テラーノベル
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第二話です最後までお読みください
私が4歳になった頃には、右手の平の『眼』は、普段はただの黒い痣のフリをするようになっていた。 しかし、消えたわけではない。私が嘘をついたり、前世の知識を使って楽をしようとしたりするたび、皮膚の下で微かに、あの粘膜が擦れ合うような「ぬるり」とした感触が蠢くのだ。 100回目の人生は、田舎の静かな農村で始まった。 過去の人生で、私は大科学者だったこともあるし、最強の剣士だったこともある。だから、農作業の手伝いや、村の子供たちの幼稚な遊びなど、あくびが出るほど簡単にこなせた。周囲の大人は私を「神童」と呼んで持て囃したが、私はただ、この100回目の肉体が寿命を迎えるのを静かに待つだけのつもりだった。 あの夜が来るまでは。 夏の寝苦しい夜だった。隙間風が鳴る古い木造の子供部屋で、私は薄い布団に横たわっていた。 ふと、奇妙な視線を感じて目が覚めた。同時に、寝室の空気が、まるで真夏に放置された生ゴミのような、鼻を突く饐(す)えた臭いに満たされていることに気づく。 私は寝返りを打ち、何気なく部屋の隅の天井を見上げた。 暗がりのなかに、何かがある。 天井の木目のシミではない。それは、天井の角のわずかな隙間から、にゅっと突き出た人間の生首だった。 逆さまにぶら下がったその頭部は、長い髪をだらしなく垂らし、肌は土気色に腐りかけている。 私はその生首の「顔」をよく知っていた。忘れられるはずがなかった。 あれは、私の第12回目の人生のときだ。 当時、ある国の密偵だった私は、任務のために親友だった男を裏切り、敵国に売った。男は捕らえられ、無惨に首を撥ねられた。あの生首は、間違いなく私が保身のために見捨てた、かつての親友の顔だった。「……み……つけた……」 生首の、割れて乾いた唇が小さく動いた。 それは幽霊などという生易しいものではなかった。世界のバグによって、過去の私の罪が、そのまま実体化してこの時代に這い出てきたのだ。 ゾクリ、と右手の平が激しく脈打った。 見ると、手の平の痣がベリベリと音を立てて裂け、中から血塗れの眼球がパチリと開き、天井の生首をじっと見つめ返している。私の右手が、あの生首をこの部屋へと引き寄せる「磁石」にでもなっているかのように。 生首は、天井の隙間からズズ……と、さらに這い出てこようとした。 首の下には、引きちぎられたばかりのような生々しい肉の断面が見えた。切断口からドロリとした黒紫色の凝固しかけた血が溢れ、糸を引きながら畳の上へとポタポタと滴り落ちる。 バキバキと骨が鳴るような音が響き、首の断面から、不揃いな太さの「赤い肉の触手」のような神経の束が何本も伸びてきた。それが、重力に逆らって、壁を這う蜘蛛の足のように、壁を引っ掻きながらこちらへ近づいてくる。ズブズブと肉が擦れる不快な音が、静かな部屋に響き渡った。 私は恐怖に震えながら、布団を頭から被り、ただ朝が来るのを祈るしかなかった。 すべてを経験し、すべてを知り尽くしたはずの私。しかし、100回目の人生にして初めて、私は「未知の恐怖」に、ただガタガタと震えるだけの無力な子供に戻されていた。 翌朝、目が覚めると生首は消えていた。畳の上には、赤黒い、異臭を放つシミだけがべっとりと残されていた。 しかし、朝食の席で私を呼ぶ母親の顔を見た瞬間、私の心臓は再び凍りついた。 母親の右目の横に、昨日まではなかった、見覚えのある「小さな黒子(ほくろ)」がぽつりと浮かび上がっていた。 それは、第12回目の人生で私が裏切った、あの親友の顔にあった黒子と、まったく同じ位置だった。(……何だが、混ざり始めている)
コメント
1件
読了したよ〜!😱💦 前世の罪が実体化して襲ってくるって発想がもう怖すぎる…。特に天井から覗く生首、裏切った親友の顔ってのがグッとくる。ラスト、お母さんの顔に黒子が現れて「混ざり始めている」って一文で背筋凍った…!次が気になりすぎて眠れないよ😭✨ 続き楽しみにしてるね!
榎本くもり
11,214
Sea Otter2026
38
NAL
97