「俺たちがこうしてる間も働いてくれてる人はいる。皆それぞれだ。足並み揃えて〝同じ〟になろうとしなくていい。正月らしい事を……って言うんなら、俺たちなりのやり方で新年を祝ってるんだから、それでいいだろ」
「……そうですね」
私たちは、私たちのやり方でいいんだ。
今までずっと、周りにいる〝普通〟の人と違う事に悩んでいた。
昭人とデートしても、彼と自分の価値観の違いに、何とも言えないもどかしさを覚えていた。
昭人がつまらなさそうに家族の文句を言っているのを、再婚家族でギクシャクしている私は『そうなんだ』としか言う事ができなかった。
けれど尊さんとなら、何もかもがぴったり合う。
――もう背伸びして〝普通〟のふりをしなくていいんだ。
そう思うと、物凄い安心感がこみ上げる。
「来年もこうやって、のんびり過ごすぞ」
「そうですね」
私は身も心も安らげる場所を、ようやく見つけられたのかもしれない。
そんな感じで、私たちは仕事始めになるまでゆっくり過ごした。
が、日常に戻る前に、一月六日に決着をつけなければならなかった。
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一月六日、私たちは午前中には外出して、件のホテル――パークウェルティーズ東京に向かった。
十四時にラウンジカフェで集合……だったけれど、それは〝時限爆弾〟の時刻だ。
その前に関係者で顔合わせをして、段取りをしておく必要があった。
センシティブな話だから個室で……という事で、同ホテルの和食レストランの個室に入ると、すでに風磨さんとエミリさんがいた。
「あけましておめでとうございます」
全員で挨拶をしたあと、年末年始に何をしたかなど簡単な報告をする。
風磨さんは篠宮家の新年の挨拶には出席したらしいけれど、それ以外はエミリさんと過ごしていたようだ。
確かに、皆が皆、実家に戻って家族と年末年始を過ごすわけじゃないみたいだ。
そして約束の時間の十分前に、三ノ宮春日さんが現れた。
「あけましておめでとうございます。そして初めまして。三ノ宮春日と申します。このたびは素敵な企みにご招待くださり、光栄です」
そう言って微笑んだ春日さんは、エミリさんとはまた別の系統の美人だった。
清潔感と透明感があり、美人アナウンサーみたいな雰囲気だ。
彼女は品のいいネイビーのワンピースを着ているけれど、シンプルなデザインながらとてもシルエットが綺麗で、どこかのブランドの物だろう。
艶のあるロングヘアはハーフアップにして、アレクサンドル・ドゥ・パリのヘアアクセサリーで留めている。
所作の一つ一つが丁寧かつ綺麗で、「お嬢様ってこういう人の事を言うんだな」と見とれてしまった。
(……でも怜香さんは風磨さんに、この人と結婚しろとごり押ししているんだ……)
チラッとエミリさんを見ると、秘書らしく感情をセーブしているけれど、ほんの少し緊張しているのが分かった。
私たちは春日さんを上座に座ってもらい、あとは向かい合って座る。
料理が出される前に、私たちは肝心な話をする事にした。
「ひとまず、簡単に自己紹介を」
風磨さんが言い、まずエミリさんの事を秘書であり恋人だと紹介した。
春日さんはまったく動じず、微笑んで会釈する。
そのあとに継弟の尊さんと、婚約者として私が紹介された。
「まず、謝罪いたします。僕は春日さんとは結婚できません」
風磨さんが立ち上がり、深く頭を下げる。
緊迫した空気になると思いきや、春日さんはクスクス笑って彼を制した。
「やめてください。私だってそんなつもりはなかったんですから」
軽く笑い飛ばされ、風磨さんは安心したような表情で顔を上げる。
「失礼ながら、両親から風磨さんの話をされて、て少し〝調べ〟させてもらいました。秘書のエミリさんとは、周囲から『結婚秒読み』と言われている状態。お父様の亘さんは経営者としては一流だけれど、一人の男性としては少し問題あり。お母様の怜香さんは、夫の過去の女性に激しく嫉妬し、継子の尊さんにきつく当たっている……」
リアルな篠宮家の事情をズバリと言われたが、事実なので誰も否定しない。
「……まぁ、少し考えたら分かりますよね。怜香さんは自分の息子のために〝いい相手〟を用意しようとした。そして気に食わない秘書さんは、どうでもいい継子に宛がおうとしたのでしょうね」
わああ……。この人もかなりズバズバ言うタイプだ。