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# 第十五・五話 『守りたい理由』
*――レオンハルト視点――*
朝。
教室へ入ると、いつもの席にリュシアンが座っていた。
本を読んでいる。
……いや。
読んでいるように見えるだけだ。
(咳を我慢してる。)
幼い頃から見てきた。
少しだけ肩が揺れる。
口元を押さえる。
それでも周りには気付かれないようにする。
昔から変わらない癖だ。
「リュシアン。」
声をかける。
銀色の髪が揺き、藤色の瞳がこちらを向いた。
「おはよう、レオン。」
「調子は。」
「大丈夫。」
……またそれか。
「熱はないのか。」
「ないよ。」
額に手を当てる。
「……レオン?」
「動くな。」
少し熱い。
平熱より高い。
「あるじゃないか。」
「微熱だから。」
「熱は熱だ。」
リュシアンは困ったように笑った。
「心配しすぎ。」
「お前がさせる。」
短く返すと、リュシアンは何も言わなかった。
◇◇◇
一時間目。
二時間目。
三時間目。
授業中も、何度か小さく咳をしていた。
先生は気付いていない。
周りの生徒も気付かない。
だが。
(無理してる。)
分かる。
昔からずっと見てきたから。
◇◇◇
昼休み。
リュシアンの姿が教室になかった。
「……いない。」
嫌な予感がした。
「アル。」
「行くぞ。」
「うん!」
向かう先は決まっている。
保健室。
◇◇◇
やはりいた。
ベッドの上で静かに横になっている。
眠ってはいない。
天井を見つめていた。
「また来た。」
少し申し訳なさそうに笑う。
「またじゃない。」
「無理した結果だ。」
水筒を渡す。
「飲め。」
「ありがとう。」
素直に受け取る。
こういう時だけは、ちゃんと甘える。
(最初からそうしろ。)
心の中でため息をつく。
◇◇◇
保健室を出たあと。
授業へ戻る途中。
アルフレッドが小さく言った。
「レオン。」
「うん?」
「リュシアン、大丈夫かな。」
少し考える。
そして首を横に振った。
「……分からん。」
「え?」
「大丈夫じゃない時も。」
「大丈夫って言う。」
アルフレッドは黙ってしまった。
◇◇◇
小さい頃のことを思い出す。
五歳。
城の庭。
リュシアンが倒れた。
顔色が真っ白だった。
慌てて背負って屋敷まで走った。
その途中。
『ごめんね。』
そう言われた。
謝ることじゃない。
『重いだろうから。』
そんなことを言って笑った。
あの時からだ。
リュシアンは。
助けられる側なのに。
いつも助ける側のことばかり考える。
◇◇◇
放課後。
寮へ戻る道。
一人で歩きながら空を見上げる。
(守る。)
昔から決めていた。
体の弱い幼馴染を守る。
それだけだった。
でも。
今日、保健室で思った。
(違う。)
守りたいから守る。
理由なんて、それだけでいい。
◇◇◇
寮へ着く直前。
前を歩く銀色の髪が見えた。
「リュシアン。」
振り返る。
「レオン。」
「荷物。」
「持つ。」
「え?」
「いいから。」
返事も待たずに鞄を持つ。
「ちょっと、レオン。」
「今日は休め。」
「でも。」
「運ぶくらいできる。」
リュシアンは少し困ったように笑っていたが、取り返そうとはしなかった。
二人で並んで歩く。
夕日が長い影を作る。
静かな帰り道。
その沈黙は、不思議と心地よかった。
(……守る。)
胸の中で、もう一度だけ誓う。
その想いが、いつか恋と呼ばれるものだとは。
まだ、レオンハルト自身も気付いていなかった。
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**第十五・五話 『守りたい理由』 終**
コメント
1件
リュシアン視点のあとでレオン視点が読めるの、ほんとズルいです…😭💕 レオンが微熱も見逃さず額に手を当てるシーン、尊すぎて叫びました。「大丈夫じゃない時も大丈夫って言う」って気づいてるのが深すぎる…幼い頃の背負って走った記憶も相まって、守りたい気持ちが「理由なんてそれだけでいい」ってなる流れ、最高にエモかったです…!まだ恋だと気づいてないレオン、これからどうなるんだろう…続きが待ち遠しいです🌸
818
#すとぷり
成瀬りん
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