「おやおや、ヴァンパイアでなくて狼少女だったんだね」
にやにや笑う先生に、マリアはムッとする。
確かに見た目はシェパードの仔犬の様だが、毛並みは緩く真っ白で神秘的ではあった。
「あなたの…」
「あなたじゃなくて…
俺は四条穂高(しじょうほだか)。好きに呼んで良いよ?」
「馬鹿にしてますね…。四条先生の言う通り…
私はヴァンパイアなんです…」
「ん?犬にもなるの?」
「狼ですって!コウモリや狼に変身できるんですよ、私たちは…。ただ血が足りなくてこんな弱々しい見た目なのですが…」
マリアはしゅん、と項垂れる。
そんなマリアを見つめて穂高は口角を上げた。
「俺の血で良かったら飲むかい?」
「えっ…?」
「ただし、犬の歯は痛そうだから人間の姿に戻ってね?」
マリアは信じられなかった。
しかしそんな事も言ってられない。食事にありつける絶好のチャンスだからだ。
言われた通り力を振り絞り元の姿に戻り穂高を見つめる。
「本当に…良いんですか…」
「勿論。いつでもどうぞ?」
穂高は頭を横にして首筋を露わにして吸いやすいようにした。
マリアは堪らず穂高の膝上に乗り、肩に手を置くと首筋に牙を立てた。
チュウチュウと音を立て夢中で吸うマリア。
身体の中に熱いものが広がっていき力が湧いていくのが分かる。
ハッとして口を離し穂高の様子を見る。
相当飲んでしまって心配そうにするが、穂高の表情を見てキョトンとしてしまう。
穂高は意地悪そうにニヤニヤしていた。
「あの…」
「美味しかった?」
言葉を遮られ感想を求められた。
マリアは小さく頷く。
「結構大胆に吸い付いたね、誰も来なくて良かったねぇ?」
自分の体勢に初めて気付いて直ぐに離れる。
その頬は赤くなっていた。
「あ、ありがとうございます。
その…私がヴァンパイアって事は黙っていてくれませんか…?」
「良いけど…」
マリアは胸を撫で下ろす。
「条件があるなぁ」
「!?」
「これから俺以外の血は吸っちゃダメ。
それが守れるなら黙っていてあげる。」
人差し指を立ててニヤニヤと笑う穂高にマリアは目を丸くした。
「なん…っ」
「出来るよね?マリアちゃんにとっても好条件なんじゃないかな?好きな時に食事出来る相手がいて、学校生活も難無く送れるんだよ?」
確かにそうだが…腑に落ちない。
しかしまた転校という訳にもいかない。
家探しや備品を買ったり、引越し屋に頼むのにもお金は必要…
いや、お金は沢山あるから大丈夫だけれどリオに申し訳無い。
この四条穂高の言いなりになるのは癪だが仕方ないのか…
そう思いマリアは立ち上がって、座っている穂高を見下ろす。
「…絶対ですね?
誰にも言わないでいてくれるんですよね?」
「言わないよ、俺は口が堅い方だからね
安心して。マリアちゃん」
マリアは少しホッとする。
いざとなれば自分の力で…出来ることもある。
そうならない様、マリアは祈るしかなかった。
「先生、
…先生はいつも生活準備室にいるんですか?」
「基本的にはね。
夜ご飯は…どうするの?」
ふ、と小さく笑い穂高はマリアを見上げる。
「夜は…トマトジュースで……」
「くすくす…可愛いね」
「!!」
柔らかく笑う穂高にマリアは頬を染めてしまう。
気付かれないよう、踵を返して扉へ向かう。
「じ、じゃあこれからよろしくお願いします…っ」
ぴしゃりと準備室から出ていき歩いていく音が遠ざかる。
穂高は吸われたところに手を当てて、ふ、と笑う。
「本当に可愛いなぁ…」
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