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榎本くもり
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Sea Otter2026
38
NAL
97
投稿頻度はまぁまぁなのでまぁ、、、
楽しみにしていただければ嬉しいです
私が7歳になる頃には、我が家の食卓は「地獄の底」のような悪臭を放つようになっていた。 原因は、母親だった。 4歳の時に彼女の顔に浮かんだ小さな黒子は、年を追うごとに、まるで生き物のように周囲の皮膚を侵食していった。今や母親の顔の右半分は、どす黒く変色し、死後数週間が経過した死体のようにぶよぶよと腐り落ちかけている。「ほら、お食べ。お前の大好きなスープだよ」 母親が微笑む。しかし、その笑顔はあまりにも奇怪だった。 彼女の右側の唇はすでに崩壊しており、剥き出しになった歯茎と、黄色い膿にまみれた顎の骨が覗いている。喋るたびに、隙間からドロリとした濁った唾液が溢れ、食卓の上の皿へとポタポタと滴り落ちた。 強烈な腐敗臭が鼻を突く。だが、父親にはこの異常が見えていない。「おい、本当に母さんの料理はいつも美味いな」と、狂ったように笑いながらスープを啜っている。(……間違いない。あれは、私の第12回目の人生の『彼』だ) 私は吐き気を堪えながら、スプーンを握る右手を凝視した。 手の平の『眼』は完全に肉に定着し、今では私の意思とは無関係にまばたきを繰り返している。この眼が、過去の犠牲者の肉体をこの世界に引っ張り出し、私の現在の母親に「混ぜて」いるのだ。 ある夜、私は激しい水音で目を覚ました。 台所から、ベチャベチャと肉を叩きつけるような、不快な音が響いている。 私は足音を忍ばせ、廊下の陰から台所を覗き込んだ。 月明かりの中、母親が立っていた。彼女は自分の顔に手をかけ、狂ったように皮膚を掻きむしっている。「ちがう、これじゃない、わたしの顔は、これじゃない……」 母親の爪が皮膚を裂き、肉を削ぎ落とす。ベリベリと生々しい音を立てて、彼女自身の健康な皮膚が剥がされ、床に血塗れの肉片となって転がっていく。 むき出しになった真っ赤な肉の奥から、ズブズブとせり出してきたのは――かつて私が裏切った男の、青白い『耳』だった。 母親の頭部に、他人の腐った耳が、肉の繊維を絡ませながら強引に融合していく。 その結合部からは、泡立った黒い血が止めどなく溢れ、彼女の首筋を濡らしていた。 恐怖で足がすくんだその時、母親の首が、人間の可動域を超えて真後ろに「バキリ」と折れ曲がった。 血と膿に濡れた顔が、まっすぐに私を捉える。「ねえ、見て。少しずつ、あの子に近づいてる?」 それは母親の声ではなかった。 かつて私が奈落の底へ突き落とした、親友の、怨みに満ちた男の声だった。
コメント
1件
読み終わりました……めちゃくちゃ不気味で、でも引き込まれました。母親の顔が崩れていく描写の生々しさと、手のひらの“眼”が過去の犠牲者を混ぜてしまうという設定の禍々しさが、もう胸にグサグサ刺さります。特にラストの「親友の怨みに満ちた声」が母親の口から出てくる瞬間、背筋が凍りました。第12回目の人生って何だろう……また一つ、深い謎が増えましたね。続きが気になります!