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下野国 祇園城 小山晴長
羽生城の兵が館林の村を襲撃し、民家の一部が燃やされた。
きっかけは羽生と館林の民による些細な喧嘩だったという。喧嘩に敗れた羽生の民が有る事無い事を羽生城主の木戸範実に陳情し、それを本気にした範実が息子の広田直繁に命じて兵を動かしたらしい。
館林の赤井若狭守重秀からしたら当然寝耳に水の襲撃だ。慌てて兵を出してなんとか追い払ったが、領地を荒らされてしまった。
そして村を襲った羽生兵の言い分に違和感を覚えた館林の領民が彼らから話を聞き出したところ事態が発覚。そのことを知った重秀は激昂し、件の民を引き渡すように要求したが、範実は自身の非を認めたくないのかこれを拒絶したというのだ。
「で、若狭守がそれに怒って富岡とともに羽生城を攻め落としたと」
「はっ」
ほぼ一日半の出来事だったらしい。事後報告なのは別として、武蔵の羽生城が落ちたか。
羽生城は山内上杉領と古河を結ぶ交通の要衝。新田金山を失った山内上杉にとって重要な土地だった。間違いなく憲政は奪還を目指してくるだろう。
どの道、山内上杉対策は必要だった。小山の立場を考えれば憲政と憲氏を分断できたことは運が良いと言える。但し、完全に分断するにはどうにかしないといけない勢力がいる。忍城の成田家だ。
北武蔵有数の勢力を誇る成田は最近当主が下総守長泰に代わっていた。本来ならば成田の調略を始めるつもりだったが、先に羽生が落ちたことで調略の難易度は上がりそうだ。
「成田への調略はすぐおこなうことにしよう。手間はかかるがな」
赤井と木戸の小競り合い自体は先に相手側が手を出してきたので抵抗するなとは言わないが、報告が遅れたことについては厳重注意だな。とはいえ、山内上杉方の羽生城を落としたのは軽率な行動とも言えなくはない。
「さて、山内上杉も動いてくるだろうな。こちらも事態に備えるぞ」
「はっ」
段蔵らが山内上杉の動向を監視する中、五郎と網戸四郎は忍城へ足を運び、長泰の調略をおこなっていた。
だが調略している最中、山内上杉は羽生城奪回に向けて動き出す。白井長尾家当主孫四郎憲景を総大将にした一五〇〇の兵が忍城に進軍し始めた。憲景は初名を景房といい、暗殺された白井長尾景誠の後継に選ばれた人間で、家宰ではないが山内上杉内部では有力な一族のひとりだ。
「赤井は結局こちらに泣きついたか」
羽生城を落とした赤井は憲政が兵を差し向けてきたことを知ると小山家に救援を求めてきた。こちらが羽生城が古河への交通の要衝だったことを教えると使者は顔を青白く染めて事態の深刻さを悟った。
一国人同士の争いならば大事にはならなかっただろうが、赤井がやったことは大勢力間の最前線での衝突だ。しかも重要な拠点だったので尚更。
とはいえ、赤井を見殺しにするつもりもせっかく落とした羽生城を引き渡すつもりも更々ない。
「中村日向守、二〇〇〇の兵を率いて敵を迎え討て」
「はっ、かしこまりました」
続いて五郎を呼び寄せる。
「成田の首尾はどうだ?」
「下総守殿は小山への恭順に乗り気でございます。ですが、まだ説得に時間を要するかと」
「さすがに今回には間に合わなかったか。忍城は堅固ゆえ、あまり攻めたくはないんだがな」
だが山内上杉の兵が忍城を拠点にするようなので一度調略は中断するしかない。五郎はこのまま継続させてほしいと訴えてきたが、五郎も優秀な忍びだ。無理して失いたくはない。俺は五郎に調略の一時中断を伝える。
「いいか、今回の目的はあくまで羽生城の防衛だ。深追いは避けるようにせよ」
「御屋形様、赤井の処罰はいかがなさいましょう」
中村時長の言葉に家臣の注目が集まる。元々従属勢力には行動の制限はしてこなかったが、今回は山内上杉との対決という事態が発生し、小山家が出陣することになった。事態の大きさを考慮して何かしらの罰を与えなければ示しがつかない。
「まあ、戦の結果次第だな。先に罰の内容を考えるのは油断し過ぎよ」
「これは失礼しました」
「だが何かしら赤井には下すつもりだ。安心せよ」
輝子には悪いが、赤井は小山に従属した意味を理解していないと見える。本来ならば城を攻める前にこちらに報告を入れる必要があった。
もちろん先に手を出してきた木戸範実が悪い。黙ってやられるわけにはいかなかった赤井の気持ちも理解できる。だが赤井はもう独立勢力ではないことを理解するべきだった。
従属勢力ならば好き勝手動くべきではないのだ。
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