「世良さん、おめでとうございます」
「明石くん、ゆずきさん、今日は来てくれてありがとう」
マナは俺らと話している世良さんの後ろに隠れて前に出てこようとはしなかった。
「世良さん、ちょっとお話が――いいですか?」
ゆずきは、どういうつもりかわからないけど、世良さんに声をかけていた。
「そうだね。私も話があったんだ」
世良さんは俺とマナを見ながらそう言った。そしてゆずきと世良さんは2人で話しながら歩いて行ってしまった。残された俺とマナは目を会わせると互いに照れ臭そうに笑った。
「元気か?」
「うん」
「結婚式の準備は順調か?」
「うん」
「新しい新居には慣れたか?」
「うん」
「世良さんとは上手くやってるのか?」
「うん」
「ホント久しぶりだな?」
「うん」
「俺に会いたかったか?」
「うん」
「ホントかよ?」
「うん」
「どうして?」
「うん」
マナは俺が質問している間、俺から目を離すことなく、ずっと見つめていた。
「答えになってないだろ!」
「うん」
「いなくなって初めて俺の存在の大きさに気づいたか?」
「うん」
「そこは“うん”って言ったら駄目だろ。好きってことを認めることになるだろ」
「うん、認める――」
「―――――」
会場の話し声と全ての雑音が俺とマナの周りから消えてなくなってしまったかのように思えた。
「今さらだよね」
「そうだな。でもそれは、お互い様だよな」
そう言葉を交わした俺とマナは、微笑んで見つめ合っていた。何も言わず、ただ見つめ合った。時間が止まっているような感覚で、時間を忘れて見つめ合った。
「圭太――」
「マナさん――」
俺とマナを同時に呼ぶ声のする方を向くと、ゆずきと世良さんが近くに立っていた。
「マナちゃん、行こう」
「はい」
すると世良さんはマナの手をとり、ステージに向かって歩いて行った。
「ゆずき――」
「マナといる時の圭太、とっても嬉しそう。それはマナにも言えることだけど」
ゆずきは少しばかり嫌味っぽく言っていたけれど、どこか悲しげだった。
「そんなことないって! 気のせいだろ!」
「圭太、ずっとマナに会いたかったんでしょ? 会えて良かったじゃん!」
「何だよその言い方――勝手に決めんなって! それに、そんなに俺にマナを会わせたくないんだったら、こんなところ連れて来るなよ! 俺を試すようなことをするなって!」
「私が気付かないとでも思ってたの? 圭太、私と一緒にいても、いつもマナのことを考えてる。私を抱いてる時もマナを思いながら私としてる。私はマナの代わりじゃないから!」
「1度だってゆずきをマナの代わりだなんて思ったことはない。マナのことなんて考えてない。いつも考えてるのはゆずきのことだ。ゆずきがマナのことで苦しんだり不安になったりしていないか、いつも心配で仕方なかった。ゆずきをそんな気持ちにさせないように俺はしてきたつもりだ。ゆずきのことを本気で好きで、一緒にいたいからそうしてきたんだ。だからもう、マナのことで苦しむなって! ホントに俺はゆずきしか見てないから」
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