場所で立っていた。
「……あの。」
「はい?」
「これ。」
小さな包みを差し出す。
「喉にいい薬草茶です。」
「実家で作ってて……。」
リュシアンは少し驚いた顔をした。
「ありがとう。」
「飲んでみる。」
エリスは安心したように笑った。
「よかった。」
その笑顔を見て、リュシアンも少しだけ笑う。
本当に少しだけ。
◇◇◇
「失礼します。」
保健室の扉が開く。
魔法学担当の教師だった。
「リュシアン。」
「今日の午後の補助授業だが。」
「休みなさい。」
「でも。」
「却下。」
即答だった。
「講師補佐も生徒だ。」
「休むのも仕事だぞ。」
リュシアンは少し考えてから、小さく頭を下げる。
「……分かりました。」
◇◇◇
教師が去った後。
アルフレッドが嬉しそうに笑う。
「今日は休めるね!」
「うん。」
「じゃあ僕たちもここにいる!」
「授業は?」
「……あ。」
しまった、という顔になる。
教室中が笑った。
「アル。」
レオンハルトが肩を叩く。
「戻るぞ。」
「えぇー。」
「リュシアンも授業に出ろって言う。」
その一言で、アルフレッドは観念した。
「分かった……。」
◇◇◇
みんなが保健室を出ていく。
最後にセシルだけが立ち止まった。
「リュシアン。」
「何?」
「今日は。」
「本当に休んでください。」
「……うん。」
「約束ですよ。」
「約束。」
セシルは少しだけ安心したように微笑み、部屋を出た。
扉が閉まる。
静かな保健室。
リュシアンは天井を見つめながら、小さく息を吐いた。
(……みんな。)
(心配しすぎだよ。)
そう思いながらも。
胸の奥は少しだけ温かかった。
前世では、病気で寝込んでも、一人で過ごすことが多かった。
けれど今は違う。
誰かが来てくれる。
誰かが叱ってくれる。
誰かが笑ってくれる。
その温かさが、少しだけ怖くて。
少しだけ嬉しかった。
窓の外では、春風が木々を揺らしている。
穏やかな午後だった。
-–
**第十五話 『保健室の常連』 終**
コメント
1件
第十五話、めっちゃ良かったわ…!リュシアンが保健室で休んでるとこに続々とクラスメイトが来てそれぞれの心配の仕方がキャラ立ってて最高だった。特にセシルの「嘘ですね」即バレからの「長い付き合いですので」がもう…幼馴染の解像度高すぎて泣ける。ノエルは相変わらず研究モードだけどそれも個性で好き。エリスの薬草茶もほっこりした。前世の孤独と今の温かさの対比が胸に沁みたわ。