テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
しばらく、誰も話さなかった。
翠は顔を覆ったまま、肩だけが小さく揺れてて。
呼吸も、うまく整わない。
「……俺」
かすれた声。
でも、今回は──止まらなかった。
「……辛かった」
その一言で、部屋の空気が一段深く沈む。
「……ほんとは、ずっと」
指の隙間から、涙が落ちる。
「自分も殴られてたし、蹴られてたし、
毎日しんどかったのに……」
喉を鳴らして、必死に息を吸う。
「誰も、見てくれなかった」
その言葉が、静かに突き刺さる。
「先生も、クラスも、
“いないみたい”で……
俺、ずっと一人だった」
赫が、息を呑む音がした。
翠は、震える声のまま続ける。
「……赫ちゃんがさ」
少しだけ顔を上げる。
「心配されてるの、見てると…… 羨ましかった」
赫の名前を出した瞬間、
黈が一瞬だけ目を伏せる。
「みんなが、赫ちゃんの話して、
大丈夫かって聞いて、
笑わせようとしてるの見て」
翠は、ぎゅっと目を閉じた。
「いいなって、思っちゃった」
自分を責めるみたいに。
「……最低だよな」
赫が、即座に言う。
「違う」
でも、翠は首を振る。
「だからさ……
赫ちゃんが笑ってるなら、俺はいいって」
その言葉に、桃が息を詰まらせる。
「俺が殴られても、
俺が壊れても」
声が、泣き声に近づく。
「赫ちゃんが普通に笑って、
家に帰れてるなら……
それでいいって、言い聞かせてきた」
ぽろぽろと、涙が止まらない。
「俺が我慢すれば、
全部丸く収まるって……」
最後は、ほとんど叫びだった。
「でも……
ほんとは、助けてほしかった……!」
その瞬間。
赫が、翠を抱きしめた。
強く、逃がさないみたいに。
「……ばか」
声が震えてる。
「そんなの、知らねぇよ……。言えよ……」
翠の肩に顔を埋めて、赫は続ける。
「俺、翠にぃが羨ましがってたなんて、
考えたこともなかった……」
黈も、そっと背中に手を置く。
「翠、これからさ、ちゃんと辛かったって言って」
優しく、でもはっきり。
「今まで一人だった分、
これからは一人にせんから」
瑞も、ぎゅっと腕を掴む。
「翠にぃ……
瑞、気づけなくてごめん……」
桃は、声を絞り出すように。
「……守れてないの、俺だ」
茈は短く、でも重く。
「一人で背負わせすぎたな」
翠は、赫の服を掴みながら、
子どもみたいに泣いた。
「……俺、ほんとは……
生きてていいって、言ってほしかった……」
その言葉に、
赫はすぐ答えた。
「いいに決まってんだろ」
即答。迷いゼロ。
「俺の自慢の兄だぞ」
ぎゅっと、抱きしめ直して。
「生きてていい。
苦しくていい。
助けてって言っていい」
翠は、声にならない嗚咽を漏らす。
でもその涙は───
もう、一人の涙じゃなかった。
コメコパァァン